<<テキサスのブラックアウト>>
この2月12〜17日、冬の嵐・ウリ(Winter Storm Uri)と呼ばれる大寒波が、太平洋北西部で始まり、メキシコ北部から米国南部に移動、その後中西部、カナダにまで至る広範囲な地域、米国だけでも30の州に襲来した。その中で際立って大きな被害を受けたのが米国南部テキサス州であった。他の地域では起こらなかったブラックアウト=電力崩壊が引き起こされ、電力供給がストップ、州内の合計797の水道システムが、パイプの凍結または破損に見舞われ、何百万人もの住民が停電と断水というライフラインの危機に追い込まれ、氷点下の気温の中で少なくとも40人以上の人々が死亡している。バイデン大統領は2/14、テキサス州に非常事態を宣言し、14の州が計画停電を行う事態となった。
その後、ほぼ1週間にわたった停電、さらに水道・ガス復旧はいまだに(2/27現在)ままならず、テキサス州の半分の住民は水を飲む前に沸騰させるようにという沸騰水に関する通知を受けている深刻な状態である。
いったいなぜここまで深刻な事態に立ち至ったのであろうか?
実は、テキサスは独自の電力網を持っている米国で唯一の州であり、米国内の2つの主要な電力網(Eastern(Southwest Power Pool)、Western(Western Electricity Coordinating Council))に接続されていないため、ブラックアウトに至る前に、他の地域からの電力供給を受けられなかったのである。今回の大災害は、その致命的な弱点をさらけ出したものと言えよう。
テキサスは、米国で最大の石油、天然ガス、風力エネルギーの生産州であり、他の州とは異なり、州の大部分にサービスを提供する独自の内部電力網を運営しており、非営利電気信頼性評議会(ERCOT)によって管理されているグリッド(配電系統)が、州の電力の90%を供給し、2,600万人の顧客に電力を供給している。このテキサス州の電力網は、2002年に規制緩和され、テキサスのグリッドが連邦の他のグリッドに接続されていた場合、それによって要請される電力網の安定性と信頼性を保証するインフラ改善の規制を逃れるために、意図的に米連邦の電力網に接続しなかったのである。電力の小売が自由化され、「電気業界での競争は、月額料金を引き下げ、消費者が使用する電力についてより多くの選択肢を提供することで、テキサス州に利益をもたらすでしょう」と当時の知事であるジョージW.ブッシュは、規制緩和法に署名した際に述べている。新自由主義・自由競争原理主義を地で行くものであった。
しかし、この規制緩和と故意のエネルギー隔離によって、利益を最大化するために、保守とアップグレードのコストは最小限に抑えられ、電力インフラは老朽化したまま放置され、「それは、予測可能な状況下で最終的に破綻するまで、過少投資と怠慢に足を踏み入れた。」(ヒューストン・クロニクル)、その結果として今回の事態を招いたのであった。
それでも、ERCOTの指導者たちは、電力危機の責任は、テキサスの規制緩和システム全体ではなく、天候にあると述べている。
この危機のさなか、テキサス州の共和党上院議員テッド・クルーズが、2/16、「今週、テキサスでは100人規模の犠牲が出る可能性がある。どうかリスクを冒さず、自宅待機し、子供を抱き締めてあげて」とラジオで呼びかけていた、その翌日2/17、ヒューストンの空港を出てメキシコのリゾート地カンクンに向かう写真がネットで拡散、ごうごうたる非難を受け、議員辞職を求める声が高まり、旅行を中断、帰国せざるを得ない醜態を演じている。
<<1日1000ドルの電気料金 ! >>
この悲惨な大災害の責任を問われ、共和党のテキサス州知事グレッグ・アボットは、当初、州の風力タービンへの依存が悲惨であるために「州全体で電力が不足している状況にテキサスを押し込んだ」、「グリーンニューディール」に反対であり、「それは化石燃料が必要であることを示しているだけである」と主張し、州当局も当初、再生可能エネルギーの停電を非難していたのであるが、実際は、風力発電のシェアは10%程度であり、しかも州の風力タービンの大部分は問題なく機能していたことが明らかになっている。危機は、石炭、ガス、原子力発電所の設備が凍結し、天然ガスパイプラインが凍結したときに引き起こされたのであった。アボット知事は、1月下旬に、「ワシントンからのあらゆる種類の敵対的攻撃から石油およびガス産業を保護する」と発言している。被災者よりも、化石燃料業界への貢献と忠誠こそが、知事の最大の関心事なのである。
被災者へのさらなる打撃は、この災害による電力料金の驚くべき高騰であった。電力卸売価格が急騰し、電力卸売市場の価格と連動する契約をしている人々は、1日あたり1000ドル(約10万円)の電気料金を請求されているとダラス・モーニング・ニュースが報じている。約5日間で5000ドルを請求されたとソーシャルメディアなどに投稿した住民もいる。
電力網の管理者であるテキサス州の電気信頼性評議会(ERCOT)のデータによると、価格はメガワット時あたり約50ドル(5300円)から上限の9000ドル(約95万円)にまで上昇している。2月の1人当たりの請求額は平均660ドルから17,000ドル以上への急騰である。
一方、電力供給関連のガス会社コムストック(Comstock Resources Inc)の株価は、この危機の間、前月比600%~7500%上昇し、2/17の決算発表で「大当たり」を享受している。
2/26、バイデン米大統領はテキサス州を訪れ、食料配給拠点や医療施設などで被害状況を視察し、健康と経済危機からも回復するのを助けるために団結と超党派性を呼びかけ、災害宣言によって承認された連邦災害援助として、仮設住宅の助成金、家の修理、嵐によって引き起こされた物的損害を修理するためのローン、および天候の影響を受けた個人および事業主のための追加プログラムを明らかにしている。
しかし、被災者が最も要請しているのは、一時的な災害援助ではなく、規制緩和と自由競争原理主義にゆだねられた電力供給システムを抜本的に解体し、公共利益の供給体制にまず再構築すること、電力インフラを利益追求ではなく、他の州、連邦との電力連携や、電気料金を含め、住民の意思とコントロールが反映され、異常気象やブラックアウトにに耐えることができるシステムに作り替えること、つまりは電力システムのニューディールを明確にすることであろう。
(生駒 敬)