【投稿】非ドル化と米金融資本の没落

【投稿】非ドル化と米金融資本の没落

                           福井 杉本達也

1 「ドルが基軸通貨でなくなる」―トランプ

トランプ前米大統領は4月5日、ニューヨーク州の民主党系検事による不倫疑惑の不当な起訴に対する反論集会の閉会の辞において、「ドルが基軸通貨でなくなる」(DONLD TRUMP says the US Dollar will no longer be the world standard.)と述べた。「私達の通貨は暴落し、まもなく世界標準ではなくなります。これは私達の最大の敗北です。(略)たとえ大国であっても存在できなくなる。米国史上最悪の5 人の大統領を足し合わせたとしても、バイデンほど我が国に破壊をもたらした大統領はいない 非ドル化とは、何十年にもわたるいじめ、戦争、嘘に基づくいじめ、世界通貨の特権を乱用して、他国の支援を受けてアメリカのエリートを利己的に豊かにしてきたことで、米国政府が得たもの。」と集会を締めくくった。

同様にドル基軸通貨体制の崩壊について、6日のFOX NEWS ではTUCKER CARLSONが「第二次世界大戦の終結以来、ほぼ 80 年間、米ドルは世界の通貨でした。しかし、それが終わったらどうしますか?」とふれ、また、7日のCNNでもJIMMY DOREが「America’s Economic Empire Is Done」との見出しで、「ロシアが14か月前にウクライナを侵略した後、米国とその同盟国によって課されたその後の制裁は、ロシアを追い詰め、米国の経済力を示すことになっていた。ところが、ロシアはかつてないほど強く、中国、サウジアラビアやその他の諸国は、米国を寒さの中に置き去りにしながら関係を強化しようとしています。」と述べている。ここ1か月ほどの間の、シリコン・バレー銀行(SVB)の破綻やクレディ・スイスの破綻以降のドル離れの動きはきわめて急速である。

2 習近平主席がマクロン大統領を歓待―フランスも人民元でLNG取引

4月5日、フランスのマクロン大統領が企業トップ50人を引き連れて訪中した。航空機160機の受注や豚肉など農産物の輸出などで中国と合意した。1日前の4日、China Radio International(CRI) は「中国とフランスのエネルギー大手、中国海洋石油とトタルエナジーズはこのほど、初めてとなる人民元建ての液化天然ガス(LNG)取引の決済を完了した。中国が人民元建てでLNGの輸入決済をするのはこれが初めてとなる。今回取引されたLNGはアラブ首長国連邦産の約6万5000トン。取引量はさほど多くないが、大きな意味を持つとみられている。」と報道した。

同記事は「ドルの為替相場の変動による不確実性を回避することができる。ドル相場の変動は各国、さらにはグローバルな経済活動に不確実性をもたらしており、米国がドルを『武器化』することで、その不確実性は無限に拡大されている。米国は頻繁に金融手段を通じて他国に制裁を科し、その国のドル建て取引のルートを遮断することで、国際貿易を停止させ、その国の経済発展に深刻な影響を与えている。また、米国はしばしば利上げと大量の紙幣放出を通じて自国の金融リスクを他国に転嫁しており、これが多くの国で連鎖反応を引き起こし、国際金融市場にゆさぶりをかけ続けている。これらの行為は、ドルを基準とした原油の価格設定と決済システムが極めてリスクが高いこと、自国通貨による決済がこうしたリスクを回避するのに有効であることを各国に気づかせつつある。」と解説したが、フランスは明らかにドルから距離を取り始めた。

3 中国主導によるイランとサウジアラビアの和解

4月8日の日経新聞は「『米国抜き』で進んだサウジアラビアとイランの関係正常化は中東で米国の影響力低下という現実を突きつけた。国際社会で台頭する中国が主導した合意に米国は不満と焦りを募らせるが、対米不信を強める中東との関係立て直しは容易ではない」と書いた。イランは、1979年の革命以来、米国などの西側の制裁を長年にわたって受け、大きな経済的打撃を被ってきた。北京で行われた3月6~10日の会議で、イランとサウジアラビアが国交を回復することで合意した。RTによれば、「サウジアラビアとイランは、中国が仲介した、外交関係を正式に回復するための画期的な取引を北京で発表した。この合意により、中東の2つの宗派間のライバルは、彼らの違いを脇に置き、関係を正常化することに同意しました。これは、中国が監督するこの種の取引としては初めてであり、和平工作者としての地位を確立し、地域のすべての国と良好な関係を築くという中国のコミットメントがレトリックだけでなく実際の内容に基づいていることを示しています。」とし、「これはアメリカ合州国にとって悪いニュースであり、サウジアラビアなどの国々との戦略的関係を通じて、ワシントンがこの地域を長い間支配してきたほぼ無制限の地政学的影響力に大きな打撃を与える。」ものであり、「世界は、これらの国々が、その明確な外交政策目標である比類のない米国の支配がもはや彼らの最善の利益ではないと認識する」こととなったと書いた(RT:2023.3.14)。また、3月29日にはウォールストリート・ジャーナルはサウジアラビアが中国の上海協力機構に加盟すると報じた。既に、昨年7月、バイデン大統領はサウジを訪れ、原油増産を働きかけたが、OPECプラスにおいてロシアとの関係を重視するムハンマド皇太子に袖にされたが、今回の中国の仲介によるイランとサウジの和解はこうした地政学的関係を確立するものとなった。

 

4 OPECプラスの減産と「ペトロ・ダラー・システム」の崩壊

4月2日、ロシアを含むOPECプラス諸国は、今年5月から年末まで原油の自主的な減産を行うと発表した。ロシアとサウジアラビアは日量50万バレル減産するほか、イラク、アラブ首長国連邦、クウェート、アルジェリア、オマーンなども、それぞれ日量4~21万バレル減産する。OPECプラス全体では少なくとも世界の石油埋蔵量の4分の3以上を握ることになる。パリのESCP経営大学院のマムドゥフ・サラメ教授は「OPECプラスの産油国は1バレル80~100ドルの価格帯で推移するのが財源不足を避けるのに最も良いとみなしている。そのため、世界中の金融危機や景気後退の流れを受けた昨今の石油価格低下は、産油国全体にとって不都合だった。また、ロシア産石油への上限価格の設定は、他の産油国にとってもマイナス要因となっており、西側諸国に対抗する『産油国同盟』でお互いを支援する動きが広がっている」と語った(Sputnik:2023.4.4)。

第二次大戦後の経済体制を決めた1944年のブレトンウッズ会議で①参加各国の通貨はアメリカドルと固定相場でリンクすること、②アメリカはドルの価値を担保するためドルの金兌換を求められた場合、1オンス(28.35g)35ドルで引き換えることが合意された。しかし、1971年、ニクソン大統領はドルの金への兌換をやめ、理論上はいくらでもドル紙幣を印刷することが可能となった。しかし、金という錨がなくなれば、その価値はどんどん下落し続ける(インフレとなる)。これを避けるため、1974年、米国は、「ペトロ・ダラー・システム」を導入した。キッシンジャー国務長官は①サウジの石油販売を全てドル建てにすること、②石油輸出による貿易黒字で米国債を購入すること、その代わり、③米国はサウジを防衛するという協定を結んだ。石油というコモディティの裏付けを持つことによって、米国はドル借用金を、自由意志で、無制限に、世界経済に作り出し、使うことができた。しかし、今、この「ペトロ・ダラー・システム」は崩壊した。ドルはただの紙切れとなった。

ロン・アンスは『The Unz Review』において「我が国の恐ろしい財政赤字と貿易赤字を考えると、アメリカの生活水準は特に石油販売のためのドルの国際使用に大きく依存しているため、これは非常に脅威的な進展だ。何十年間も我々は我が国の札を世界中の商品と自由に交換してきたが、それが困難になれば我々の世界的立場は悲惨なものになる可能性がある。1956年スエズ危機はイギリス・ポンド崩壊の危機で、世界舞台におけるイギリスの影響力の終焉を示したが、アメリカは自身の『スエズの瞬間』に急速に近づいている可能性がある。」と書いている(「マスコミ載らない海外記事」2023.4.8)。

ほとんどの米銀は、FRBの連続的な利上げを受けて、支払不能の状態にある。金利が4.75%に上がったことで、保有国債の満期前の時価が下落=約20%=13 兆円の損失が表面化し、預金の引き出しで現金が不足する事態に陥っている。米銀の、「システミックな全体危機」が明確になってきた。米ドルの信用恐慌(=ドルの価値低下)の序幕があいた。今回はリーマン危機のときと違い、中央銀行の通貨増刷に限界がある。資産額が上位の大手銀行が危機になったとき、十分な量のマネーの増刷できない。一定量を超えて増発すれば、ドルとユーロの暴落の恐れがある(「ビジネス知識源」:2023.3.31)。もはや、米ドルに石油という支え(モノサシ)はない。

カテゴリー: ウクライナ侵攻, 政治, 杉本執筆, 経済 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA