<<「危険なほど無能」なトランプ政権>>
10/8、創刊から200年以上の歴史を持つアメリカの権威ある医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」が異例の論説、「リーダーシップ不在の中の死亡」と題する論説を発表し、トランプ大統領に率いられる米政権の新型コロナウイルスへの対応は、「危険なほど無能」であると断定。これまで一度も政治的態度表明を行ってこなかった同誌が初めて、トランプ大統領の再選に加担するべきではない、と態度を明確にしただけに注目を集めている。論説には34人の同誌編集者が署名している。
同論説は、新型コロナウイルスをめぐるトランプ政権の対応について「ほとんど全てのステップで失敗した」「この失敗の大きさは驚くべきものである」と指摘。「世界をリードする疾病対応組織」がありながら、「政府の非常に重要な意思決定から除外され」、「十分な警告があったにもかかわらず、病気が最初に発生したとき、効果的に検査することができず、医療従事者や一般の人々に最も基本的な個人用保護具すら提供できなかったのである」、「指導者たちは専門家を無視し、軽蔑することを選択し」、「専門知識に頼る代わりに、政権は、真実を覆い隠し、完全な嘘」をばらまき、「危機を乗り越える代わりにそれを悲劇に変え」てしまった、と述べている。対照的に、「中国は、最初の遅れの後、厳格な検疫と隔離を選択し、感染を排除し、死亡率を100万人あたり3人に減らし」、これに対して「米国では500人以上」、「この国の死亡率はカナダの2倍以上であり、脆弱で高齢者の人口が多い日本を約50倍上回っており、ベトナムのほぼ2000倍に」達している、と指摘する。そして、「真実はリベラルでも保守でもありません。私たちの時代の最大の公衆衛生危機への対応に関しては、現在の政治指導者たちは、彼らが危険なほど無能であることを示しています。」「このまま彼らに仕事を続けさせれば、さらに何千人ものアメリカ人が死亡する危険があり、そんなことに加担するべきではありません」と結論付けている。
<<トランプ大統領自身の感染と虚勢>>
トランプ大統領自身が、マスクを意図的に着用しない、社会的距離など無視した会合の招集など、感染ガイドラインを徹底的に無視し、側近や支持者にまで同調させ、単なるクラスター感染を超えて、大量にウイルスをばらまくスーパースプレッダー(超感染拡大者)として行動したことは、政治的にも取り返しのつかないものとなったと言えよう。コロナウイルスが、トランプウイルスとして糾弾されるのも当然であろう。今やアメリカでは、1日あたり9
00から1,000人の割合で死亡、毎日約50,000の新しい感染者が発生、死者は21万5000人にも達している。
ホワイトハウス内だけでも20名以上の感染者(10/7日には24人の感染が判明)を出す中、ついに本人自身が10/1のPCR検査で新型コロナウイルス感染・陽性の確定診断がなされ、翌10/2には、高熱を発し、呼吸困難となり、血中酸素濃度低下のため酸素補給を行わざるを得ない緊急事態に陥り、大統領専用ヘリ マリン・ワンにて18時過ぎにウォルター・リード軍医療センターへ移動、入院に追い込まれたのであった。危険性を過小評価した結果がこれであった。
レムデシビル、リジェネロン、ステロイドデキサメタゾンなど、入手可能な実験薬まで含めてあらゆる治療薬❝カクテル❞のぜいたくな投与を受け、何年もろくに税金も払ってこなかった人間が推定「10万ドル以上の医療を無料で受けた」とされる。まさにトランプ個人のための「メディケア・フォー・ワン」であった。
その入院も、10/5、わずか3日で無理やり退院を強行、10/6には、カクテル薬剤の副作用とウイルス感染で異常興奮状態に陥り、ツイッターを取りつかれたように60余りも連発する(ツイートストーム)、その中で焦り、怒り、復讐を叫ぶ、政敵の逮捕まで要求するなど、精神状態がきわめて不安定になったのである。10/10には、ホワイトハウスのバルコニーに上がる階段でさえ苦しげに息を切らせながら、わざわざマスクを外して、親指を立てる得意のゼスチャーで凱旋将軍よろしく敬礼するなど、みえすいた虚勢を示し、そのうえ、演説では、コロナ感染を「恐れるな」、「インフルエンザほど致命的ではない」「わが政権の下で、いくつかの本当に素晴らしい薬と知識を開発した。 20年前より気分が良くなった!」と述べるなど、一言の反省さえ示すことのできない、その無謀さ、軽挙妄動はあきれるばかりである。
<<「オクトーバーサプライズ」>>
こうした事態の中で、トランプ氏個人の問題を超えて重大なことは、パンデミック危機と経済危機の結合をさらに悪化させる決定を、平気で連発し、撤回し、また復活させるなど、事態を混とん状態に導いていることである。
10/6、米中銀・FRBのパウエル議長は「米経済に下方スパイラルの恐れ」があると警告し、米経済は完全回復からはるかに遠く、新型コロナウイルス感染拡大が効果的に制御できず、成長が抑制されれば、下方スパイラルに陥る恐れがある、財政措置がなされず、回復ペースが遅すぎると景気後退がさらに悪化する恐れがあると警告している。
トランプ氏はそんな警告など無視するかのように、連発ツイートの中で、突如、直面する最大の懸案としてまとまりかけていたコロナウイルス救済パッケージの予算案をめぐる民主党指導部との会談を打ち切り、11/3の大統領選投票日まで交渉はしないと政権幹部に指示したことである。その結果、経済崩壊の危機に瀕している圧倒的多数の人々の生活と人命にかかわる財政措置・予算案が今や棚上げ状態に置かれてしまっている。自らの再選が保証されない限りは、たとえそれまでにどんな犠牲が出ようがお構いなし、という露骨でエゴイスティックな姿勢である。
さらなる危険な事態は、10/8に、米ミシガン州知事グレッチェン・ホイットマー(民主党)の誘拐を計画したとして、トランプ氏を支持する違法な武装民兵組織のメンバー13人が連邦捜査局(FBI)によって逮捕されたこと、10/13には、同州の連邦地裁で、容疑者らが南部バージニア州のノーサム知事(民主党)ら、他の現職州知事の拉致についても謀議していたとの証言が明らかになったことである。
こうした内戦にまで導くような無謀で危険な動きの背後には、分断と暴力を助長し、白人至上主義者を持ち上げ、煽ってきたトランプ氏がいることは歴然としている、と言えよう。11/3の投票日を間近に控え、流布されているトランプ氏の「オクトーバーサプライズ」が、内戦に導く暴力的挑発なのか、あるいはイランや中国にいたいする軍事的挑発なのか、その危険な現実的可能性が差し迫ったものとなっている。
(生駒 敬)