青年の旗 1979年6月1日 第28号
【主張】 七九春闘の総括と労働運動の課題
<五連敗を阻止しえたか?>
七九春闘での全体の平均賃上げ水準は、金額で一万円弱、率で六%弱となった。これを昨年と比較すると、金額でやや上回り、率ではほぼ同水準となっている。
この賃上げ水準は、政府発表の過年度消費者物価上昇率推定三・四%を上回るため、年間物価上昇率さえ下回った過去四年間の春闘と比較すれば、実質賃金の維持に成功したものとして一応の評価ができよう。
にもかかわらず、この結果をもって春闘五連敗を阻止し、日本の労働運動再建の足がかりをつかんだというような声がほとんどあがってこないのはなぜか。
第一に、今年の賃上げ水準は、政府調べの物価上昇率を上回ったものの、総評の家計調査での五~六%と比べればほぼトントンである。さらに、今年の物価は、公共料金の軒並み値上げや卸売物価の高騰に示されるように、賃上げ水準をはるかに上回ることが予想されるため、この程度の賃上げでは、今秋にも実質賃金の低下を来しかねない。
第二に、「管理春闘」「財界・政府側からの″逆春闘”」(朝日新聞)といわれているように、日本型所得政策による低位平準化が今春闘でも貫徹した。昨年までと違い産業別・業種別格差が縮小した分だけ、資本の”管理相場”波及がさらに強まった。大企業が前期比十数%増の史上最高の利益をあげていることと対比すると今春闘はいかに低額で抑えられたか、一層明白である。
第三に、造船のJCからの脱落や全電通の公労協統一闘争からの脱落などに見られるように労働陣営内の分岐が深まったことに加えてストなし春闘が拡がり、闘う力はむしろ後退した。ストに突入した私鉄、公労協でも幹部はストなし解決を画策し、短期収束を許すこととなった。すでに、昨年のスト件数は一昨年の半数以下と激減したが、今年はさらに減少したのではないかと思われる。
第四に、週休二日制、定年延長、雇用創出機構の設置など雇用不安解消のための制度、政策闘争は全くといっていいほど前進しなかった。
今春闘で露呈された以上の問題点からみれば、七九春闘で五連敗を阻止しえたといえる状況にはなく、実質的に連敗記録を更新したといった方がより正確な評価になる。
しかし、七九春闘を総括するに当って大切なことは、勝ち負けを論じることでないことはいうまでもない。
過去四年間と違って、”好況下”という有利な条件があるにもかかわらず、この有利な条件を生かせず、政府、財界の低額″管理相場″の貫徹を許したのか、なぜ企業エゴ、企業主義がさらに拡がったのか、このことが今真剣に問われている。八十年代の労働運動の階級的再構築に向けて企業主義との対決は避けて通れない決定的重要課題となっている。
<真の産別自決に向けて企業主義を克服しよう!>
低成長時代に入り、春闘での相場形成力が弱化、高位水準化から低位平準化に転換したことにより、パターンセッター的リーダー組合が機能しなくなった結果、春闘共闘委を中心に産別自決方式がここ二、三年提唱されてきた。
しかし、この産別自決は、海員組合や私鉄を除けば産別統一闘争の基礎を欠いたものであったため、結局は企業別自決に堕し、個別企業の支払能力の枠内で賃金が決められるという賃金決定方式を許す結果となった。企業別労働組合を前提にした産別組織の強化路線は、自決にふさわしい産別組織の強化、賃金・労働条件での統一水準づくりの努力を抜きにしてはありえない。
私鉄総連なみの産別統一交渉、統一ストはそのための前提条件である。雇用不安がますます企業主義の浸透を招いているため、企業意識を克服し、階級意識を育成できるような産別組合への転換に向けての賃金政策、組織方針が今こそ大胆に打ち出さねばならない。
この際、とくに強調されるべきは、労働者政党の果す役割である。わが国のように企業別組合に組織され、崩れつつあるとはいえ年功賃金、終身雇用が保障されている労働者の場合、自然発生的には、イギリスのような組合主義的レベルでの階級意識にさえ到達しにくい状況にある。それだけ労働者政党が労働組合レベルでも労働者階級的戦闘性が育つような、意識的な活動が必要である。とくに大手民間企業での職場からの労働組合の再建のための活動が急務となっている。
その意味でも、統一地方選優先という方針のもとに七九春闘の闘いに水を差した社会党、共産党の議会主義的誤りは厳しく責められねばならない。
<右翼再編許さず、真の労線統一に向けて>
七九春闘の中で労線統一論議が再び活発になっている。中立労連と新産別の「全国労働組合総連合」の発足も、労線統一運動に拍車をかけている。
しかし、現在進められている、「国際自由労連支持」「労働組合主義」を二本柱とする民間先行方式の労線統一運動は、スト否定主義と反共主義を内包しており、真の労線統一に結びつかない危険性をもっている。