【投稿】検察審査会、原発マネー不正環流した反社会的企業:関電に「起訴相当」
福井 杉本達也
1 関電原発マネーの不正環流で検察審査会:役員報酬補填は「起訴相当」
「関電の原発マネー不正還流を告発する会」が2022年1月7日に大阪地方裁判所の検察審査会に関電の原発マネー不正還流告発を不起訴にしたことは不当であるとの申立てについて、8月1日に第2検察審査会の決定が発表された。検察審査会は役員報酬補塡を巡る問題について、八木誠前会長、岩根茂樹元社長、森詳介元会長の3名に対して「起訴相当」とした。それ以外には、不起訴処分は、いずれも「不当」という扱いであった。
議決書によると、八木氏と森氏については、金品受領で発生した豊松秀己元副社長の追加納税分を関電で負担したとする業務上横領などの罪▽業績悪化で減額した18人分の役員報酬を退任後の嘱託報酬で補塡したとする特別背任の罪を「起訴相当」と判断。岩根氏についても業務上横領罪などについては「起訴相当」とした。本来の訴えた中心は、関電役員への原発マネーを使った金品受領の不法行為であるが、残念ながら不起訴処分は「不当」との判断であった。地検が再度捜査して起訴すればよいが、不起訴にすれば、申立ては出来ない。今回「起訴相当」とした案件を大阪地検が再度不起訴とした場合には、再度、検察審査会にかけ、徹底的に事実の解明をすることが出来る。
一連の問題をめぐっては、関電側が福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(故人)から多額の金品を受領し、関連業者に原発関連工事で便宜を図ったほか、業績悪化で減額した18人分の役員報酬計2億5900万円を退任後の嘱託報酬で補塡したとして、告発する会が旧経営陣のうち9人を告発。特捜部は告発状を受理したが、昨年11月に全員を嫌疑不十分で不起訴処分としていた。
議決は7月7日付。特捜部が今後再捜査し、改めて起訴か不起訴かを判断する。不起訴となっても、改めて起訴議決が出れば強制起訴される。残る6人は不起訴不当で、特捜部が再捜査後に改めて不起訴とすれば捜査は終結する。「起訴相当」が2回続けば、強制起訴となる。(図は福井新聞:2022.8.2)
2 関電役員金品受領事件・役員報酬闇補填の告発の経緯
関西電力の役員等20名余が、森山栄治高浜町元助役やその関連会社から計約3億6千万円の金品を受領していた。それらは、関電の発注した原発関係の工事費からの還流であることに疑いの余地はなく、それを受け取ることは犯罪である。八木会長らは辞任し、関電第三者委員会(委員長:但木敬一弁護士:元検事総長)は調査報告書を公表したが、原発マネーの還流が解明されたとは言えず、政治家への不正な資金の流れはなかったのかなど、強制的な権限を持った捜査当局が動く必要があると考え、「告発する会」では、2019年12月13日に、関電役員12人に特別背任罪(会社法960条1項)、背任罪(刑法247条)、贈収賄罪(会社法967条1項)、所得税法違反(238条1項、120条1項)の疑いがあるとして、3272人が告発状が大阪地検に提出された。その後2020年1月31日には、告発人は3371人となった。
また、6月9日には、関電第三者委員会が明らかにした役員報酬等の闇補填問題で、森元会長、八木前会長、岩根前社長を業務上横領と特別背任で追加告発した。告発人は2172人(後の追加をあわせると2193人)となった。2020年10月5日、上記2つの告発状を一本化して、被告発人を森元会長ら9名に絞った告発状が提出され、大阪地検に正式に受理された。
しかし、大阪地検は強制捜査等は行わず、2021年11月9日に嫌疑不十分で全員を不起訴処分にした。地検OBが多数、関電役員に天下りした経過もあり、不都合な真実の隠ぺいに加担した。そこで、2022年1月7日、1194人が検察審査会に申し立てていた。
3 弁護団の声明
8月1日、関電不正マネー還流事件刑事告発弁護団は「日本を代表する公益企業の幹部たちによってなされたこれほど明白な犯罪行為に対し、大阪地検は不可解にも、すべての被疑事実について不起訴処分をした。検察審査会はこの不起訴処分を是認せず、一部の被疑事実については「起訴相当」と結論付け、その余の事実についての全てについて不起訴不相当とした。これは、大阪地方検察庁の本件についての全ての判断が誤っているものと判断したものである。」「今回の関西電力役員による一連の事件は、原発の立地及び維持のために、公益企業である電力会社が原発地元の一部の企業や個人と癒着し、不明朗な金が注ぎ込まれるという原発問題の闇の部分が明るみになった事件であり、また、電力会社の幹部が、消費者に電気料金の値上げの負担を押し付けながら、その電気料金で自分たちの損失を解消したという倫理観の喪失を赤裸々に証明した事件である。」大阪地検は、「直ちに再捜査に着手して、起訴相当とされた被疑事実のみならず、不起訴不当とされた被疑事実についても速やかに起訴すべきである。」との声明を出した。
4 関電は特別背任罪だけでなく、部落差別を助長する「反社会的な企業」である
関電第三者委員会報告書において、森山氏が「社会的儀礼の範囲をはるかに超える多額の金品を提供」してきたのは、「森山氏の要求は執拗かつ威圧的な方法でなされる場合も多く、時には恫喝ともいえる態様であり」(P100)、「あたかも自身や家族に危害を加えるかのような森山氏の言動を現実化するおそれがある、などといったことが綯い交ぜになった漠然とした不安感・恐怖感」(P188)からであるとして、死去した森山氏に一切の責任を擦り付けた。
この、全く説得性に欠ける言い訳に持ち出したのが部落差別である。「1987年末には、関西電力の高浜原子力発電所の従業員による差別事件等が生じ…関西電力の幹部を対象とした人権教育がほぼ毎年開催されるようになり、…この人権研修も、森山氏が関西電力の経営陣を叱りつけるなどの出来事により、関西電力への影響力を維持、強化する効果をもたらした」(P159~P160)とし、「その後年月が経つにつれて、なぜ森山氏を丁重に扱う必要があるのかは不明確になっていく一方で、業務上、森山氏への対応を行わなければならない地位についた者は…とにかく何があっても耐え忍んで」という「歪な構造が形成されたことが推認される」と、部落差別事件を契機として森山氏との「歪な」関係が深まったかのような装いをこらした。部落差別を利用して、公共料金である電気料金を懐に入れた自らの犯罪を隠蔽しようとした関電こそ「反社会的企業」である。8月3日、40年超の古い原発:美浜3号機補助建屋内の一次冷却水ポンプにつながるシール水からの放射能漏れをごまかして、強引に再稼働しようとしたが、延期された。こうした企業に危険な原発の運転をさせてはならない。
(なお、関電の原発マネー不正還流を告発する会では、8月20日まで、高浜町前議員への贈収賄で関電旧経営陣らを新たに告発し、告発人を募っている。)