<<「われわれはロシアと戦争している」>>
1/30、バイデン米大統領は、ホワイトハウスの会見で、「米国はウクライナにF-16戦闘機を派遣しないだろう」と述べた。しかし、これは「今のところ」という注釈付きが本音である、と報じられている(Biden Says “No” To US Providing F-16 Jets For Ukraine (..For Now))。
すでに1/25、バイデン政権は米軍の主力戦車「エイブラムス」31両のウクライナへの供与を決めている。この「エイブラムス」供与は、実質上、ドイツが戦車「レオパルト2」供与を早急に開始するための隠れ蓑に過ぎない、とワシントン・ポスト紙が報道。同じ1/25、ドイツ政府は14両の独製主力戦車「レオパルト2」をウクライナへ供与することを決定したと発表、また、他国が「レオパルト2」をウクライナへ供与することにも承認したのであった。
米国はこれまで、ウクライナにはドイツ製戦車が供与されるべきだと主張してきており、この「レオパルト2」は、米製「エイブラムス」に比べて設計が単純であり、ウクライナ軍が使用方法を習得しやすい、交換部品も十分な数がある、しかしドイツのショルツ首相は、ドイツが一方的に行動した場合、ドイツが紛争に直接関与していると受け止められ、ロシアの報復がある可能性を懸念していたもので、ドイツは「レオパルト2」供与と「エイブラムス」供与を連動させるよう求めていたのである。
ドイツのショルツ政権は、ドイツはウクライナを支援すべきだが、ロシアとの直接対決は避けるべきだと主張してきたのであるが、もはやそのブレーキも効かない事態に追い込まれていると言えよう。政権の連立パートナーである「緑の党」のベアボック外相は、よりタカ派的な立場を一貫して主張、「ドイツの有権者がどのように考えようとも、私はウクライナの人びとを支援する」と極論し、1/24の欧州議会で「われわれはロシアと戦争しているのだから、団結すべきだ」と公言し、ロシアとの戦争を回避し、ウクライナへの軍事支援に消極的だったランブレヒト国防相は辞任に追い込まれる事態である。
すでにドイツでは、アンゲラ・メルケル前首相は昨年12月に、ベルリンとパリが仲介した2014年の停戦協定は、実はウクライナに軍事増強のための「貴重な時間を与える」ための策略だった、「ウクライナを強化し、ミンスク協定を当てにしていなかった」とドイツのメディアに語っている。当時のフランスのオランド前大統領もこれを認め、ウクライナのポロシェンコも公然とそれを認めている。つまりは、ウクライナ危機とは、米英と組んで、NATOがロシアを泥沼の戦争に引きずり込むための罠であったことを告白しているのであり、その策略が、現実となったわけである。そしていまや、ウクライナのゼレンスキー政権は、「現在の紛争はNATOとロシアの間の『代理戦争』である」と公言してはばからない事態である。
ゼレンスキー政権は、こうして米独、NATOに要求していた戦車を手に入れたので、さらに進んでロシアを砲撃するために米国のジェット戦闘機と長距離砲を要求しているわけである。1/28、ウクライナの高官は、ウクライナと西側の同盟国が、長距離ミサイルと軍用機の両方を送る可能性について「迅速な」交渉に取り組んでいる、F-16 だけではありません。第 4 世代の戦闘機、これが私たちが望んでいるものです、とまで述べている。
ここで問題は、バイデン政権の対応である。昨年3月の段階では、「攻撃的な装備を送り込み、飛行機や戦車や列車をアメリカ人パイロットとアメリカ人クルーで送り込むという考え方は、冗談抜きで、それは第三次世界大戦と呼ばれている」と断言して、否定していたのである。ところが、今回、主力戦車を送り込むことに踏み込んだ。
たとえ、米国が F-16 を送らないとしても、他のNATO諸国は供給できる米国製の戦闘機を持っており、オランダのヘクストラ外務大臣は、オランダ議会で、キエフが要請すれば内閣はF-16の供給を検討すると語っている。
米軍当局者のウクライナへの派遣団は国防総省に対し、F-16 戦闘機をウクライナへの派遣承認をすでに迫っている、と報じられ、ホワイトハウスは、これについてコメントすることを拒否したが、ジョン・ファイナー国家安全保障副補佐官は、米国はキエフとその同盟国と「非常に慎重に」戦闘機について話し合うだろうと述べている。
こうした経緯からすれば、F-16戦闘機についても、主力戦車と同様の危険な手のひら返しに進むのは、おそらく時間の問題だと言えよう。しかし、ここまでくれば、もはや「冗談抜きで、第三次世界大戦」への突入である。危険極まりない事態が待ち構えている、と言えよう。
<<「悲惨なことになりかねない」>>
ロシアを泥沼の戦争に引きずり込む罠は、2019年5月にランド社によって作成された「過度に拡張し、バランスを崩すロシア」と題された機密報告で暴露されている。主に国防総省、米陸軍、空軍から資金提供を受けているシンクタンクである RANDコーポレーションは、リークされたレポートの中で、第一に、「ロシアは攻撃されるべきであり、その最も脆弱な点である、その経済を支える石油とガスの輸出である」と指摘、この目的のために、「金融および商業制裁を適用しなければならず、同時にヨーロッパ諸国はロシアのガスの輸入を減らし、米国が供給した液化天然ガスに置き換えるようにしなければならない」. 「ウクライナに致命的な援助を提供することは、ロシアの脆弱性を悪用し、より大きな紛争につながることなくロシアに害を及ぼすように調整された、戦争のために多額の費用を支払うことを強制することになる」とあからさまに、その目的を述べている。しかし、この時点では、ランドが思い描いたようにユーロ諸国やロシアが乗ってこないことに当惑し、失望していたのであるが、
2022年1月25日付けの機密扱いの研究報告書(Rand Executive Summary)では、「ドイツを弱め、アメリカを強くする」というタイトルで、米国経済が崩壊の危機に瀕しているが、ウクライナ紛争にロシアとヨーロッパを巻き込む努力によって、ドイツが数千億ユーロの損失を出し、経済の崩壊、GDPの減少を引き起こし、最終的にはEU経済も総崩れになると予測、すべてのヨーロッパの通貨は有害で、ドルよりもはるかに望ましくないものとなり、必然的にアメリカ経済が強化され、アメリカが最も有利な国として再位置づけされることになる、と予測している。
事態は、このランド社の予測通りに進んだかに見えたのであるが、事態はそう甘くはないし、彼らの期待と予
測は完全に裏切られているのである。
2023年1月のランド研究所による新しい長文の報告書(長期戦の回避 Avoiding a Long War)は、米国側がウクライナ危機のエスカレーションを続ければ「悲惨なことになりかねない」という結論を主張し始めているのである。
現在は、ウクライナにおいて「米国の利益は長引く紛争を避けることによって最も良くなる」、「長い戦争のコストとリスクは・・・考えられる利益を上回る」と論じ、「紛争を長引かせること自体が危険である」と結論付けている。クライナがロシアの支配下にある領土を奪還することは、米国の計画に関連するべきではないと主張し、「メリットはほとんどなく、コストが高くなり、戦争を長引かせることは、米国にいくらかの利益をもたらすとしても、それにはさらに多くのリスクとコストが伴う」とまで警告しているのである。以前とはまるで逆の主張に転換せざるを得ない事態に追い込まれている、と言えよう。
しかし、バイデン政権はこのランドの警告に耳を傾けられるような状態ではなく、さらに危険なエスカレートに突き進む可能性の方が大であろう。ドルの優位性が、このウクライナ危機を激化させたことによって、劇的に低下し始め、日本を含むG7やNATO諸国以外はどんどんドル離れに移行、ペトロダラーはもちろん、ドル覇権の低下は今や回復しがたい段階に突き進みつつある。バイデン政権は、自らアメリカの政治的経済的危機を招き、激化させているのである。誤算ではあるが、対ロシア・対中国の危険な戦争挑発エスカレーションが、バイデン政権の政治生命延長の支柱となってしまっているのである。しかし、誤算には、大衆的支持基盤は維持できるものではないし、離反する一方であり、政権基盤は弱体化せざるをえない。この事態を打開させるものは、有害無益な戦争行為とエスカレーションを停止させ、ウクライナ危機の平和的解決に向かわせる、あらゆる広範かつ強大な平和の力の結集以外にないと言えよう。
(生駒 敬)