【投稿】電気料金高騰の原因は国のエネルギー政策の大失敗にある
福井 杉本達也
1 電気料金が30%も値上げに
東電は、6月から標準家庭の電気料を月11,737円と29%も値上げすると発表した。電気代の高騰を受け、政府は電気代支援で全国一律で、1月分の電気代から1キロワット時当たり7円値引きするとし、標準家庭で2,800円・電気代の2割相当が値引きされる。割引分を差し引くと、東京電力管内では月9,917円になるという(日経:2023.1.28)。東電が2月1日発表した2022年4~12月期の連結最終損益は6509億円の赤字億円の黒字)となった。福島第一原発事故の賠償基準変更で特別損失を計上したほか燃料高が響いたという(日経:2023.2.2)。
2 新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働まで料金の計算に入れるが、再稼働は不可能
しかも、東電の値上げ幅にはカラクリがある。「東電は柏崎刈羽原発(新潟県)の7号機を今年4月に、6号機を2025年4月にそれぞれ動かす前提で、一般家庭の値上げ幅を月550円程度圧縮」しで電気代を計算をしている。さすがに経産省も「そこまでは面倒見切れない」との声も。だが、テロ対策不備など不祥事が相次いだ柏崎刈羽原発は「原子力規制委員会から事実上の運転禁止命令を受け、地元の再稼働への同意」も受けられず再稼働の見通しなど立つはずもない(福井:2023.1.27)。山中原子力規制委員長は1月28日に柏崎刈羽原発現地を視察し、「『まだまだ課題がある』との認識を示した。『3号機の審査書類に2号機の記載内容を流用したことには小さな問題ではない』と指摘。…『原因や誤記に対する意識は納得できる説明ではなかった』と苦言を呈した」(日経北陸版:2023.1.30)。
3 東電・中電・経産省のカタールLNG調達の歴史的大失敗のつけ
JERA(東電+中電が共同出資)は2021年12月、カタール産LNG500万トン超(年間ベース)の引き取りを終了した。25も年続いた調達契約を更新しなかったのである。日経は「世の中は脱炭素へ傾き、今後も20年単位の長期引き取りを続けられるのか。電力・ガス自由後の競争にさらされる企業としての判断である」と言い訳したものの、そのすぐ後に、「国全体で見れば、…ロシア産LNGの途絶におびえ、電力の供給力確保に苦しむ足元の状況とのちぐはぐさが否めない。安定供給に誰が責任を持つのか。エネルギー危機は、その不在をあらわにした。」と書いている(日経:2022.6.20)。
そもそも、東電は福島第一原発事故後は事実上の国営企業となっており、経産省の意向が働かなかったなどということはない。LNGのスポット価格の安さに目がくらみ、いつでも市場から調達できるとする経産省の安直さが招いた危機である。「エネルギー業界では、アラビア石油権益延長失敗、イラン・アザデガン油田開発撤退と合わせて、カタール契約解消は『3大失敗』ともいわれる」。「仕向け地条項(転売防止面からLNG船の帰港地を限定)などの撤廃をカタ―ルに要求し、購入延長を破談にしてしまった。その背景には、エネルギー基本計画にLNG火力削減を盛り込んだ日本政府の脱炭素方針も影響してした」(『エコノミスト』2023.1.24)。その大失敗のツケを電力料金の29%もの値上げという形で国民に押しつけているのである。
4 再生可能エネルギーで問題は解決しない
温暖化対策の切り札として、各国は風力発電や太陽光発電などを大量に導入した。今回の電力高騰においても再生エネルギーの拡大を主張する者もいる。しかし、2022年1月9日付け日経新聞は「世界の天候不順が再生可能エネルギーによる発電に打撃を与えている。2021年は欧米や中国など世界各地で干ばつや寒波、熱波などの自然災害が相次ぎ、太陽光や風力、水力による発電所の稼働率が低下。大規模停電も発生した。…再生エネ発電を増やしてきたが、本来の想定通りに動かない展開になっている。」と書いていた。いくら健忘症とはいえ、わずか1年前のことを忘れたわけではあるまい。
5 高浜4号機事故―古い原発に頼るな
割引分を差し引いた関電の6月の電気代は5,677円になるとし、東電と関電の差は7割になるという。関電は原発は5基動いている影響が大きく、電気代を下げている(日経:2022.1.27)。しかし、1月30日、関電高浜4号機で中性子の量が急速に減ったことを示す警報が鳴り、運転が自動停止した。核分裂反応を止める制御棒が落下したのではないかと思われる。山中原子力規制委員長は原発の安全確保の原則である「『止るめる、冷やす、閉じ込める』のうち、『止める』関わる重要機能の一つにトラブルが発生した」と述べ、重大事故であるとの認識を示した。制御棒が突然落下するということは、逆に核分裂反応を抑えようとしても、制御棒が落下せず原子炉が暴走することもありうるということである。古い原発を使い続けていればこのような事故は今後さらに増えることになる。原発の暴走との引き換えに電気代が安くなるなどということは御免被りたい。
6 ロシアのからのエネルギーこそ国民の生活を守る
日本はサハリン1・2についてようやく契約を更新した。日本にとって非常に重要なエネルギー権益である。しかし、岸田首相は何を血迷ったのか、バイデン大統領に指示されたのか、ウクライナのキエフを訪問したいとの意向である。いまウクライナを訪問したところで、ゼレンスキー大統領に莫大なムダ金を渡すだけになる。ロシアは敵対国にエネルギー資源を供給しないとしている。やっと確保したサハリン1・2の権益がなくなるかもしれない。ウクライナと電気代の高騰のどちらが大事かをよくよく考えなければならない。