【投稿】ロシアへの経済制裁はその発動国を破綻させる
福井 杉本達也
1 憲法記念日の護憲集会で戦争を煽る金子勝氏
立教大学特任教授の金子勝氏は5月3日の福井市での護憲集会で、「ロシアのウクライナ侵攻を止めるにはロシアへの経済制裁しかないとし、プーチンの戦費の根源である資源輸出に対して、日本はサハリン1、2やアーク2などからすぐ撤退すべきだ。」と煽った。理由は安倍元首相らが開発を主導したからだという。さらに、会場からの質問に答える形での和田春樹氏らが3月15日に提案した、中国・インド・日本が主導して停戦を呼び掛ける案にも、見解が異なるとした。制裁する側も被害を被ることもやむを得ないという。円安に対する質問では、アベノミクスに責任があるとしたものの、ロシアからの石油やLNGがストップした場合、資源価格が暴騰し、益々の円安と資源高のダブルパンチで日本の経常収支は大幅に悪化することは必定であるにも関わらず、何の見通しも示し得なかった。全てを安倍元首相などの責任とすることは、経済学者がする話ではない。
2 経済制裁はその発動国自身をむしばむ
EUは現在、ロシアの石油や天然ガスの輸入を置き換えようと試みている。しかし、それは、ヨーロッパにおける経済の大混乱をもたらす。欧州と世界は、原油やガス価格のさらなる上昇と、短期から中期の供給途絶の可能性に苦しむことになる。
『芳ちゃんのブログ』は「ドイツ経済のために必要なロシア産天然ガスを直ちに破棄することは頭にぶち込まれた弾丸みたいなものだ。予測される損失はドイツ銀行によると1650億ユーロにもなる。BASFグループの指導者であるマルティン・ブルーデルミュラーはドイツにとっては経済危機が到来すると予測し、その規模は1945年以降で前例が見られないような水準となるだろうと述べた。ドイツはすでにリセッションに入っている。ショルツ首相の政策はドイツ人口の49%に不満をもたらしている。この連立内閣の人気は急速に低下しているが、これは生活水準がより急速に低下していることと直結している。」(芳ちゃんのブログ仮訳:Sanctions began to devour their creators: By Alexander Khabarov, RIA Novosti,Apr/24/2022 )とし、「最悪のシナリオは、ロシア経済が疲弊するのを待っている間に欧米自身の経済が破綻してしまうという笑うに笑えないような状況であろう。西側の敵と見なされているロシアは資源大国であり、かつ、食料大国であり、EUがロシア産エネルギーの輸入を止めたとしても、既存のパイプラインを経由して中国へ売ることができる。その一方で、ロシア産エネルギーの輸入を止めた欧州各国は、具体的に言えば、来年の冬は寒い冬を過ごさなければならない。そして、その次の冬も。お湯が24時間供給されず、シャワーを浴びることにも不自由する。時間制となるからだ。EUが必要とする天然ガスを他国から十分に輸入できるようにするには数年はかかると言われている。米国もカタールも直ぐに積み増す余裕はないのだ。EU諸国も受け入れ設備が十分ではない。」(2022.5.5)。と書く。戦争を煽る金子勝氏とは異なる、全く現実的な判断である。
3 大恐慌時に匹敵するまで膨らんだ米国の債務比率―自らが科した制裁によるインフレと金利上昇で崩壊へ
相場研究家の市岡繁男氏は、米国の弱点は、大恐慌時に匹敵するまで膨らんだ債務比率(米国の非金融部門(政府+家計+企業)債務比率)で、GDP比の296%にものぼる。「僅かな金利上昇で経済 は破綻しかねない。これに対しロシアの強みは、穀物やエネルギーなど1次産品を押さえていることだ。こうした資源の輸出を停止するだけでインフレが加速し、西側諸国はウクライナ援助どころではなくなる。これがロシアの最終兵器だろう)と書く(『エコノミスト』2022.4.12)。
IMFでさえ、「パンデミック中、以前起きた景気後退局面(世界大恐慌と世界金融危機という、最大規模のものを含む)をはるかに超える速さで赤字が増え、負債が累積した。その規模に匹敵するのは21世紀に起きたふたつの世界大戦のみだ。IMFのグローバル債務データベースによれば、借入は2020年に28%ポイント急増し、国内総生産(GDP)の256%まで上昇した。このうちの約半分は政府が占め、残りは非金融企業と家計部門だ。公的債務は今や世界全体の40%を占め、ここ60年弱で最大となっている。」と警告している(2022.4.11)。
米国の金利は3%を超えて急上昇し、多額の過剰債務を抱える北米と欧州(そして米ドルで借り入れたすべての低・中所得国)にさらなる苦痛を引き起こした。世界的な食料価格のインフレが加われば、ロシアは嵐の海に囲まれた穏やかな穏やかな海のように見えるだろう。ロシアは戦争をエスカレートする必要はなく、欧米を自ら押し付けた大釜 (cauldron)にとどめておく方が良い(Moon of Alabama:2022.5.5)との書き込みもある。
こうした場合、いわゆる「リベラル」よりも新自由主義の経済学者の意見がまともに見える。日経新聞のシンクタンク・日本経済研究センター理事長の岩田一政氏は、経済制裁により「ドル本位制度から締め出されたロシアの地域別外貨準備で、最も保有比率が高いのは自ら保有する金であり、商品(金)を基礎とする通貨体制を構築するかもしれない。」とし、ロシア寄りの国々に限定されるだろうが、『ブレトンウッズ体制Ⅲ』が誕生すると見ている(日経:2022.5.6)。ドル基軸体制の没落は避けられない。