【投稿】岸田政権:「原子力政策の大転換」?ではなく、倒産企業「東電救済」のための姑息な柏崎刈羽原発再稼働
福井 杉本達也
1 原子力政策の「大転換」?
9月22日、国の審議会である『総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会』が開催され、経済産業省は原発活用の議論を始めた。内容は①再稼働の推進、②運転期間の延長、③次世代型原発の開発・建設という3ステップがあるとする。①の「焦点となるのはテロ対策の不備が相次ぎ判明し事実上、運転が禁じられた東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の2基」、②は「原子炉等規制法で定められた運転期間は原則40年間で、60年までの延長が認められている」「運転期間の延長」(日経:2022.9.23)であり、「経産省は22日の審議会で『一つの目安であり、明確な科学的な根拠はない』」(日経:同上)との、現行の法律を全く無視した、とんでもない認識を示した。「省内では安全審査で停止している時間を運転期間から除外するなどして実質的に延ばす案」があるとしているが(日経:同上)、安全審査の履き違えも甚だしい。③は「多額の設備投資」や「住民の理解」などハードルが高いとしつつも、委員の1人は「事業環境を整備するのが政策側の仕事だ」と述べたとしている(日経:同上)。
2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーを主力電源として、2030年度までに21%とする一方、原発を20から22%程度とし、合わせて非化石電源比率44%を目指すとされた。ここでは「原発再稼働は進めるが、原子力依存度はできる限り低減していく」という基本方針が踏襲されている。ところが、今回、岸田政権は、これまでのエネルギー基本計画を全く無視して、運転期間のさらなる延長と原発の新増設にまで踏み込んだ。岸田首相は10月3日の所信表明演説で「十数基の原子力発電所の再稼働」と「次世代革新炉の開発・建設」をうたった。これに、電力業界の御用雑誌『ENERGY for the FUTURE』2022年no.4は大喜びで「原子力政策の大転換と今後の課題」という電事連会長らの対談のヨイショ記事を掲載した。
2 原子力規制委を無視して柏崎刈羽原発の再稼働
元経産官僚の古賀茂明氏によると「今冬、来冬の電力需給が厳しくなるので、東京電力柏崎刈羽原発を再稼働させる仕組みを作るということ。原子力規制委員会が認めない限り原発の稼働は法律上不可能だが、現時点では、東電の危機管理体制などに大きな問題があるため、柏崎刈羽原発には、安全審査通過後も規制委が事実上の運転停止命令をかけている。そこで、停電のおそれがある場合などには、規制委の承認なしで国の責任で緊急に動かすことにしようというのだ。その際、東電に対して、国が柏崎刈羽の再稼働を保障することで、東電が狙う家庭向け電力料金値上げを止めることも併せて検討されている。規制委の権限を無視して原発を動かすためには、新たに法律が必要になるが、それも『一気に国会に議論してもらう』」という(日刊ゲンダイ:2022.9.23)。
柏崎刈羽原発は2021年にテロ対策の不備が多数見つかり、規制委から2021年4月に核燃料の移動を禁止する是正措置命令が出され、同原発は事実上運転が禁じられている。9月14日、規制委はテロ対策の改善に向け今後の検査で確認する33項目を提示したが、これでは「当面、柏崎刈羽原発の再稼働は見込めない」(日経:2022.9.15)。
古賀氏の予想する再稼働のシナリオは「東電と経済産業省は、今冬以降の『電力不足』をことさらに宣伝する。その上で、柏崎刈羽原発を緊急時に備えて試運転することを認めてもよいのではないかと国民に訴え、規制委が認めていない段階での『緊急運転命令』を政府が出せる法律を国会で通す。そして、冬や夏のピーク時直前に、『停電になる!』と称して、柏崎刈羽原発を再稼働させ、これにより『停電回避できた!』と宣伝する。国民は安堵し、反原発の勢いは一気に衰える。規制委も運転を認め、地元も同意する……。」(日刊ゲンダイ:同上)というものである。
3 倒産企業東電を救済するための柏崎刈羽原発再稼働
資源高や円安が進み、電力や燃料の調達コストが供給価格を上回る状態が続いている。高騰する燃料価格などを転嬢しきれず、東電の電力小売り子会社は22年6月末時点で約66億円の債務超過に陥った。電気を売れば売るほど赤字が積み上がる状況で、東電は法人向けの標準料金メニューの新規契約を停止した。電力会社が新規契約を停止したことで、電力小売会社と契約できない全国の「電力難民」企業は9月1日時点で前月比16%増の4万件超となっている。東電の2023年4月からの法人向け新料金プランでは、電源構成の前提に、再稼働を目指す柏崎刈羽原子力発電所7号機も織り込んで燃糾費の転嫁分を抑え、顧客の負担軽減につなげるという(日経:2022.9.17)。現状は全く発電できず維持管理費のみがかかる完全な不良資産で、経営の重大な重しとなっている柏崎刈羽6・7号機の合計出力は270万キロワット。もし再稼働させることができれば、東電エリアの供給力の5%程度をまかなえる計算となる。
岸田政権は「原子力政策の大転換」という大上段の話ではなく、倒産企業の東電を救済するための姑息な「原発再稼働」に打って出た。