<<「各国はドルを捨てたがる」>>
ロシアのウクライナ侵攻にに対する、米・バイデン政権の全面的な制裁・緊張激化政策が、逆に全世界的な脱ドル化政策を加速させている。皮肉で不可逆的な脱ドル化を自ら招く事態の進行である。
バイデン政権は、国際間貿易取引の主要な金融ネットワークである世界銀行間金融通信協会 (SWIFT)システムからロシアを一方的に排除することによって、つまりはドルを兵器化することによって、ロシアを有無言わせることなく経済崩壊に追い込む算段であった。しかし、その目論見は、ドル資産の安全性に疑問符をつけ、逆にブーメランのごとく米欧経済を苦境に追い込み、インフレを激化させ、あえなくも破綻しつつある。
ウクライナ危機は、米政権とNATOが何年にもわたって仕掛けてきた、ロシアを軍事紛争の罠に引きずり込み、ロシアを分割支配するための罠であったこと、ユーロ圏経済をもロシア・中国経済から引き離す格好の仕掛けであったことが明らかになりつつある。バイデン政権によるロシア・ユーロ経済圏の天然ガスパイプライン・ノルドストリーム破壊工作はそのことを白日の下にさらけ出させている典型でもあった。それはまた、ドル支配の優位性を受け入れない他の地域の多くの諸国に対して、世界共通の準備通貨としてのドル経済圏支配に逆らえば、経済を崩壊させるぞ、という脅しでもあった。
しかし事態は、こうしたバイデン政権のたくらみとは逆の方向、世界経済のドル支配、ドル覇権を掘り崩す、崩壊させる方向への、脱ドル化への志向を加速させる事態を招いている。すでに多くの諸国が、貿易での決済方式をドル
から自国通貨や相手国通貨、地域通貨への変更に踏み出しているのである。
あのイーロン・マスクでさえ、これは「深刻な問題。米国の政策は強引すぎて、各国はドルを捨てたがる。」と嘆いている。
今や、ドルへの
政治的経済的依存を減らすことが、米国の無責任な金融政策に左右されることを避け、不安定なドルの金融危機リスク、特に為替レートによるリスクを回避するうえでも不可欠な事態と認識され、脱ドル化を推し進めることが世界共通の課題として浮上し、着実に現実に実行される段階へと移行しつつある、と言えよう。
<<BRICS「根本的に新しい通貨」に取り組む>>
直近、3月末はとりわけ、多くの諸国が脱ドル化を鮮明に打ち出したことで際立っている。
3/28、インドネシアで開催された会議で、ASEAN 諸国の財務大臣が 「米ドル、ユーロ、円、英国ポンドへの依存を減らす」方法について話し合い、現地通貨での決済に移行するための議論を開始したことを明らかにしている。「現地通貨取引(LCT)スキームを通じて主要通貨への依存を減らすための取り組み」を議論し、ASEAN 加盟国間ですでに実施が開始されている現地通貨決済 (LCS) スキームを拡張するという方向性である。(昨年11月に、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、タイの間で、このような協力に関する合意に達していた。)
同じ3/28、中国初の人民元建てで決済を行う輸入液化天然ガス(LNG)の調達取引が成立。これにより中国が石油・天然ガス貿易分野におけるクロスボーダー人民元建て決済取引において、実質的な一歩を踏み出したことになる。中国海洋石油と湾岸協力会議(GCC)加盟国のアラブ首長国連邦(UAE)から輸入される約6万5千トンのLNG資源が取引され、人民元建て決済が行われ、石油取引には必ずドルを使用するというペトロダラー取引が放棄されたのである。ペトロダラー取引を支えてきたサウジアラビアでさえ、ケニアへの石油出荷の支払いとして、米ドルではなくケニアシリングを受け入れることに同意している。そのサウジの国営石油大手サウジアラムコは、中国北東部に統合された製油所と石油化学コンビナートを建設することに合意している。
3/29、ブラジル政府と中国政府は今後、米ドルを中間通貨として使用せず、自国通貨で貿易決済を行うことで合意したと表明している。SWIFTを使わない決済である。ブラジル輸出投資促進庁(Apex)は、中国とブラジルが、自国通貨で直接行う両国の貿易・投資交渉を進めるための新たなステップに入ったと発表。両国の合意では、ブラジルの銀行BBMが、中国の通信銀行(BOCOM)が管理するアジア諸国の国際的なSWIFTシステムの代替となる中国銀行間決済システム(CIPS)に参加する方式である。
3/30、新興経済圏であるBRICSブロック(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が「新通貨」の開発に取り組んでいることを明らかにしている。BRICS諸国は、世界の総人口の 40% 以上、世界の GDP の 4 分の 1 近くを占めており、アルゼンチンとイランが加盟申請し、サウジアラビア、トルコ、エジプトまでもが参加検討に入っている段階である。アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、ロシアで構成されているユーラシア経済連合 (EAEU) が国際化を推進、イランとの EAEU 自由貿易協定の最終決定に至っている。これらの諸国を含む100ヵ国近くがドル支配のSwiftに依存しない国際送金システムの構築に踏み出し始めたのである。
さらにこの間、明らかになったことでは、サウジアラビアが「上海協力機構SCOの対話パートナー」になることに同意、SCOは、中国、ロシア、インド、パキスタン、中央アジアの 4 カ国に加え、イランを含む 4 つのオブザーバー国と、サウジアラビア、カタール、トルコを含む 9 つの対話パートナーを結集している。
次いで、インド政府が、ドル不足に直面している国々に貿易の代替手段として、マレーシアとの貿易に自国通貨インドルピーを使うなど、米ドルの「代替」として自国の通貨を提供することを明らかにしている。
もちろん、ドルは依然として外貨準備高の58%を占めている。しかしこれとて、2014年の66%から明らかに後退している。ウクライナ危機に乗じたドル覇権の狙いは、ここからさらなる、より大幅な後退への流れを作ってしまったのである。G7とBRICSの成長格差は、明らかに衰退しつつあるG7に対し、発展途上のBRICSは、購買力平価はもちろん、実際のGDPにおいてもG7をを追い越す途上にあることが明確になろうとしている。
かくして、もはや脱ドル化への世界の流れを阻止することは不可能な段階にまで至っている。米欧・G7の政治的経済的危機の淵源は、まさにここにあるとも言えよう。
(生駒 敬)