【投稿】新自由主義が旗印の菅新政権の経済政策

【投稿】新自由主義が旗印の菅新政権の経済政策

                               福井 杉本達也

1 「自助・共助・公助」の新自由主義が旗印

9月16日菅新政権が誕生したが、読売新聞の世論調査では74%の支持率という。何も具体的な政策を出していないのだから、10日程度で新聞のヨイショ記事のようには政権の評価が定まるわけもないが、菅氏の自民党総裁選での言動や会見、これまでの人的関係から今後の政策を推測してみる。

菅氏について、『週刊新潮』10月1日号は「貧しいのは『家』ではなく『言葉』」という見出しだ。作家の高村薫は「安倍政権を『継承する』の一言しか出なかったことにあぜんとした。」、「国の方針についてこんなに何も語らない新首相ははじめてだ」、「『言葉を持たない人』という印象は強まった」と書いた(福井:2020.9.17)。10日のテレビ東京の番組で「消費税は引き上げざるを得ない」と発言したが、わずか1日後の11日の会見では安倍「首相はかつて今後10年ぐらい上げる必要はないと発言した。私も同じ考えだ」と増税発言を撤回した(日経:2020.9.12)。ようするに確固とした考え方を持っていないということであろう。「憲法改正」などを声高に叫ぶ「指揮官」も問題であるが、自らの考えを持っていない「指揮官」というのはもっと問題である。自らの考えを持たないということは相手の言うがままということである。戦後75年たった今でも日本を属国として扱っている米軍産複合体にとっては最も御し易い相手であり、国民にとては最も不幸な売国者となる。

その中で、唯一自分の言葉で語ったのが「自助・共助・公助」である。もちろん強調したかったのは「公助」ではなく「自助」である。元々は、阪神・淡路大震災において、本来被災者を支援すべき行政自身も大きな被害を受け、被災者を支援することができなかったため、自助・共助による活動に注目が集まったもので、大規模広域災害時の「公助の限界」が明らかになり、生存の可能性のある72時間を自助・共助による「ソフトパワー」でしのぐことが重要とされたのである。それを行政自らが強調することは、戦後、行政があまりにも国民を優遇し過ぎたため、政府に頼り、フリーライダーとなって自助努力しなくなったという論理である。平等・公平を重んじる社会から自己責任・自助努力の競争社会への転換、社会社会保障の切り捨て、公共政策の削減、新自由主義政策そのものの旗印である。

2 突然の竹中平蔵流「ベーシックインカム論」

菅氏は就任直後の18日、早速、竹中平蔵パソナグループ会長と会食した。菅氏は竹中総務大臣のときに副大臣であり、補佐官は現在経済評論家の高橋洋一氏であった。竹中氏は、郵政民営化などを進めた小泉純一郎内閣において、経済財政政策担当大臣・金融大臣・総務大臣などとして、聖域なき構造改革という名の規制緩和を押し進め、非正規雇用を増やし、今日の格差社会を招いた張本人である。

竹中氏は9月23日のBS-TBS『報道1930』に出演し、持論を披露、「月7万円のベーシックインカムを国民全員に支給する代わりに、生活保護と年金の制度を廃止する」、「マイナンバーと銀行口座をひも付け所得を把握」するとした。「国民の皆さん、7万円あげます。後は全部、『自助』・自前でやってください」という話である。竹中氏は既に「少しずつ制度を変えようとすると、絶対に実現できない。既得権益を守ろうとする人たちが必ず出てくるからだ。社会主義国が資本主義にショック療法で移行した時のように、一気にやる必要がある。今がそのチャンスだ。」(竹中:『エコノミスト』2020.7.17)と持論をさらに展開している。「コロナ・ショック・ドクトリン」である。

3 デービッド・アトキンソンの最低賃金引き上げ論

菅氏は25日はデーピッド・アトキンソン小西美術工芸社社長と会談している。「時給『1000円ぽっち』払えない企業は潰れていい」。アトキンソンは最低賃金を強制的に引き上げて中小企業の統廃合を進めるべきと主張している。「日本経済の構造的な問題の根幹は、給料が安すぎることです。そして、その裏にあるのが、日本では社員20人未満のミクロ企業で働く労働人口の比率が、途上国並みに高いという事実です」、「人口減少と高齢化が同時に進んでも耐えられる産業構造を考えると、日本では労働力を集約させ、規模の経済を追求できるように、企業の規模を拡大させるしか方法はありません。」企業の大量合併・統合を実現するには、「最低賃金を毎年5%ずつ引き上げるのが最も効果的だ」(アトキンソン『東洋経済』ONLINE2019.7.5)と述べている。

確かに、最低賃金の引き上げは歓迎すべきことである。しかし、ゴールドマン・サックス出身のアトキンソン社長の主張には裏がある。野口悠紀雄教授によれば、アベノミクスが始まった2013年以降、法人企業の従業員1人当たり付加価値は順調に増加した。とりわけ規模の大きな企業で、この傾向は顕著だった。しかし、この間に賃金はほとんど上がっておらず、増加した付加価値はほとんど企業の利益に回された。大企業で非正規従業者が増えているからだ。「1人当たり付加価値が増えても賃金が上がらない」というこのメカニズム。賃金を抑制することによって利益が増えた(野口悠紀雄『ダイヤモンド・オンライン』2019.12.5)のである。非正規雇用労働者の増大などにより、労働分配率はどんどん低下したのである。しかし、これ以上非正規労働者を増やすには、既存の357万社の中小企業を160万社程度にすること、「日本のために中小企業は半分消えていい」としなければならない。中小企業を解体してて従業員を非正規雇用労働者として吐き出させる、そのために最低賃金を引き上げるのである。コロナ禍で中小企業の経営の悪化が懸念されている。給付金や信用保証協会の融資などで資金繰りを繋いでいるが、「企業に公的資金を流し、過剰になった雇用を維持する政策を続ければ、多額の過剰債務とゾンピ企業を生みかねない」(日経論説委員長・藤井彰夫「スガノミクス成功の条件」2020.9.28)として、これまでの中小企業保護政策の180度の転換を図ろうとしているようだ。これも「コロナ・ショック・ドクトリン」の一環である。

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