【投稿】円安・資源高騰―崩れゆくドル基軸体制を支え続けた結果
福井 杉本達也
1 ウクライナ侵攻でロシアルーブルよりも下落した日本円
4月3日の産経新聞は「外国為替市場で円の独歩安が進み、ウクライナ侵攻に伴う制裁で暴落したロシアのルーブルに対してすら値を下げ続けている。米欧が新型コロナウイルス禍の『出口』に向け肥大した金融緩和の引き締めに転じたのとは裏腹に、低温経済の下で緩和を続ける日本の国力低下を物語っている。」と報じた。3月28日の外国為替市場で対ドルで円は125円台をつけた。これは2015年8月以来の円安水準となる。要因は3月28日に日銀が国債を無制限に決まった利回りで無制限に買い入れる「連続指し値オペ」を実施すると発表したことにある。日経は「円安が急加速し、円の下落と経常収支の悪化が共振作用を起こす『円安スパイラル』への警戒が強まっている」(2022.3.30)と書く。
2 アベノミクの異次元緩和による通貨安は国民を貧しくした
アベノミクスの異次元緩和とは、日銀が国債を買って通貨である円を増刷するということである。他国よりも多く通貨を増刷すれば、通貨1単位の価値は減って通貨安(円安)となる。 BISの算出する実質実効為替レート(2010年=100)は今年2月には66.54と、1972年2月の66.25以来の50年ぶりの低水準となった(日経:2022.3.18)。他国と比較すれば、既に1人当たりGDPでは韓国に抜かれ、日本は50年前にもどったということである。もし、今、海外旅行をすれば、欧米のみならず、アジア諸国の物価が非常に高くなっていることを実感するであろう。ビックマック指数というものがある。各国でビックマックを買うのにいくら払うかで物価の比較をしようというもので、日本は390円で33位、米国は669円で3位、中国は442円で26位、韓国は440円で27位となっている。マネーの増刷は国民を豊かにするのではなく貧しくしたのである。日本の全世帯が保有する預貯金は約1000兆円である。この利子は1998年からほぼゼロ%である。普通の金利が3%と仮定するなら、日銀のゼロ金利政策により預金者から年間30兆円を収奪していることになる。これは消費税にして6%に相当する。6%の消費税を払わされているのと同じ効果である。20年間で約600兆円の巨額な税金がかけられてきたといえる。これは世帯所得の2年分になる。これで国民が貧しくならないという方がおかしい。
3 ウクライナの戦争を煽るための円安誘導
資源高で円安は悪い影響を与えるにもかかわらず、なぜ、ここに来て日銀はさらに円安をすすめようとしているのか。それは、円の金利を極端に下げ(=「金融抑圧」)、米国との金利差をつけて日本の資金で米国債を買わせ、米国財政の補填をするためである。これまで、米国が中国敵視政策を取るまでは中国も米国債を購入してきた。しかし、中国はこれ以上米国債を買い増しすることはない。頼りとするのは日本だけである。パイデン政権によるウクライナへの軍事支援は23億ドルで、そのうちウクライナ侵攻後が16億ドルといわれる。また、2022年10月の会計年度からの国防費を21年度比4%増の8133億ドル(約100兆円)とするよう予算を組む。こうした軍事費・軍事支援費の多くが日本からの米国債の購入によって支えられることになる。
これには前歴がある。2003年から2004年のイラク戦争時において、日本は米国債を3850億ドルから6974億ドルにまで8割も積み増ししてイラク戦争の戦費をファイナンスしたのである。これらの経緯については吉川元忠氏の『経済敗走』(ちくま新書)で詳しい分析がなされている。水野和夫氏は「小泉・安倍両政権の構造改革路線とは日米軍事同盟を維持するための日本の米国への貢物だったことになる」と書いている(水野:『次なる100年』)。