【投稿】バイデン政権の戦争挑発と軍需産業--経済危機論(73)

<<「パニックを煽らないでくれ!」>>
1/28、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアが侵略を計画していると主張する西側諸国が「パニック」を引き起こしていると非難し、地域の状況は現在「制御下にある」、「パニックになる理由はない」と発表した。前日の1/27に、1時間20分にわたってバイデン米大統領と電話会談した後の発言である。この会談でバイデン氏は、ロシアがウクライナ侵略を計画しており、危機が差し迫っていると警告したのに対して、ゼレンスキー氏は、「危険なシナリオ」は存在するものの、ロシア軍の侵攻の脅威は「存在しない」とまで言い切ったのである。バイデン氏にとっては面目丸つぶれである。

この時点ですでにバイデン氏の戦争挑発作戦は崩壊したと言えよう。
これまで西側の援助を引き出すためにゼレンスキー氏自らが煽ってきたロシア脅威論が行き過ぎ、バイデン政権が自らの政権浮揚にこれを利用して、ロシアが侵略を計画していると主張し始めて以来、ウクライナの通貨は暴落。米国が11月に警告を発し始めて以来、

ウクライナのグリブナ通貨は、2015年2月以来の最安値に下落、経済が崩壊の危機寸前の状態に追い込まれる事態を生じさせたのである。政権基盤も不安定化し、ゼレンスキー氏は、「現在の事態はパニックです。私たちの国にとってあまりにも費用がかかりすぎます」と嘆く事態である。
ウクライナ政府の関係者がCNNの取材に対して、バイデン氏との電話会談は「うまくいかなかった」、ロシアの攻撃の「リスクレベル」をめぐって両首脳の意見が食い違ったことを明らかにしたのであるが、ホワイトハウスはこの報道を否定。国家安全保障会議のエミリー・ホーン報道官は、ウクライナ当局者がCNNに話したことは 「事実ではない 」と主張。この通話をめぐる混乱から、共和党は、トランプ大統領が弾劾されたゼレンスキーとの通話と類似しているとして、バイデンに「会話の記録を公開」するよう求められる事態に発展している。
当然、NATO諸国においてさえ、米英の好戦的・威嚇的な姿勢から脱却する動きが表面化し始め、ドイツは中立性を明らかにし、スウェーデンはウクライナへの武器輸出を禁止し、クロアチアは戦争になればNATOから全軍を呼び戻すと声明を発表している。フランスのマクロン大統領は、「我々はモスクワとの対話を決してあきらめない」と述べ、NATO諸国間の亀裂が表面化しだしている。
しかし、すでにバイデン大統領は、この地域に駐留する8500人の米軍に厳戒態勢を命じ、米議会は早ければ来週にも、ウクライナに5億ドルという途方もない額の新兵器を供与し、軍事援助先としてウクライナを第3位に浮上させる大規模防衛パッケージ法案を通過させようとしている。

一方で、1/26、ロシアとウクライナはパリで会談し、両者はウクライナ東部の紛争地域・ドンバスでの停戦合意を確認しているが、ロシアのラブロフ外相は、この地域に配備されている約10万人の「膨大な数の軍人」をウクライナ政府は管理できていないことについて警告している。つまり、アメリカはこの地域で起こるあらゆる暴力、武力衝突を、すべてモスクワのせいにする態勢で待ち構えてもおり、ゼレンスキー政権がこの米側の意図に沿わないとみれば取り換える算段でもあることを示唆している。ウクライナをめぐる危機は、まだまだ煽られ、利用される事態が継続しているのである。

<<ほくほくの軍需独占企業>>
このようなバイデン政権の緊張激化・戦争挑発政策に最も期待を寄せ、利益を見出しているのが軍需独占企業であり、エネルギー独占資本であろう。すでに米石油独占資本は、バイデン政権のウクライナ危機激化政策に便乗して、石油・ガス価格を高騰させ、大挙して欧州諸国へガス輸出船団を差し向けている。とりわけドイツにロシア産より高価な米国産天然ガスを売り込み、あわよくばドイツに直結するロシア産ガスパイプライン・ノルドストリーム2を停止、ないしは破壊をさえ期待しているのである。
1/25、米軍需独占企業・レイセオン・テクノロジーズCEOのグレッグ・ヘイズ氏がCNBCの「Squawk on the Street」に出演、同社の最新の第4四半期業績報告について説明したなかで、ロシア・ウクライナ情勢について語り、米国の同盟

国を武装させる上で同社が果たすことができる役割を自慢し、「ミサイルシステムや役立つ可能性のあるいくつかの防御兵器システムを提供できます。」と述べ、「東ヨーロッパの緊張、南シナ海の緊張、これらすべてが、防衛費増大の圧力を強め、私たちはそれからいくらかの利益が得られることを完全に期待しています」と言い放っている。
1/25に発表されたレイセオン・テクノロジーズ(RTX)2021年第4四半期決算説明会議事録で、同氏は「当社は今期も堅調な業績を上げ、通期ではトップラインとボトムラインの両方が成長し、50億ドルのフリーキャッシュフローを達成しました。これは、2020年の実績の2倍以上です。」「また、世界的な脅威の高まりを受け、当社の製品およびサービスに対する国際的な需要は引き続き旺盛です。航空宇宙・防衛分野への注力と1,560億ドルの受注残は、2022年以降も事業を成長させることができると確信しています。」「防衛関連の受注残は630億ドル超と引き続き堅調で、IRSとRMDの受注残高はいずれも1.0をわずかに上回る水準で1年を終えました。年初の大型受注に加え、第4四半期には13億ドル超の機密案件、IRSの6億7000万ドル超の電子光学赤外線案件、RMDの7億3000万ドル超の標準ミサイル2量産案件など、注目すべき受注がありました。」、「中東であれアジア太平洋地域であれ、敵対関係が発生した場合、すぐにその恩恵にあずかれるわけではありません。しかし、2022年以降になれば、国際防衛費は回復し、帳簿価額も倍以上になると期待しています。」と、実に露骨である。

同じく、軍需独占企業のロッキード・マーティンの会長兼社長兼最高経営責任者であるジム・テイクレートは、1/25の 決算発表で、「北朝鮮、イラン、そしてイエメンや他の場所、特に今日のロシア、そして中国を含むいくつかの国が取っている脅威レベルとアプローチを見ると、会社にとってより多くのビジネスの前兆となっており、私たちは傍観せず、それに対応できる必要があります。」と述べ、「アラバマ州コートランドに、ミサイル・射撃統制と宇宙極超音速プログラムの両方をサポートするインテリジェントな先進極超音速攻撃機生産施設をオープンさせました。」と報告、さらに「国防総省の予算について簡単に触れます。今期、米国議会は2022会計年度国防権限法を上下両院の強力な超党派の支持を得て可決しました。その後、NDAA政策法案はバイデン大統領によって署名され、成立しました。この法案では、国防省の防衛プログラムに250億ドルの増額を認め、合計約7,400億ドルとなり、投資勘定は大統領の当初の要求額より約8%引き上げられました。」「ロッキード・マーチンとして、今後の事業の成長を促進し、21世紀のデジタル世界の技術を国防事業に取り入れるという当社のビジョンを推進していくことができると確信しています。」「この国防権限法(NDAA)で議会が発表した内容は、本当に心強いものでした。ブラックホークを9機、CH-53Kを2機、C-130Jを4機、そしてTHAAD迎撃ミサイルを12機追加しました。さらに、戦術ミサイルや打撃ミサイルのプログラムへの資金援助も増えました。このように、NDAAの影響は文字通り全社に及んでいます。2022年9月31日までに、継続審議が解決されることを想定しています。NDAAの影響と、それに伴う国防予算の計上を期待し、将来の収益のパイプラインを構築することになります。」と、実に意気盛んである。

ジェネラルダイナミクスも1/26の決算発表で、「ウクライナとロシアで起こっていることはすべて見出しになっています」「戦闘車両に対する東ヨーロッパの需要は高いレベルにある」ことを認めている。

ボーイングも、1/26の決算発表で、副社長兼最高財務責任者のブライアン・ウェストは、高水準の軍事費に対する共和党と民主党の両方の支援が会社の利益に役立っていると述べ、「防衛および宇宙市場では、安定した需要が見られます」、「私たちは引き続き米国の連邦予算プロセスを監視しており、ボーイングの製品やサービスを含む国家安全保障に対する強力な超党派の支持を確認しています。世界的な脅威を考えると、ボーイングの製品やサービスを含む国家安全保障に対して、超党派で強い支持を集めていることが確認されています。」と胸を張っている。
いずれもバイデン政権さまさまである。石油独占体と軍需独占体からバイデン政権が強力な支援がなされるゆえんでもあろう。

しかし、1/28に発表された新しい世論調査の結果によると、大多数のアメリカ人は、バイデン政権がウクライナ危機の外交的解決に向けてロシアと協力し、破滅的な戦争を回避することを望んでいることが明らかになっている。全体の58%が「ウクライナに関する戦争を回避するためのロシアとの取引」を「多少」または「強く」支持しており、民主党支持者では71%が支持し、無党派層では51%、共和党では46%が外交的解決を支持している。

バイデン政権は、インフレが40年ぶりの高水準にあること、バブル経済がいよいよ破綻しかかっていること、パンデミック危機がトランプ前政権よりも悪化していること、政権支持率がどんどん低下してきていること、等々、自らが招いた政治的経済的危機を、対ロシア、対中国の緊張激化・戦争挑発政策で目先を変えさせようとしているが、事態は一層悪化するばかりである。緊張緩和・平和的外交政策に全面転換しない限りは、この危機から脱出することは不可能である。
(生駒 敬)

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