【投稿】「戦争立法」をめぐって 統一戦線論(14)
<<「安倍首相のクーデター」>>
3/20の参院予算委員会で、民主党の小西洋之参院議員が、政府、自民・公明両党が進める安全保障法制の整備に関連して、「日本の法秩序を根底からくつがえすクーデターだ」と鋭く追及した。小西氏は、「憲法9条すら、こんなに解釈変更ができるのであれば、憲法の他の条文、いつでも時の内閣と多数を持つ国会で解釈の変更ができることになる。こんなことを絶対許してはいけない。それを防ぐために、われわれ国会議員は死にものぐるいで戦った。それを安倍首相が蹂躙したという。日本の議院内閣制、民主主義を否定したことについて追及させていただく」「機関銃は撃たれていない。戦車は走り回っていない。しかし、日本の最高法規が、憲法が、その中身から根底から変わってしまって、絶対に許されることのなかった、そして憲法の平和主義とどう考えても矛盾する、義務教育の子供たちにも説明ができない、その集団的自衛権が解禁されている。こんなことを許しちゃあ、もうわが国は法治国家として成り立たなくなる。恐るべきクーデターが今日本社会で進行している。止めるのは国民しかない。我々民主党が国益と憲法を守る。ここに宣言する」と安倍首相に厳しく詰め寄った。
安倍首相は口もとをゆがめてせせら笑いはすれども、肝心の論点には反論できず、「レッテル貼り、無責任な批判」「これはデマゴギーと言ってもいい。デマゴギーには負けずに責任を果たしていく」と威嚇し、問題をすり替えただけであった。
しかしこの追及の最も重要な場面を、大手各紙、NHKをはじめメディアはすべて無視し、小西氏が「憲法を何も分からない首相とそれを支える外務官僚を中心とした狂信的な官僚集団がやっている」と発言したことについて、予算委員長から「発言中に不適切な言質があるとの指摘があった。十分気をつけて発言をお願いしたい」と注意され、小西氏が「後日の議事録の調査で不適切発言が確認されたのならおわびする」と述べたその部分だけがいかにも謝罪したかのように報道された。安倍政権に追従する大手メディアの実態をはしなくも露呈したと言えよう。
<<「憲法改正の最大のチャンス」>>
問題となった政府・与党の安全保障法制をめぐる合意は、自衛隊の海外活動を大幅に広げる方向で一致、周辺事態法を抜本的に改正し、事実上の地理的制約となる「周辺事態」という概念を削除。集団的自衛権の行使容認も、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」とした「新事態」を導入し、新たな「重要影響事態」と政府が認定すれば、米軍や米軍以外の他国軍への後方支援が海外でも可能、国連平和維持活動などでの武器使用基準も緩和、米軍中心の有志連合支援や治安維持活動にも参加が可能、まさにこれまでの安保政策でかろうじて抑制されてきたものが、根底から転換させられる。米軍のあらゆる戦争を支援し、自らも主体的に参加できるようにする「戦争立法」なのである。政府・与党は法案を5月下旬にも提出し、通常国会の会期(6/24)を8月まで大幅延長してでも成立させる構えである。
日本国憲法第9条は、戦力の保持および国際紛争を解決する手段としての武力の行使を禁じている。この9条をまったく無視した、安保法「整備」と恒久法化、安倍首相が言明した「戦後以来の大改革」は、事実上のクーデターなのである。しかもそのクーデターには「平和」の旗を掲げる公明党まで組み込まれている。
それでもなお9条そのものの改悪が必要だと言うのは、過去の9条解釈の上に立って、あくまで「日本の存立が脅かされる明白な危険がある場合(存立危機事態)」に限られており、それ以外の海外派兵にはいまだ制約があるからだという。
3/19、憲法改正を目指す超党派の国会議員や保守系有識者らで構成する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」は19日、国会内で総会を開き、憲法改正の早期実現を求める署名を、衆参両院で改正発議に必要な3分の2以上の議員から集める方針を決定した。10月末までのとりまとめを目指す。署名議員は既に衆院248人、参院107人に達しており、衆院は発議に必要な数の8割弱、参院は6割超に当たるという。同会共同代表の櫻井よしこ氏は「志を同じくする安倍晋三政権である今が憲法改正の最大のチャンスだ」と気勢を張り上げた。このクーデターを完成させるべく、いよいよ改憲勢力が暴走し始めたのである。
民主党には「憲法を守る」と断言する小西議員のような人もいるが、同じく民主党の渡辺周元防衛副大臣はこの3/19の総会に出席し、「理想論だけで国家は守れない」と改憲機運を積極的に盛り上げるよう訴えている。
<<「たった8日間で作り上げた代物」>>
これらのクーデター的安保法整備は、3/26に自民党の高村副総裁が訪米し、米政府関係者などに日本の安保法整備の状況を説明し、了解を取り付け、首相訪米の地ならしをする予定である。しかし同じ3/26には、国内では注目の北海道知事選など10の道県知事選が告示され、統一地方選が開始される。そこでこうした「戦争立法」論議は不利と見て、争点化することを封じ込め、いったん論議を凍結。4/12の知事選や道府県議選の投開票を終えた後、5月の連休前に法案を固め、4/26に安倍首相が訪米、4/29前後の首相の米上下両院合同会議での演説、そして日米軍事同盟強化を謳い上げ、5/12に閣議決定という、こうした一連の流れのための拙速・凍結・再開・国会上程・会期延長してでも採決強行の暴走スケジュールである。暴走のゴールは、9条改憲である。
安倍首相は3/6、衆院予算委員会で、現行憲法を「GHQ(連合国軍総司令部)の素人がたった8日間で作り上げた代物」と言ってのけ、民主党の逢坂元総務政務官が「憲法をしっかり守る基本姿勢を貫くことが大事だ。総理大臣みずからが憲法をおとしめかねないような発言をするのは厳に慎むべきだ」と、この”問題発言”を追及されると、「総理大臣として、憲法を順守し、擁護する義務があるのは当然のことだ」と応えつつも、「原案が(憲法学に精通していないGHQ関係者により)短期間に作成された事実を述べたにすぎない。首相が事実を述べてはならないということではない」と開き直り、問題の「代物」発言をあくまでも撤回しなかったのである。傲慢不遜にもほどがある。いまだ右翼少年から抜け切れないような人物が、首相でございとおさまっている、日本の悲喜劇的状態である。
写真は、3/8「さよなら原発関西アクション」(大阪・扇町公園)、「力を合わせて闘おう」と訴える中島哲演さん(原発反対福井県民会議)。(筆者撮影)
<<「原発反対と戦争反対、一緒にした大運動」>>
しかし、笑っても悲しんでもいられない。3/10、大江健三郎氏、鎌田慧氏が記者会見を行い、「今、日本は戦後最大の危機を迎えている」と訴え、「私たちは3月28日、新宿で大江さんなどの講演会を開きまして、5月3日には、みなとみらいの臨港パークで3万人規模の大集会を開きます。これは原発反対運動と戦争反対運動、全ての運動を一緒にした大運動を行いながら、新たな日本に向かってやっていこうと思っています。」(鎌田氏)と述べ、大江氏は、「私は昨日インタビューや講演をなさったメルケル首相の発表に非常に強い印象を受けたものです。”ドイツは原発によるエネルギーでやっていこうとする方針を完全に放棄した、そして自分たちはそれを実現する”ということ、そして”これは自分たちの政治的決断だった”ということ。私は、この「政治的決断」という言葉が、ドイツの政治家と日本の政治家の違いを明確に示していると思います。今の首相が韓国、あるいは北朝鮮の政治家たちと話し合いをすることは途絶えたままですし、中国に対してもそうです。アメリカの占領期は別ですが、戦後、こんな日本に全くなかったことが行われて、福島以後の危機を最も全面的なものにしてしまっている。 それが現状だということが僕の申し上げたかったことなんです。」と強調した。
3/15、「九条の会」が東京都内で全国討論集会を開き、その討論の中で、「運動の対象を改憲派にも拡げて、改憲派とも語り合おう」「革新・リベラル派だけの内向き運動だけでは勝てない。平和を希求する保守陣営とも協力して憲法を守ろう」「国内だけではなく、東アジアの草の民衆とも連帯しよう」「そして、8月15日には100万人大集会を成功させて改憲阻止へ大きなうねりを作っていこう」という、運動の拡がりと統一戦線の拡大を提案する発言が主流となったという(3/16、澤藤統一郎の憲法日記)。
折りしも全国統一地方選に突入している。「地方の反乱から始めなければどうしようもない。中央の連中を自覚させていく、巻き込んでいくのは地方の反乱であって、本当はもっともっと原発問題でも何でも地方が反乱を起こすべきなんです。今の右傾化の状況に対抗する闘いは、少しずつ動いているんじゃないか。その闘いの一つの先頭に、辺野古の、沖縄のわれわれの闘いがあるんだと思います。」「この一年、沖縄にとっては選挙イヤーと言える一年でしたが、キチッと沖縄の民意を示すことができたと思います。それは「みんな」(大衆)の力で成し遂げたことです。」「いまの安部政権に立ち向かうには大同団結しかない。沖縄が「オール沖縄」というかたちで結集軸をつくったように、原発や、集団的自衛権、憲法・・・「この線を踏み越えてはダメなんだ」「踏み越えさせてはダメなんだ」という結集軸をつくらなければいけないということを、沖縄のこの一年の闘いは示していると思います。ヤマトにおいて、そういう指向性をどうもっていけるのかが問われています。」--これは、安次富浩・ヘリ基地反対協議会共同議長の訴えである(『現代思想』2015年4月臨時増刊号「菅原文太・反骨の肖像」-「戦いは仁と義で 辺野古へのメッセージ」)。
運動の広がり、大同団結と結集軸、原発反対と戦争反対、一緒にした大運動、党派主義やセクト主義を乗り越えた多様で広範な日本の統一戦線がいま問われている。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.448 2015年3月28日