<<ロビンフッド・アプリで自ら命を絶った若者>>
2/8・月曜日に、昨年6月に20歳の学生、アレックス・カーンズ(Alex Kearns)さんが自ら命を絶つに至った株式取引手数料無料のスマホ・アプリを提供するロビンフッド・マーケッツ社を相手取って、両親(Dan and Dorothy Kearns)が息子の死の責任を問い、不法行為による死亡でカリフォルニア州サンタクララ郡の州裁判所に提訴したことが明らかになった。
亡くなったカーンズさんは、投資に興味があり、高校を卒業する前にロビンフッドに口座を開設していた。彼は、母親のドロシーさんに「お母さん、私はまだ自分の人生で何をしたいのかわかりません。しかし、私は人々を助けたいと思っています。」と語る若者であった(2/8、CBSnews ThisMorning インタビュー)。
その彼が、同じ銘柄のプットオプションの売りと買いを同時に行うオプションスプレッド取引をしていて(これは、巨額の損失を被る可能性のあるリスクの高い取引であるが、本人は、オプション売買の何たるかも分からず、その承認さえしていなかった )、昨年6/11、ロビンフッドが730,000ドル(約7650万円)のマイナス残高を通知し、その夜遅く、午前3時26分に、同社はアレックスさんに「即時アクション」を要求する自動メールを送信し、170,000ドル以上の支払いを要求したのであった。借りた覚えもない巨額な請求に驚いたアレックスさんは、その夜遅くと翌朝に3回、サポートアドレスにメールを送信(ロビンフッドにはカスタマーサービスの電話番号がない)、「何が起きているのか理解できない」、「私は、私が持っているべきよりも多くのお金を誤って割り当てられました。私の購入したプットは、私が販売したプットをカバーするはずでした。誰かがこれを調べてくれませんか?」と。それに応えた自動メッセージは「私たちのサポートチームに連絡してくれてありがとう!」、「できるだけ早くご連絡できるよう努めておりますが、お返事が遅れる可能性があることをお知らせいたします。」と。ケース番号06849753が割り当てられたが、それから先はなしのつぶて、「後で折り返しご連絡します」だけ。
カーンズさんがオプション取引で73万ドルを失ったと思い込んで自死した翌日、ロビンフッドは彼のアカウントに自動化された電子メールを送り、問題は解決され、借入金はなく、「証拠金請求に対応し、取引制限が解除されたことを確認するために連絡を差し上げています。」と。
カーンズさんの両親の弁護士は「彼らが彼に提供した情報は、信じられないほど歪曲されていた。そして、おそらく完全に間違っていた。なぜなら、本当に何も借りていないのに、73万ドルを借りているように見せる。それはだれでもパニックになる可能性があります。」「彼らは、電話やライブの電子メールサービスを通じて、質問に対するライブの回答を得るためのメカニズムを提供していません」と告発している。
カーンズさんは自死する前に、両親へのメモで「収入のない20歳の若者に、100万ドル相当のレバレッジを割り当てることができたのはいったいどういうことなのでしょうか?」 「売買したプットもキャンセルされるべきだったのですが、今何をしているのかわからない。これほど割り当てられてリスクを冒すつもりはなかったので、アプリをチェックすると、証拠金投資オプションは私にとって『オン』にさえされていないのです。苦々しい教訓です。F***(ちくしょう)!ロビンフッド。」と書き残していた。
ここで言うレバレッジとは、株式市場で委託保証金で何倍もの借り入れができる、リスクのきわめて大きい、投機的なギャンブルに誘い込む手段、手口である。ロビンフッドは収入ゼロの若者に73万ドルものレバレッジを本人の承諾もなくかけていたわけである。引っかかればしめたものと計算していたのであろう。
彼の両親は、ロビンフッドが若くて経験の浅い顧客をターゲットにし、危険な取引慣行に誘いこみ、不法な死、精神的苦痛の過失、不公正な商慣行、投資家が助けを必要としたときに必要で適切な顧客サポートを提供せず、知識も少ない投資家を食い物にしている、として提訴したのである。
<<イエレン新財務長官の役割は何なのか>>
ロビンフッドは発表資料で「カーンズ氏の死に大きな衝撃を受けた」とし、6月以降にオプションの提供についてさまざまな改善を加え、顧客の「経験要件を改訂」したと説明している。同社の広報担当者は、「ロビンフッドを責任を持って学び、投資する場所にすることに引き続き取り組んでいる」と語り、「私たちの使命は、すべての人の金融を民主化することです。ロビンフッドは、以前は金融システムから切り離されていた全世代の人々にとって、投資をより身近で気が遠くなるようなものにすることを目的として、モバイルファーストで直感的になるように設計しました。より多くの人々が彼らの財政を管理するのを助けるために、投資に対する体系的な障壁を常に打ち破っています。」 と述べている。
しかし今年の2月時点でも、それは、サインアップアンケートの一部として、アプリは「あなたはどのくらいの投資経験がありますか?」と尋ね、「なし」を選択すると、オプション取引はできないが、それを「あまりない」に変更すると、「オプションへようこそ」と、いとも簡単にアプリはオプション取引を承認する、その程度の改訂でしかない。これのどこに、「金融の民主化」や「責任をもって学ぶ」姿勢があるのであろうか。
このロビンフッドをめぐっては、前回取り上げたゲームストップ事件で、この2月18日に米下院金融サービス委員会の公聴会が予定されている。同委員会の議長であるウォーターズ氏(Maxine Waters)は、「ロビンフッドとこれに関与したヘッジファンドの一部との間に共謀があったため、ロビンフッドが取引を制限したかどうかについて懸念している」と語っており、ロビンフッドも召喚されている。
ここでの「共謀」関係を指摘されているのは、大手投資ファンドのシタデルである。ロビンフッドのビジネスモデルは、当然、無料の取引手数料にではなく、シタデルなどのマーケットメーカーへの注文フローの支払いに依存しており、ロビンフッドユーザーの投資活動を含むユーザーデータをシタデル証券に販売することで収益を上げている。収益を上げるためには、常に新しいユーザーを引き付け、獲得し続ける必要があり、なおかつリスクの高い高頻度取引やオプション取引にユーザーを巻き込まなければならない。これを、ロビンフッドのCEO・最高経営責任者ウラジミール・テネフ(Vlad Tenev)氏は「ヘッジファンドではなく、ウォール街に置き去りにされた人々を支援しています。アメリカの金融システムに取り残されたと感じた何百万人もの人々のために。私たちは、この瞬間を自分自身を改善し続ける機会として捉え、すべての人が金融業界全体にアクセスできるようにすることを約束します。」と述べている。すべての人々をマネーゲームのカジノに誘い込みながら、言い終わって舌を出しているような皮肉たっぷりの戯れ言と言えよう。
問題は、ロビンフッドと共謀関係にあるヘッジファンドと、バイデン新政権の財務長官ジャネット・イエレン氏が、密接な関係にあることが疑われていることである。
シタデルは、2018年2月に連邦準備制度理事会・FRBの議長を辞任して以来、イエレン氏に992,500ドルもの講演料を支払っている。もちろんシタデルだけではなく、2019年と2020年のイエレン氏の講演料、現金収入は700万ドルを超え、そのほとんどはウォール街の企業とヘッジファンドからのものであった。ウォール街の金融資本は、様々な違法な金融活動を日常茶飯事のごとく行っており、そのたびにSECやFRBや規制当局と掛け合い、ごまかし、罰金を支払っている。ごく最近でも、シタデル証券は、2020年11月13日、自主規制当局であるFINRAから、650万件の空売り取引に対して18万ドルの罰金を科されたが、シタデルは申し立てを承認も否定もせずに罰金を支払っている。
イエレン氏は近々にも、財務長官としてゲームストップ事件での取引調査に取り掛かると言われているが、本来ならゲームストップ・ロビンフッド・シタデル、そしてイエレン氏の密接な関係からして、関与すべきではないであろうし、関与すればあいまいな調査・決着になろうことが歴然としているのである。
連日、史上最高値を更新する株式市場のバブル破裂、カジノと化している株式市場を抑え込むためには、大胆な金融資本規制、金融取引税の導入、富裕税・累進課税の再構築といったニューディールこそが要請されているが、イエレン新財務長官の役割、バイデン政権の役割が厳しく問われているのである。
(生駒 敬)