【投稿】「ロシアのウクライナ侵攻」というフェイクニュースを振り撒いたバイデン政権
福井 杉本達也
1 「2月16日にロシアがウクライナに侵攻する」とフェイクニュースを振り撒いた米英と日本のマスコミ
英国のタブロイド紙『The Sun』は2月15日「DAWN RAID Russia set to invade Ukraine at 1AM tomorrow with massive missile blitz and 200,000troops,us intelligence claims」(米国情報機関: 明日、ロシアがウクライナ侵略。大量なミサイルと20万人の軍隊で)と報じた。しかし、「ロシアの侵略」の日に何も起こらなかった。「誰もウクライナを攻撃するつもりはなかったことは明らかであり、行くつもりはありません。とにかく、モスクワは『それは挑発されることはありません』、(シンデレラ物語のように夜の12時を過ぎて)『カボチャ』に変わった欧米のメディアは、どのように振る舞い、自分自身を正当化するのか」、「ホワイトハウスのサキ報道官は、ロシアは『1月中旬から2月中旬まで』に(ウクライナを)侵略すると述べた。しかし、その期間は終わりました 。そして、誰か彼女の大胆な予測に何が起こったのかを尋ねましたか?そうではありません。アメリカのメディアの誰も彼らが昨日言ったことを気にもしないのです」(RIAノボスティ(露語訳)2022.2.16)。
にもかかわらず、日本のマスコミの2月17日のトップ見出しは「ロ軍撤収確認できず・ウクライナ国境」(福井=共同:2022.2.17)であった。「パイデン米大統領は15日、ホワイトハウスで演説し、ロシアが発表したウクライナ国境周辺からの軍部隊の一部撤収は『確認できていない』と述べた。『侵攻の可能性は十分残っている』と強調したと報道している(同上)。いったいこのようなフェイクニュースのたれ流しは誰の得になるのか。
2 米国の馬鹿さ加減に困惑する岸田政権―エマニュエル米駐日大使の「北方領土」発言
2月12日の産経新聞にはめずらしく「エマニュエル氏は7日に投稿したツイッターの動画で『米国は北方四島に対する日本の主権を1950年代から認めている』と発言した。同じ動画ではウクライナ情勢についても言及し『10万人の兵士を集め、欧州を紛争と危機の危険にさらしている』とロシアを非難した。」が、「これに対し、林芳正外相は10日の記者会見で『日本側の立場への支持を表明したものとして歓迎している』と述べた。」と一応、「属国」としては、米国追随の姿勢を示したと報じたものの、すぐ続けて「日本は平成30年にシンガポールで行われた日露首脳会談で、平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すとした昭和31年12月の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速すると確認し、事実上「2島返還」を優先する姿勢に転じた。岸田政権もシンガポール合意を引き継ぐ立場だ。」と書き、「米国は過去には2島返還を模索する日本を牽制している。日ソ共同宣言前の31年8月、ダレス米国務長官(当時)は重光葵外相(同)との会談で、日ソ接近を阻止するため、『日本がソ連案を受諾する場合は米国も沖縄の併合を主張しうる』と恫喝(どうかつ)した。外務省幹部は『米政府がダレスみたいな牽制球を投げることは、たまにある』と明かす。エマニュエル氏は大統領首席補佐官や下院議員の時代から老練な交渉力で知られる。動画には、領土交渉を進めようとすればロシアに利用されかねないと警告する意図があったとしても不思議ではない。」と書いた(産経:2022.2.12)。まさか、産経新聞に「ダレスの恫喝」が出てくるとは思わなかった。
米国による「ロシアの侵攻」「台湾・ウイグル問題」のフェイクニュースの洪水は「アメリカの北大西洋条約機構(NATO)や他の西側同盟国がロシアや中国とのより多くの貿易と投資を開放するのを防ぐために、内側に向けられている。その目的は、ロシアと中国を孤立させるというよりは、これらの同盟国をアメリカ自身の経済軌道の中にしっかりと保持することである。」(マイケル・ハドソン(英訳):2022.2.8)ということを、日本の外務省・岸田政権も十分理解しているということである。しかし、「属国」として、「帝国」とどのような距離感が取れるかに悩んでいるということであり、産経以外の各紙が垂れ流すようにはエマニュエル駐日大使の発言を歓迎していないという本音である。逆にいえば、毎日のように米英が「ロシアの侵攻」を口にしなければ、同盟国という「属国」を繋ぎ留めておくことすら出来なくなっていることを示している。渦中のウクライナの「ゼレンスキー大統領は、冷静な対応を米国やNATO、ロシアに呼びかけており、危機に瀕した国のリーダーという感じではない。いずれにしても、米国のワンマン・バンド(「独り舞台」を意味する)の時代は終わりを告げたことを意味する(小川博司「プーチンに足元を見透かされるバイデン政権、激しい威嚇も空砲か」:JBpress 2022.2.14)。
3 ウクライナ危機を煽ることで本当に困るのはドイツを中心とする“西側同盟国”
1969年には旧西独首相になったブラントは、旧ソ連との関係緊密化を図る「東方外交」を進め、その際、双方に利益になる象徴的なモノが天然ガスだった。1970年2月1日にソ連-西独の最初の天然ガス輸出契約が調印された。米国は西側「属国」をその支配下に置いておくためにはエネルギー資源をロシアに依存することは好ましくないと考えている。また、ロシアからの安い天然ガスがEUに入ることはEUの経済力を高め、米国の力を削ぐことになる。そこで、ウクライナのオレンジ革命や“マイダン”など様々な機会を利用し、なんとか、欧州へのエネルギーの流れを断ち切ろうとしてきた。今回のウクライナを巡る危機もその一環である。
ベトナム・ビングループ主席経済顧問の川島博之氏は、今回の危機を「米国はロシアに対して強硬な態度を貫くことによって、ウクライナに攻め入るように仕向けているように見える。…米国はウクライナの主権を重んじると言って、ロシアとの妥協を頑なに拒んでいる。…米国はそれほどまでに他国の主権を尊重する国なのであろうか。…米国はこれまで何度も中南米やアジアの国々の主権を踏みにじってきた。…米国の本心はそこにはないと考えたほうがよい。米国はロシアを追い込んでウクライナに攻め込ませたい。そうなれば経済制裁として、西側諸国がロシアから天然ガスを買うことを止めさせることができるからだ。それによって最も困るのはドイツである。米国は痛くも痒くもない。」「ロシアがウクライナに攻め込んだら、米国は経済制裁と称して西側諸国がロシアから天然ガスを購入することを止めさせるであろう。ロシアは、ドイツの代わりに中国に買ってもらえばよい…中国相手の商売なら、ドルでの決済ができなくなっても交易できる…困ったのはドイツだ。米国は、日本が中東から買い付けている天然ガスの一部をドイツに回すように働きかけたが、それは口先だけのサービスである。」(川島博之「米国はウクライナ危機を煽っている?背後に『SDGs潰し』の思惑か」:JBpress 2022.2.15)と分析している。
2月10日の日経は「LNG、欧州に融通・経産相表明・バイデン政権の意向」、「日本政府内では国内の需給にそれほど余裕がなく対応は難しいとの声も出ていた」。それを米国は自らの戦略に「巻き込もうと強く迫った」(日経:2022.2.10)という。2月13日のTBS「サンデーモーニング」において、寺島実郎氏は日本が輸入するLNGのうちロシア産LNGが10%を占めることについて、危険だと“のたまわって”いたが、危険なのは米国の息のかかったLNGを輸入していて肝心な時に止められてしまうことである。日本が開発に参加している東シベリアや北サハリンなどの天然ガスをパイプラインで運べばエネルギーの安全保障は格段に高まる。「財務省が17日発表した1月の貿易統計(速報)によると、全体の輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は、原油高の影響を反映し、2兆1911億円の赤字だった。赤字は6か月連続で、金額も月額の統計として比較可能な1979年1月以降、過去2番目の大きさとなった。」「サウジアラビアなどからの原油が84・6%増となったほか、豪州からの石炭や液化天然ガスといった資源が大きく膨らんだ」(読売:2022.2.17)からだとする。岸信夫防衛大臣のように、「敵基地攻撃論」ばかり振り回すのが安全保障ではない。
4 アフガン中央銀行の資産を「強盗」するバイデンの言葉など信用に値しない
2月13日の共同通信は「パイデン米大統領は11日、米国内の金融機関にあるアフガニスタン中央銀行の凍結された資産計約70億ドル(約8千億円)を、ニューヨーク連邦準備銀行の口座に集めるための大統領令に署名した」とし、その半額の35億ドルを、9.11の「米中枢同時テロの犠牲者遺族に対する賠償に使われる」と報じた(福井=共同:2022.2.13)。アフガンの人民は2021年8月の米の無残な撤退以降、資産を凍結され、外貨不足や西側諸国の経済封鎖により、飢えと寒さに苦しんでいる。その資産をさらに無慈悲に奪い取るというのである。
しかも、その金を9.11の犠牲者遺族の賠償に使うというのであるが、その賠償について、CRI時評は「別の面から汚い内幕が暴かれている。米政府は16年も引き延ばした末にようやく2017年に9.11事件の被害者遺族が当然受けるべき賠償を始めたが、2019年に米政府が法改正により『被害者遺族』の範囲を定義し直したため、一部の非直系の被害者遺族は賠償を受けられなくなってしまった。そうした人々が米裁判所に米政府を提訴すると、彼らの弁護士は、2020年から21年までの間に米政府に『悪魔との取引』を持ちかけた。すなわちアフガニスタンのタリバンを被告として追加し、アフガニスタン中央銀行が米国内に持つ資産を賠償の源として、米政府がその中から一部を分割することを許すというものだ。この馬鹿げた理由は、多くの米国人にとって受け入れ難いものだ。米政府がなりふり構わずそのようなことをしたのは、内政・外交ともに行き詰まったことの産物」である(CRI時評:2022.2.14)と報じている。
そもそも、アフガンを侵略したのは、テロの“首謀者”?であるサウジの富豪出身のウサマ・ビン・ラディンを“かくまっている”というアフガンにとっての全くの言いがかりであり。米国とNATOはアフガンを占領し、20万人もの人々を虐殺し、社会的インフラを完全に破壊しつくして撤退した。旧ソ連のアフガン侵攻に対抗するためとしてビン・ラディンを利用価値のある「ムジャヒディン」として支援したのは他ならぬ米国である。アフガン人にとっては全くの濡れ衣であった。
ウクライナの危機の目的は、こうした米国のアフガンでの無残な敗北と「強盗」行為から世界の目をそらすことにある。もう一つは、危機を煽って軍産複合体の懐を潤すことにある。落日の「帝国」はなりふり構わぬ。危険なのはでっち上げによる戦争である。そろそろ、「属国」も後先を考えず吠える落日の「帝国」から足を洗う潮時である。野党(れいわを除く)も、くだらないウクライナ国会決議に同調するのではなく、自分の頭で考える時である。