<<バイデンの不況戦略>>
7/31、バイデン米大統領は、コロナウイルスの陽性反応が出て隔離された後、「皆さん、今日またコロナウイルスの陽性反応が出ました。これはごく一部の人に起こることです。症状は出ていませんが、周りの人々の安全のために隔離するつもりです。」とツイートしている。バイデン氏は、おそらくBA.5オミクロン亜種に感染、7/21に初めて陽性反応が出た後、抗ウイルス剤パックスロビド(
Paxlovid、ファイザー社製)による治療を受け、隔離を解除されてから3日余り経って再び陽性反応が出たと発表されている。
ホワイトハウスのコロナウイルス・コーディネーターの Dr. Ashish Jha は記者団に対し、このパックスロビッドは、コロナウイルスによる重症化のリスクが高い人向けの家庭用抗ウイルス療法で、その治療後に「5 ~ 8 % の人がリバウンドしていることを示唆する」データを示している。バイデン氏は、このリバウンドを経験する少数派に入るというわけである。
問題は、隔離解除後、ホワイトハウス内で行われた会議では、マスクを外してスピーチを行い、政府高官やCEOたちとのラウンドテーブルに参加し、いずれの場でもフェイスマスクは着用しなかった、という。”社会的に距離を置いていた “ので安全であると発表している。しかし屋内では、それはマスクを装着しない理由とはならないし、高濾過マスクの装着や換気をよくすることのほうが、社会的距離を置くことよりも感染に対する防御になることが推奨されている。リバウンド中に他の人に感染させている可能性があることは間違いない。意図的なのか、無意識なのかは別として、バイデン氏自身が事態を甘く評価し、軽視していたと言えよう。
この再度、陽性と判断される前の7/28、木曜日に発表された政府の新データ、米商務省経済分析局が発表した国内総生産(GDP)は2四半期連続でマイナス0.9%成長となったことが明らかにされた。
第1四半期の-1.6%から改善されたとはいえ、これは2四半期連続のGDP減少であり、少なくとも市場に関する限り、これがリセッション=景気後退の定義であることは否定しようがない現実である。記録的な高インフレと金利上昇により消費者と企業が支出を控えたため、景気後退の基準を満たしたのである。
ところがバイデン氏は声明を発表し、「昨年の歴史的な経済成長から、パンデミック危機の間に失われた民間部門の雇用をすべて取り戻したのだから、連邦準備制度理事会がインフレを抑えるために行動する中で、経済が減速するのは当然だ」と述べ、これはリセッションではない、リセッションに入ることはない、「失業率は3.6%で、第2四半期だけで100万人以上の雇用が創出され、歴史的に好調を維持している」のだから、「私の考えでは、我々は不況に突入していない 」と強弁している。しかし、新規失業保険申請件数はコロナウイルス政権後の最高値に近い水準にとどまっていることさえ認知できず、事態を甘く評価し、軽視しているのはコロナウイルス評価と同様であるが、ここでは意識的、意図的にリセッション入りを否定しているのである。しかし、米国経済が上半期に縮小したという事実に変わりはないし、変えようがない。
最初は「不況ではない」と言い、次に「減速」、「テクニカル・リセッションは本当の不況ではない」と言い、その次は「不況は短く、浅い」、「間もなく回復するだろう」と、次から次へと不況戦略=ゴールポストが動かし続けられるのであろう。
<<認知症状態のバイデン政権>>
バイデン政権が自慢する公式の失業率は3.6%であるが、実態を厳密に反映してきたシャドーガバメント統計(SGS)では、24.3%、じつに8倍近い開きがある(下図表)。
季節調整済みSGS代替失業率は、SGSが推定する長期離職者(1994年に公式には存在しないと定義された)を調整した現在の失業報告方法を反映したものである。この推定値は、短期落胆労働者を含むBLSのU-6失業率の推定値に加えられる。U-3失業率は毎月のヘッドラインの数字である。U-6失業率は、労働統計局(BLS)の最も広範な失業指標であり、短期落胆労働者やその他のマージン労働者、またフルタイム雇用が見つからずパートタイム労働を余儀なくされている労働者も含まれる。
失業率と同様、2022年6月のインフレ率は9.1%であり、1980年当時と同じ方法で計算すると20%に近い水準である。この水準は2007年12月の4.1%よりはるかに大きい。コアCPI(食品とエネルギーを除く)は前月比0.7%上昇し、これは前月より速いペースで、前年比では5.9%の上昇である。インフレ率は景気後退とともに今後数ヶ月は低くなる可能性はある。しかし、今のところ、異常に高いインフレが経済を蝕んでおり、6月の米国における雇用削減数は3万2517人で、前月比57%増、年間ベースでは59%増となっている。
物価上昇と連動した雇用喪失の増加は、GDPの低下と並んでスタグフレーションの最後の技術的指標である。しかしバイデン政権は、経済がすべて順調である証拠に、高い雇用率を誇示している。GDP、物価の上昇、負債の増加、個人消費力の低下など、他の重要な要因はすべて一貫して無視ないしは軽視している。雪崩のような雇用崩壊が今年から2023年にかけ到来しかねないのに、意図的な認知症のごとくふるまっているのだとも言えよう。主観的にも客観的にもバイデン政権はもはや認知症状態なのだと言えよう。
ウクライナ危機にロシアを引きずり込んで、ロシアとEUの経済崩壊を企図した制裁がブーメランとして自らに跳ね返り、対ロシア・対中国緊張激化路線をいまだ変更もできず、妥協と話し合いの道さえ開けない、ドル一極支配がいよいよ継続できない事態に追い込まれたバイデン政権、そして米中銀FRBが、自らが作り出した人類史上最大の投機的金融バブルの修正に向けて金利を引き上げ、金融市場がいよいよメルトダウンし、政策の劇的な転換がない限り、史上最悪の経済危機=経済恐慌が到来しつつある、こうした事態を軽視、過小評価している限り、危機打開の道は開かれないであろう。
(生駒 敬)