<<1月5日か、1月6日か>>
12/28付け米タブロイド紙ニューヨーク・ポストは、1面トップにトランプ氏のうつむく写真を掲げ、「Mr. President STOP THE INSANITY」(大統領 狂気を止めなさい)と太文字を配した。同紙社説は、「敗北を受け入れよ」と題して、「暗黒の茶番劇に幕を下ろすときが来た」と断じている。
そしてトランプ氏に対して、来年の1月5日について考えるべきで、1月6日について考えるのをやめなさい、と諭している。1月6日は、上下両院合同会議で選挙人投票の結果が正式承認される日であり、それに異議を唱え、覆そうと呼びかけるのは「非民主的な政変を後押しする行為だ」と厳しく批判、むしろ共和党の将来に重要なのは、同党が上院の過半数を確保できるか否かを左右する1月5日の南部ジョージア州での上院選2議席の決選投票だと強調し、上院選に関心を集中させるべきだと諭している。民主党が両議席を制して上院の過半数を奪回した場合、共和党でのトランプ氏の影響力が消滅してしまう、との警告である。
ジョージア州では現実に、共和党の現職2候補が12/27時点で「投票総数で全般に4ポイントリードしていたが、大統領のおかげで消え去った」と報じられる事態を招いている。1月5日の再選挙結果は、民主党のバイデン新政権にとっても上院過半数をめぐる決定的な重要性を持つことは間違いない。
同社説は、「大統領、あなたが失ったことに腹を立てていることを私たちは理解しています。しかし、この道を進み続けることは破滅的です。私たちはこれをあなたを支持し、あなたを支持した新聞として提供します。あなたがあなたの影響力を固めたいなら、将来の復帰のための準備さえしたいのであれば、あなたはあなたの怒りをより生産的な何かに向けなければなりません。」と結んでいる。
アメリカの主要紙をフェイク報道と断じて購読を停止し、ニューヨーク・ポスト紙を愛読していたトランプ氏にとっては痛撃と言えようが、同紙の言う「狂気の沙汰」に陥っているトランプ氏にはもはや聞く耳もなしであろう。
<<「ワイルド・プロテスト」>>
さらにこういう事態に追い込まれているからこそ、より一層危険で破滅的な、一触即発の挑発行為が危惧されている。警戒を強める国防総省と米軍幹部は、「1月20日の大統領就任式まではどんな命令があるかわらない。その時のための秘密の対応策が作られている」と報じられ、「トランプが民兵組織や親トランプ派の自警団を動員して、政権移行の邪魔をさせたり、首都ワシントンに暴動を引き起こしたりする可能性」、それに乗じた戒厳令導入まで論じられている。実際、大統領恩赦を受けたトランプ政権の最初の国家安全保障担当大統領補佐官を務めたマイケル・フリン氏は、「軍を使って選挙のやり直しを」直接トランプ氏に提案してさえいる。トランプ氏は1月6日にワシントンDCでの「荒々しい」大抗議(’wild’ protest in DC on January 6 )集会への期待ををすでに表明している。危なっかしい思惑がむき出しである。
そして、国内にとどまらず、対イラン、対中国に対する軍事的威嚇・挑発行為は、より一層事態を悪化させ、一気に世界的な危機に拡大させかねない可能性さえある。国内、国外、いずれの危険な道をトランプ氏が選択したとしても、徹底的な孤立化は避けがたいし、それは自滅の選択と言えよう。
これまで「二期目」政権を公言して居座りを画策してきたトランプ政権ではあるが、もはや共和党自体がバイデン新政権誕生を認めざるを得ない事態に追い込まれており、一縷の可能性はあるとはいえ、巻き返しは封じられ、敗退を余儀なくされるであろう。まさに、「暗黒の茶番劇に幕を下ろすときが来た」のである。
トランプ政権がここまで追い込まれたのは、昨年来の経済危機の進行に対して、打つ手が1%の富裕層・大独占資本を優遇する減税と野放しの自由競争原理主義、アメリカンファーストの貿易戦争、社会的セーフティネットの縮小・削減政策でしかなかったこと、これが第一。そして決定的なのは、パンデミック危機に対して無防備な傍観主義で新型コロナウイルスの蔓延を野放しにさせ、経済危機をより一層広範かつ深刻なものとさせたこと、にあったと言えよう。
(生駒 敬)