<<「不測の衝突の危険性」>>
4/16、ロシアのタス通信は、ロシア国防省の発表として、ロシア軍が西側諸国の武器を輸送していたウクライナ軍の輸送機を墜落させた、撃墜は対空システムを通じてオデッサ郊外で行われたと伝えている。4/17、中国国営メディアCGTNもこの報道を取り上げ、「ロシア国防省報道官のイーゴリ・コナシェンコフ少将は、ロシア対空防衛軍は、西側諸国からウクライナに供給された大量の武器を運搬していたウクライナ軍の輸送機をオデッサ付近で撃墜した」と報じている。西側では一切報じられていない。確認されれば、米欧・NATO側との対立をより直
接的にエスカレートさせる可能性が大であり、より大規模な世界大戦への危険な展開を示すことになる。
コナシェンコフ少将によると、「過去24時間で、ロシアのミサイル部隊は、ウクライナ軍の274の拠点と敵の人員が集中する地域、24の司令部、2つの野外燃料施設を含む317の軍事施設に打撃を与え、ロゾバヤとヴェセラヤでは、ウクライナの無人機2機が撃墜された、ウクライナ軍の人員とハードウェアが集中する67箇所を破壊した」、という。
さらに4/17、ロシア外務省のニコライ・コルチュノフ特命大使が記者会見で、NATOの非北極圏諸国が北方地域におけるNATOの軍事活動に関与することを懸念しており、北極圏におけるNATO同盟軍との不測の衝突の危険性に留意していることを明らかにした。北極圏理事会高級実務者委員会の委員長を務める同大使は、「高緯度地域における同盟の軍事活動が国際化し、北極圏以外のNATO諸国が関与していることは、懸念を引き起こさないわけがない」と述べ、「安全保障上のリスクだけでなく、脆弱な北極圏の生態系に深刻なダメージを与える可能性がある」と指摘し、「スウェーデンとフィンランドがNATOに加盟すれば、北極圏の安全保障と信頼が損なわれる」ばかりか、「伝統的に非加盟国である国々を犠牲にしてNATOが拡大すれば、ロシアが一貫して主張してきた北極圏の安全と相互信頼には貢献しない」と強調している。
フィンランドは6月に加盟申請書を提出し、スウェーデンもそれに続く予定だと報じられており、ロシア外務省 は、フィンランドが同盟に加わった場合、「深刻な軍事的および政治的影響が生じる」と警告しており、ロシア安全保障会議のドミトリー・メドベージェフ副議長は4/14、スウェーデンとフィンランドがNATOに加盟すれば、当然、ロシアは西側の国境強化に動き、そうなれば「バルトの非核地帯の話はなくなるだろう」と述べている。核配備を予告するものであろう。
<<「暴言のエスカレート」>>
事態が危険な予測、展開を急速に帯びだしてきていることは間違いない。米・NATO側は明らかに、この間のウクライナ危機を徹底的に利用して、危機の平和的・外交的解決をあくまでも妨害、拒否し、泥沼の事態にロシアを引きずり込む意図が前面にでてきていることの直接的な反映であると言えよう。
その意図を露骨に表明しているのが、ジェイク・サリバン米国家安全保障顧問である。サリバン氏は、4/10のNBCのMeet the Pressで、「我々の政策は、ウクライナの成功のためにできることは何でもするという明確なものである。その目標を達成するために、アメリカはウクライナを武装させ、ロシアの経済に打撃を与える行動を取り続けるだろう」と語り、あけすけにロシアの「弱体化と孤立化」を見たいのだとまで語り、戦争は「長期化する」ことを請け合っている。そこには緊張緩和・平和的解決のの姿勢などまったく存在しないのである。マーク・ミリー米統合軍議長も同様のコメントを出し、「これは非常に長期的な紛争であり、少なくとも年単位で測定されると思う」と述べ、バイデン政権が平和的・外交的解決に何の関心も示していないことをあからさまにしている。それどころか、バイデン政権は、「アメリカの防衛関連企業が製造した武器の販売や移転に関するアメリカ政府の承認を迅速に行うため、国防総省は需要の増加に対応するためのチームを再確立した」(ロイター通信)、と産軍複合体の要望にすばやく応えることに懸命なのである。
4/13のCBS Newsは、バイデン大統領自身が、ウクライナでの戦争を「ジェノサイド」だと決め付けていることを報じ、バイデン氏が「家計もガソリンも、地球の裏側で独裁者が宣戦布告をして大量殺戮を行うかどうかに左右されるべきではない」、 「そう、私はそれを大量虐殺=ジェノサイドと呼んだ。プーチンがウクライナ人であるという考えを一掃しようとしていることがますます明白になったからだ」、「生活費の崩壊は我々の愚かな政策ではなく、プーチンのせいだ」とまで述べて、自らが招いている経済危機に対する自己弁護にやっきとなっている姿勢を浮き彫りにしている。
さすがに、この「ジェノサイド」発言に対しては、米国防情報局の高官が、ウクライナでの民間人の犠牲は現代戦の典型であり、大量虐殺には「到底」至らない、「実際の死者の数はジェノサイドとは言い難い。もしロシアがそのような目的を持っていたり、意図的に民間人を殺害していたなら、ブチャのような場所では0.01%未満よりもっと多く見られるはずだ」と強調する記事を、同じ4/13のニューズウィーク誌が掲載している。さらに、NBCは国務省の2人の高官の発言を引用し、バイデン氏の発言は 「国務省の機関が信頼できる仕事をすることを難しくした 」とまで述べた、と報じている。フランスのマクロン大統領は、ロシアがウクライナで「ジェノサイド」を犯しているというバイデン氏の主張を支持することを拒否し、「フランスの指導者は、暴言のエスカレートは平和をもたらさないだろう」と発言している。
<<「世界大戦はすでに始まっている」>>
問題は、「暴言のエスカレート」だけではなく、米政権内では、ウクライナへの米軍自身の派遣論まで検討されつつあり、4/18の報道によれば、バイデン大統領のパイプ役として知られる民主党のクリス・クーンズ上院議員が、4/17のCBSニュースのFace the Nationに登場、ウクライナへの米軍派遣を積極的に検討すべきだとして、バイデン政権と議会は、「いつ次のステップに進み、ウクライナを守るために武
器だけでなく軍隊を援助に送ることをいとわないか、共通の立場に立つべきである。」と明言する事態である。
アメリカだけではない。4/15の英The Times紙は、ウクライナの指揮官が、英国の特殊空挺部隊(SAS)の兵士がキエフで、ロンドンから提供された対戦車兵器の使い方をウクライナ軍に直接教え、訓練に従事していると、タイムズ紙に語ったと報じている。
指揮官の証言によると、英国軍は約2週間前にキエフに到着し、NLAWとして知られる次世代軽戦車兵器の訓練を開始した、というのである。これは、NATO加盟国がウクライナに軍隊を駐留させていることを示す初めての報告であり、モスクワを刺激する危険性が極めて高いと言えよう。英国国防省は、特殊作戦についてコメントしないという立場を理由に、訓練ミッションについて確認を拒否している。
直近発売中の月刊「文芸春秋」5月号【緊急特集 ウクライナ戦争と核】 日本核武装のすすめ 米国の「核の傘」は幻想だ という論考で、エマニュエル・トッド氏は、欧州を「戦場」にした米国に怒りを覚えている、と述べる。氏は、ロシアの侵攻が始まる前の段階でウクライナは「NATOの事実上の加盟国」となっていたこと、米英が高性能の武器を大量に送り、軍事顧問団を派遣し、ウクライナを「武装化」していた、ロシアは明確な警告を発してきたのにもかかわらず、西側がこれを無視してきたことが、今回の戦争の原因だと論じる。その上で、「第三次世界大戦はすでに始まっている」、なぜなら、ウクライナ問題がグローバル化=「世界戦争化」され、ウクライナ軍は米英によって作られ、米国の軍事衛星によって支えられた軍隊で、その意味でロシアと米国はすでに軍事的に衝突しているからです、と論じている。米英、主流派メディアや野党をも含めた体制翼賛的な、一方的なロシア批判に対する反批判として評価できよう。 論考の最後で付け足し程度で、日本の核保有について、「核共有」「核の傘」は幻想であり、核保有が真の「自律」の手段だという論はいただけるものではないが、論の中心的論点であるウクライナ危機のとらえ方では的を射ていると言えよう。
ウクライナ危機の「世界戦争化」は、日に日に重大な現実的危機として拡大しつつあることに対して、警告を発し続けることが求められている。悲惨で残酷極まりない難民危機を一刻も早く解決し、即刻、関係国すべての軍事停戦に向けた協議こそが追求されるべきであろう。
(生駒 敬)