【投稿】50年までに排出ゼロ―「脱炭素」という大嘘で原発の復活図る欧州

【投稿】50年までに排出ゼロ―「脱炭素」という大嘘で原発の復活図る欧州

福井 杉本達也

1 欧州の「脱炭素」は原発を復活させる強欲資本主義の詐欺

EUは1月1日、「原子力と天然ガスを脱炭素に貢献するエネルギーと位置づける」方針を発表した。「EUタクソノミー」 は事業が持続可能かを分類する制度であり、「2050年までに域内の温暖化ガスの排出を実質ゼロにする」との目標に貢献する経済活動かどうかを示し、民間マネーを呼び込み排出削減目標の達成を後押するという触れ込みである(日経:2022.1.3)。天然ガスや原油など燃料価格が暴騰する中、声明では原発をグリーンな投資先に認定することで「石炭など有害なエネルギー源の段階的な廃止を加速させ、より低炭素で環境に優しいエネルギーミックス(電源構成)に移行できる」と説明した(福井:2022.1.3)。

EUの「欧州委員会」は昨年7月、気候変動対策として2035年までにEU域内の新車供給は温室効果ガスを排出しない「ゼロエミッション車」に限定するという厳しい方針を決定。つまり、2035年にはガソリン車もハイブリッド車も原則として販売禁止になる。新車販売できるのはEVとFCVだけになる。問題は、EVを走らせるには電力が必要ということである。その電力はどう作られるのか。トヨタの豊田章男社長は現在のガソリン車などの内燃機関を全てEVにしたら、日本国内でも100万KW級原発で10基分、50万KW級石炭火力なら20基が必要だと試算している。

12月20日付けの福井新聞のコラム『越山若水』では「気になるのが雪道の大変さ。これを思うと電気自動車(EV)普及一辺倒の風潮に異論を唱えたくなる。昨冬のような大雪時、充電後の動ける時間を考えればEVは厳しいのではないか。 仮に大雪の中で走り回る車がすべてEVだと想像してみる。大規模な立ち往生で電力が失われるのを防ぐため、高速道路や主要国道には細かな間隔でおびただしい充電設備が必要になるだろう」と書いている。

原発は核燃料を燃やせば、放射性廃棄物の“核のゴミ”の行き場がない。さらに、ひとたび事故を起こせば、放射能に汚染され人が住めなくなる広大な土地が発生し、廃炉費用や賠償費用など天文学的なコストが発生する。どこが持続可能なのか。環境破壊の恐れが大きく原発にさらに投資を呼び込もうとする強欲資本主義には呆れる。

2 “グリーン”?水素やアンモニアは化石燃料の代替とはならない

欧州企業が南米やアフリカで再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」の製造に動き始めた。太陽光・風力発電の適地が大きく、製造コストが低い。チリでは北部では太陽光が南部では風力発電の適地が多く、独シーメンスなどの大手企業が、これらの地域で「グリーン水素」や「グリーンアンモニア」製造プラントを建設し、世界中に輸出する計画だという。現在、世界で流通する水素は化石燃料である天然ガスを分解した「グレー水素」はほとんどであるが、「グリーン水素」は再生エネルギーで生み出した電気で水を電気分解し、水素と酸素に還元することで生産するものである(日経:2021.12.14)。また、アンモニアは水素に窒素を反応させて生産するもので、水素に比べて貯蔵や運搬などの取り扱いが容易で、すでに流通システムも整っていることから、水素と同様に直接、火力発電所の燃料として使える。それ以外にも、肥料や尿素のほか、さまざまな化学材料の原料、NOxなどの脱硝材料、さらには半導体の窒化膜生成にも使われている。こうした用途の広さがアンモニアに強みである。しかし、強い毒性がある。

電力は化石燃料を燃やして、あるいは風力・太陽光などの自然エネルギーから作られる二次エネルギーであり、これを用いて水を電気分解して作る水素は「三次」エネルギーになる。一次エネルギーから二次エネルギー、二次から三次と作る過程で必ず目減りし、元の電力より高くなり、電力を直接使う方が合理的である。水素を原料とした燃料を燃やすことは、エネルギー損失が大きく、ばかばかしい方法といえる。さらに、アンモニアを燃やせば、厄介な窒素酸化物(NOx)が発生する。NOxは酸性雨、オゾン層破壊、光化学スモッグ、PM2.5などの原因物質である。また、水素には水素脆化という問題もある。鉄鋼などの金属の中に水素分子が入り込み金属を弱くする性質があり、非常に扱いにくい。水素の高圧タンクなどを破壊する恐れがある。

3 化石燃料から発生するCO2を貯留する(CCS)という大嘘

萩生田光一経済産業相は1月7日、日本経済新聞とのインタビューの中で、石炭や天然ガス火力発電所から出る二酸化炭素(C02)を回収して地下に埋める技術(CCS(Carbon Capture and Storage))について「2030年までの導入に取り組む」と述べた。CCSも「脱炭素の切り札」ともてはやされている。天然ガスを分解して水素を取り出すときにCO2が発生すると「脱炭素社会」の構築には役立たないということで、発生したCO2を回収・圧縮して海底や地中深く埋めてしまうを適用することになっているが、CCS にはコストがかかり、エネルギーを浪費し、さらにCO2排出が増える。本末転倒の極みである。「脱炭素」は詐欺で満ち満ちている。真実などどこにもない。「環境」を旗印に掲げながら、世の中がどうなってもよい。儲かればよいという強欲の詐欺師どもが跋扈する世界である。

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