【投稿】トランプ脱税と租税回避--経済危機論 (31)

<<億万長者が所得税ほとんど払わず>>
9/28、ニューヨーク・タイムズ紙は、億万長者と自称するトランプ氏が、米大統領となった2017年に支払った所得税はわずか750ドル(約7万9000円)しか支払っていない、2016年もそうであった、当選前の15年間のうち10年は所得税をほとんど支払っていなかったと、衝撃的な事実を暴露した。これは、法的に許可された情報源から入手したもので、20年間のトランプ氏の納税申告書の10,000語の要約を公開したものであるという。
 その脱税・節税の手口は、例えばトランプタワーの自らの居室・家族の居室すべてがオフィス扱いで経費に計上、フロリダやニュージャージーの居宅もビジネス用施設
に計上、プライベートジェット飛行機や別荘の利用、あのヘアカット代がテレビ出演のためとして総額7万ドル(740万円)とか、娘のイヴァンカ氏は、ファミリー企業の役員であるにもかかわらず、その企業から74万7000ドル(約7800万円)がコンサルティング料として支払われ、それも個人所得ではなく自らの財産管理会社の収入にして費用と相殺する、自らの所得から支払われるべき個人的な費用まですべて経費にぶち込む、等々、詐欺的手法、手口のあくどさは、ずるがしこい富裕層ならだれでもやっていることといえばそれまでであるが、トランプ氏の場合はその上に、ゴルフコースで3億ドル以上、ホテル事業で5500万ドル以上など次から次へと巨大な事業損失を計上して、課税所得を徹底的に相殺してきたのである。しかも、トランプ氏はこうした実態が表面化するのを回避するために、歴代大統領らの慣行に反し、納税申告書の開示を拒否している。
ニューヨークタイムズ紙はまた、トランプ氏が大統領に就任して以降も、フィリピンからの300万ドル、インドからの200万ドル以上、トルコからの100万ドルを含む数百万ドルの海外ライセンス取引を獲得し、その過程で彼と彼の企業はフィリピンに157,000ドル近く、インドに145,000ドルの税金を支払っている、という。同紙は、今後もさらに多くの事実を発表することを明らかにしている。
トランプ氏はこうした報道に対して直ちに、「完全なフェイク(偽の)ニュースだ」「でっち上げ。フェイク、“多額の”税金を納めた」「数百万ドル(数億円)を支払った」と声を荒げているが、その証拠も示せず、肝心の納税申告書の開示については、税務当局と係争中のためとしてあくまでも拒否している。
「完全なでっち上げ」なら、これまで度々してきたように、直ちにニューヨークタイムズに対して、名誉毀損訴訟や、予告されている今後のさらなるレポートに対して裁判所の差し止め命令を訴え出ないのか、できないのであろう。

<<「衝撃中の衝撃!」>>
民主党左派のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員は、「私は“バーテンダーとして”、2016年と17年にそれぞれ数千ドルの税金を納めた。トランプの納税額は750ドル。私たちのコミュニティーを財政面で支援することにおいて、彼の貢献度はウェイトレスや不法移民より低い」「トランプは自分自身のこと以上に、私たちの国のことを考えたことがないのだ。詐欺師が歩き回っている(A walking scam.)」とツイートしている。
同じくバーニー・サンダース上院議員も「衝撃中の衝撃! 自称“億万長者”のドナルド・トランプは過去15年のうち10年、内国歳入庁(IRS)から7290万ドルの税還付を受け、連邦所得税を収めていなかっ

トランプの税金は、教師や看護師、不法移民労働者よりも低い(9/29 コモン・ドリームズ

た」「そう、トランプは自分自身のためには企業社会主義を、他のすべての人のためには資本主義を“愛している”」とツイート。

やはり民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員は、さらに進んで、「ドナルド・トランプはうそつきで、詐欺師であり、曲がったビジネスマンです。しかし、彼はまた、彼のような人々が彼のしたことをするために構築された、壊れた、腐敗した、不平等なシステムを利用しています。」と述べ、根本的に腐敗したシステムへの変革を求める広範な怒りを表明している。
そう、問題なのは、そもそも超富裕層や独占企業・金融資本に、このようなばかげた抜け穴を提供するシステムそのものにあるということである。トランプ氏の手口は際立ってはいようが、決してユニークなものではない。しかしトランプ氏は、2017年に大統領に就任して以来、徹底して米国の税制を超富裕層や独占企業・金融資本にとってさらに有利なもの、彼らへの規制緩和と減税、99%の庶民への犠牲転化と、社会保障・セーフティネットの切り崩しを推し進めてきた過程の中で、このトランプ脱税が浮上したのである。
このトランプ脱税が、11/3の米大統領選に向けた、9/29の初のテレビ討論会(3回ある)直前に暴露されたことの意義は極めて大きいと言えよう。
民主党の大統領選候補・バイデン氏は、この討論会直前、妻のジル(Jill Biden)夫人と共同で内国歳入庁(IRS)に提出した納税申告書を公開、バイデン夫妻は2019年、29万9346ドル(約3200万円)の連邦所得税を納めている。さらに、副大統領候補のカマラ・ハリス(Kamala Harris)氏と夫のダグ・エムホフ(Doug Emhoff)氏の納税申告書も公表、夫妻の2019年の所得は320万ドル(約3億4000万円)で、納税額は118万ドル(約1億2400万円)であった。民主党候補者もやはり富裕層を代表していることをはしなくも明らかにしているが、問われるのはその税制をも含めた政策であろう。
バイデン陣営は、トランプ氏の納税額の少なさに焦点を当てたデジタル広告を作成、「小学校教諭76万円、消防士56万円…ドナルド・トランプ7万9000円」「裕福であるほど弁護士を雇って税を逃れられる」不公平さを前面に押し出している。
「公平な是正を求めるアメリカ人」(Americans for TaxFairness)のエグゼクティブディレクターであるフランク・クレメンテ(Frank Clemente)氏は「抜け穴を塞ぎ、脱税を取り締まり、脱税を防ぐ公正な株式税制を作る必要がある」と述べると同時に、サンダース氏や民主党上院議員キルステン・ジリブランド(Kirsten Gillibrand )とエド・マーキー(Ed Markey)議員らが提起している法案の重要性を強調している。それは、この間のパンデミック危機と経済危機の間に、億万長者が作った極端な富の利益の半分以上を取り戻す、アマゾンのジェフ・ベゾス氏をはじめとする億万長者への課税法で、3月18日から今年の終わりまでの間に億万長者の利益のみに60%の一時課税を課すことを提案しているものである。これだけでも約4,200億ドルを調達できるという。
もちろん、根本的に問われているのは、緊急課税にとどまることなく、脱税と租税回避を許さない、民主的な富の再分配に基づく税制の抜本的改革であろう。ここでも、ニューディール政策が問われている。日本においても同じ事が問われている、と言えよう。
(生駒 敬)

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