<<「ドル基軸通貨制度に対する最大の脅威」>>
4/10、インドのThe Statesman紙は、ブラジル(B)、ロシア(R)、インド(I)、中国(C)、南アフリカ(S)のBRICS5カ国の中央銀行が、外部からのショックからそれぞれの自国経済を守るために「代替通貨」準備を共同でプールできる銀行メカニズムの第5回テストを実施することにすでに合意していると、報じている。
これは、4/8、ロシアのアナトリー・シルアノフ財務相が、BRICSとの閣僚会議で提起したもので、BRICS5カ国が力を結集し、自由に
使えるさまざまな金融手段を利用することで、欧米の対ロシア制裁によって自国経済に及ぼす反発を緩和することを提唱し、「現在の危機は人災であり、制裁により世界経済の状況は大幅に悪化している。BRICS諸国は国内および世界経済への影響を緩和するために必要なすべての手段を持っている」として、ウクライナ危機を口実としたロシアへの経済制裁が「米ドルを基盤とする既存の国際通貨・金融システムの基盤を破壊した」と非難し、BRICSに対し、対外貿易における自国通貨への依存度を高め、決済システムを統合し、SWIFT決済メッセージプラットフォームに代わるものを構築する」ことを提案したものである。
「輸出入業務における各国通貨の使用、決済システムとカードの統合、独自の金融メッセージングシステム、独立したBRICS格付け機関の創設といった分野での作業を加速させる必要性」をシルアノフ氏は提起し、4/9、5カ国の中央銀行はすでに、外部の衝撃から守り、危機を緩和する「代替通貨」準備を共同でプールできる銀行メカニズムの第5回テストを実施することに合意していると、ロシア財務省が発表した。
アメリカの経済専門サイト・ゼロヘッジは、これを「ドル基軸通貨制度に対する最大の脅威」だと報じ、「BRICSを中心とした決済システムは、現在のドル覇権主義に対する究極の挑戦となるだろう。これが口先だけだとしても、ドルが揺らいでいることは明らかだ。」と指摘している。
<<「世界の商品価格、40%以上上昇する可能性」>>
米、英、EU諸国はロシアのウクライナ侵攻をここぞとばかりに、制裁の連発でロシア経済を屈服させる絶好の機会到来と勇んだのであるが、そのブーメランは予想以上に厳しい現実となって跳ね返ってきているのである。対ロシア制裁でドルの立場が弱くなったことが露呈し、エネルギー、食糧から、今やあらゆる商品の価格上昇を自ら招き入れ、それぞれの自国通貨の購買力をこれまでになく低下させてしまったのである。実体経済に依拠しない投機主導型のマネー経済・金融資本主義優位のツケが大きく覆いかぶさってきたのである。
対してロシアは、ドル連動を廃して、ルーブルを商品価格に連動させ、事実上、金のペッグ制を導入したのである。ロシアや中国が意識的に金をため込んできた理由が自明、合目的となったのである。
ロシアは、ウクライナ侵攻の罠に自らはまり込んでしまって、自らを取り巻く環境や戦況を読み違えてしまったのであるが、欧米やG7は制裁のブーメランやロシアの経済状況をこれまた読み違えてしまったのである。
超金融緩和で不換紙幣を乱発し、大幅な財政赤字を抱えてきた欧米諸国、日本を含むG7諸国は、金融バブル破綻の淵に追いやられ、インフレ高進になすすべなく、今や、米最大の金融独占資本・JPMorganは、世界の商品価格が40%またはそれ以上上昇する可能性を予測する事態である(4/10、zerohedge.com)。JPMorganは、「欧米のロシアへの制裁は、それらの資源の世界的な供給を悪化させた」として、原油がすでに前年同月比で33%上昇し、天然ガスは65%上昇、小麦は33%上昇と急伸し、「原材料が過去最高値を記録したことから、商品価格は40%上昇し、今後も上昇を続ける可能性が高い」と指摘している。
ドル陣営の他の2つの主要通貨であるユーロと円も、米政権に追随することによって、ドルよりもさらに悪い状態に落ち込む可能性が浮上しつつある。購買力が目に見えて低下しているにもかかわらず、インフレを回避すべきものが、逆にインフレに期待する政策ーヨーロッパ中銀・ECBと日銀は依然としてマイナス金利と金融緩和にしがみつき、価値の下がるドルに対してさえ、円安、ユーロ安が進行している事態である。ブラジル・レアルやメキシコ・ペソ、さらには南アフリカ・ランドでさえ、ドルに対して価値を上げているのとは、対照的である。
実体経済を無視してきた、投機的な金融資本が主導する金融資本主義の破綻が、いよいよ持続不可能となる、ドル覇権主義が崩壊しかねない重大な事態に直面しつつある、と言えよう。
(生駒 敬)