【投稿】国際金融資本・軍産複合体の代理人と化す「グリーン」

【投稿】国際金融資本・軍産複合体の代理人と化す「グリーン」

                         福井 杉本達也

1 欧米発の「グリーン水素」・「ブルー水素」という胡散臭い金融商品

燃やしても二酸化炭素を出さない水素を「夢の燃料」と呼ぶ。中でも「グリーン水素」・「ブルー水素」という胡散臭い“商品”が横行している。日経は、燃料電池車などに使用する水素は「造り方でで大きく3つに分けられ、再生可能エネルギーで水を電気分解して造り出す水素を『グリーン水素』と呼ぶ。化石燃料で造り、製造時に生じるCO2を地下に貯留するなどして減らしたものを『ブルー水素』とし、何も手立てをしないものを『グレー水素』とする。」このうち、EUは『ブルー水素』の基準を2022年1月から厳しくした。「化石燃料の採掘から水素の製造、消費までに発生するCO2を7割超減らした水素をクリーンとみなす規則を施行した」。それ以外は認めないとする。国際標準作りで先行し、投資マネーを呼び込む思惑があると書く(日経:2022.5.8)。

一次エネルギーは3種類、①石油・石炭・天然ガスなど化石燃料・②原子力・③水力・風力・太陽光などの自然エネルギーがある。一次エネルギーを加工したものが二次エネルギーで、④電力・⑤石油製品・⑥水素などである。水素は、 天然ガスを分解して、CH4+2H2O→4H2+CO2 として取り出すか、水の電気分解しかない。天然ガスを分解して発生したCO2は回収・圧縮して海底や地中深く埋めてしまうCCS(Carbon Capture and Storage)を適用することになっているが、CCS には莫大なコストとエネルギーがかかる。そもそも、最も質の高い、使い勝手の良い二次エネルギーである電力を、わざわざ使い勝手の悪い、危険性の高い水素に変換する必要があるのか。また、③再生エネネルギー→④電力→水の電気分解→⑥水素→燃料電池→④電力というのはエネルギー変換するたびにロスが発生し、誰が考えても無駄の極みである。

ドイツは4月6日に発表したエネルギー新戦略で、2030年までに電力消費に占める再生可能エネルギーの比率を21年比2倍の80%に、35 年にはほぼ100%にする政策を打ち出したが(日経:2022.4.8)、③再生可能エネルギーで生み出す④電力というエネルギーは電力として使えばよい。ところが、自然が相手であるため、太陽光は夜間や雲があると発電しない。風力も風に影響される。既に、ウクライナ侵攻前においても「欧州のエネルギー不足は、風が吹かず風力の発電量が低下したことも響いており、貯蔵や需給調整」が課題と報じられている(日経:2021.10.26)。要するに使い勝手が悪いエネルギー源なのである。そのようなものが100%となることは考えれれない。そこには、別な思惑が蠢いている。まず、再生可能エネルギーという詐欺商品に対する投資マネーの呼び込みである。詐欺は規模が大きければ大きい程、都合がよい。もう一つが、ロシアのウクライナ侵攻により、ロシアの天然ガス依存を下げたい政治的思惑がある。しかしそれは、ドイツ自身の首を絞める。

2 「空気」を商品化し、投機の対象とする飽くなき国際金融資本と「グリーン」

「空気や水のように」といわれるように、我々が生存するうえで欠かせないもので、どこにでもあるもの(水は貴重でもあるが)であるが、宇沢弘文氏は、それを「社会的共通資本」と呼び、「社会全体にとって共通の財産として、社会的な基準にしたがって管理・運営される」ものであり、「決して国家の統治機構の一部として官僚的に管理されたり、また利潤追求の対象として市場的な条件によって左右されてはならない」とした(宇沢弘文『経済学は人びとを幸福にできるか』2013.11.7)。国際金融資本は有り余るペーパーマネーの投機先として「空気」の商品化を思いついた。「空気」は無限であり、無限のペーパーマネーの投機先として、飽くなき利潤を追求できる場としてはもってこいの“商品”である。「空気」は主に、窒素・酸素・水蒸気や二酸化炭素などで構成されるが、「グリーン」は地球温暖化の原因物質だとして二酸化炭素に飛びついた。無謀にも、地球上から「炭素」を排除することを“正義”とした。まず、金融商品として開発したのが「排出権取引」である。膨大な二酸化炭素という「空気」が権利の対象として値段がつき、売り買いされることとなった。③自然エネルギーは「炭素」を出さないから「再生可能」でるという理屈である。しかし、太陽光パネルや風車は発電においては「炭素」を出さないが、製造工程や廃棄工程では「炭素」を出す。さらに蓄電したり、⑥水素に変換したりすれば「炭素」が増える。また、CCSのように地中に埋めてしまおうというのであるから、膨大な詐欺が成立する。

再生可能エネルギーという③自然エネルギーは④電力しか生み出さないし、その電力も自然条件に影響され、発電量は刻々変動する。電気は生産=消費であり、バランスが取れなければ停電してしまう。その変動を細かく調整できるのが、天然ガス火力発電である。「グリーン」による、天然ガスを排除しようとする試みは、邪悪な利潤追求の夢物語にすぎない。

3 「熱力学第二法則」に反する

化石燃料という『有限』に突き当たった先進国は「再生可能エネルギー」という人工的な『無限』を作ろうとした。「再生可能エネルギー」=無限にエネルギーを再利用=自然条件の制約からの解放=永続的な経済成長という幻想=“永久機関”を追いかけた。しかし、“永久機関”は残念ながら存在しない。「熱力学第二法則」に反するからである。ヘルムホルツは「自然界のいっさいの物体がもしも同一の温度を持っているならば、それらの物体の熱のある部分をふたたび仕事に変えるというようなことは不可能である。……高温物体の熱は伝動・輻射によってたえず低温の物体に移行し、温度の平衡を引き起こそうとする」と説明した。プランクの言葉では、「自然界にはいかなる仕方でも完全には逆行させることのできない過程としての非可逆過程が存在する」(山本義隆『熱学思想の史的展開・熱とエントロピー3』2009.2.10)。「再生可能」という言葉には、この「非可逆過程」を認めたくないという邪悪な思想が潜んでいる。極めつけが「グリーン水素」・「ブルー水素」やCCSである。いったん排出した二酸化炭素を再び回収しようというのであるから、膨大なエネルギーのムダである。

地球上の約1億年前の大規模な火山活動で、マグマに含まれる二酸化炭素が大気と海洋に供給された。それが、陸上に繁茂した植物の光合成によって二酸化炭素を吸収し、炭水化物として地表付近に固定された。その大量に蓄積された植物の遺骸が、腐食・埋積されて数百万年という長い時間をかけて地中で化石燃料に変化・凝縮されたもので、化石燃料は最もエントロピーが低い。だから使い勝手が最も良いのである。

資本主義は無限に経済成長を遂げていくシステムである。在野の哲学者・内山節氏は「資本主義には拡大再生産を遂げつづけることによって正常に展開するという側面が付随している。拡大再生産が止まれば、市場の縮小と失業問題、貧困の問題などが一気に吹き出してくる」。ところが自然が有限だと不都合なことになる。「資源の面でもそれが無限に存在しなければ、無限の経済発展とはつじつまが合わない」。つじつまが合わないことを「科学の発展に丸投げした」(内山節「近代世界の敗北と新しいエネルギー」『世界』2011.11)。しかし、水素や蓄電池などの“科学技術”が、それを解決することはない。

4 「グリーン」と「軍産」のシンクロ

ドイツのショルツ連立政権は2月27日、国防費の大幅増額を公表した。ブラントが東方政策を主導して以来、社民党政権は平和主義の先頭に立っているはずだったのだが。川口マーン恵美氏は、社民党の連立相手の緑の党について、「わからないのは緑の党だ。この党はかなりの左翼で、武器の『ブ』の字も口にしたくないという平和主義者の集まりだったはずだ。それが、ベアボック外相(緑の党・女性)が険しい声で『ウクライナに重火器も含む武器支援を!』と叫んだ途端、全員がいきなり『右向け右』。今やプーチンを武力で制圧することが正義となっている」と書いている(『現代ビジネス』2022.5.6)。

The Economistは「米国はウクライナに2018年以降、携行型の対戦車ミサイル『ジャペリン』7000基強、ジャペリン以外の対装甲シテム1万4000、地対空ミサイル「スティンガ」1400基、……」、ジャベリンは「ウクライナに渡した7000基は米陸軍備蓄の3分の1以上」となり、補充には3~ 4年もかかるという。「戦争が起きれば軍需物資がいかに消耗され」膨大な量になるのか述べている(日経:2022.5.10)。こうした兵器は、ウクライナに到着するとすぐにロシア軍のミサイルによって破壊される。しかし、レイセオンなど軍事産業は、それをまったく気にしない。兵器が破壊されれば破壊されるほど、米国防総省からの新たな注文は増える。戦争というものは何ものも生み出さない一方的な大規模な破壊である。しかし、それは資本主義にとっては、無限の成長・拡大再生産・超過利益となる。

「量的緩和」などと称して、ペーパーマネーを増刷し過ぎて、コモディティ市場の信認を完全に失い、紙くずになりつつあるペーパーマネーの反撃が、虚構の「脱炭素」市場であるが、それは、ロシアからの石油・天然ガスというコモディティをシャットアウトし、「再生可能エネルギー」を旗印として、金融詐欺・欧米電機産業などによる独占・3倍も高い米欧エネルギー資本への転換などによって、無限の成長・超過利潤を目論むものであり、「グリーン」の飽くなき欲望の最終形態である。ショルツ首相の評価はがた落ちだが、ベアボック外相の方は19%から66%へと急伸。また、緑の党のハーベック経済・気候保護相の人気も上昇している。川口氏は「勇ましいことを言っている国民も、戦うのはロシア人とウクライナ人だと思っており、自分たちに迫る脅威とは認識していない。だからこそ国民の過半数が、自分たちを元気に破滅に導いてくれそうな政治家に好感を持っている」と述べているが、実に恐ろしい政治家たちである(川口:同上)。“無限の利潤追求”という悪魔の思想が、国際金融資本・軍産複合体の代理人の中でシンクロナイズしている。

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