【投稿】新たな段階に進む「北朝鮮核問題」
<「急転直下」の合意へ>
北朝鮮核開発問題は、アメリカの求める「完全かつ正確な核開発計画申告」をめぐり、一時停滞していたが、4月8日に行われた、アメリカのヒル国務次官補と北朝鮮の外務次官との会談後の4月24日、ブッシュ政権は、北朝鮮がシリアの原子炉建設を秘密裏に支援していたことを公表した。
さらに4月30日には「07年版国際テロ活動に関する国別報告」が発表され、北朝鮮は引き続き「テロ支援国家」とされた。
こうした流れを踏まえ、「アメリカ政府、議会内で対北朝鮮強硬派が台頭」「やはり拉致問題の解決なくしてテロ支援国家指定解除はあり得ない」「発表に反発した北朝鮮が強硬姿勢を強めるのは必死」などの期待と憶測が、日本政府など一部で強まり、「6カ国協議の早期進展は遠のいた」との観測が流れた。
しかし5月1日、バーシュボウ駐韓アメリカ大使は「北朝鮮が核施設の無能力化と、完全、正確な申告を行えば、テロ支援国家指定解除等を議会に通知する」と発言した。これを受け5月8日、北朝鮮は過去のプルトニウム核開発に関し、1万8千ページにも上る関連文書を提出した。その内容は1986年以降のプルトニウム開発の詳細な記録で、国務省も「徹底的な調査」を前提としつつも、高く評価していることを明らかにした。
アメリカ政府は今後、数週間から1か月間をかけて、提出資料の綿密な分析を進めるが、「不十分」との結論は出されず、解除45日前の議会報告義務を踏まえ、調査中にもテロ支援国家指定解除予告を両院に通知する可能性が、極めて高くなってきている。
また、指定が解除されれば北朝鮮政府は、「無能力化の証し」として、の核施設解体作業の一部を公開するという、一大パフォーマンスを決行する計画があると、複数のアメリカマスコミが報道した。
<止まらない流れ>
この方針は6カ国協議参加国のうち中国、ロシア、韓国も了解済みと考えられ、拉致問題にこだわる日本のみが孤立することになるだろう。この点に関しても、バーシュボウ大使は、韓国マスコミのインタビューで「日本人拉致問題の解決はテロ支援国家指定解除の前提条件ではない」との考えを示し、日本政府に対し予防線をはった。
この間日本政府や運動体はアメリカや韓国でロビー活動を繰り広げ、北朝鮮への制裁強化を主張してきたが、拉致は非核化に優先することはない、とのアメリカの認識が明確になったといえる。
また韓国は、李明博新政権で対北朝鮮融和政策が見直され、日本政府も強硬策の展開に期待を寄せていたが、今回はアメリカと同調する方向となっている。
この流れは止まりそうにもなく、5月19日ワシントンで開かれた日米韓の6カ国協議首席代表会議では、日本政府の立場は主張しつつ、全体の方向性を認めざるを得なかった。
そもそも今回の動きは、4月8日のシンガポールでのヒル―金会談で大筋合意されていたものある。
アメリカ強硬派の反発や、日本の反対も織り込み済みで、シリアへの技術協力問題の暴露も、北朝鮮を追い詰める手立てではなく、アメリカの中東政策がらみであることは、明らかだった。
<狼狽する福田政権>
日本政府としては、4月の間に激変するであろう情勢への対応を進めるべきであったが、「強硬勢力」への期待、「対話と圧力」という硬直したスタンスと、「ガソリン税」「後期高齢者医療制度」などの「内患」に縛られ、「外憂」にまでは手が回らなかった。それでも、4月10日に福田総理と面談した小泉元総理が訪朝を勧め、自民党有力者が秘密裏に韓国での「横田一族再会」を計画したものの、頓挫した。
横田氏らの訪韓計画報道を受け、町村官房長官は5月9日、「政府が韓国に北朝鮮との仲介を要請したことなどない、報道は事実無根」「めぐみさんの『遺骨』の北朝鮮への返還も政府の方針ではなく、大変遺憾だ」と記者会見で釈明。また交渉代理人と目された中山首相補佐官も、今回の報道を色をなして否定した。
この「騒動」は、司令塔不在の福田政権の狼狽ぶりが際立つ結果となったが、日本政府は、6月初めにも再開が予想される6カ国協議に、何らの手も打てないまま臨み、「拉致問題解決なしの核問題解決」という「煮え湯」を飲まされる可能性が、ますます大きくなったといえる。
今後、北朝鮮核問題は核廃棄という新たな段階へと進むこと思われるが、6カ国協議は日朝協議とは違い、お互いに履行義務を持つことが決められているので、日本政府は衆人環視のなかで、国交回復交渉を始めることが求められる。
八方塞がりともいえる状況のなかで、国民の支持を得ていない福田政権の対応には限界があり、東アジアにおける日本の政治的位置は、一層希薄になることが予想される。(大阪O)
【出典】 アサート No.366 2008年5月24日