【投稿】米債務上限合意:軍拡への政治劇--経済危機論(110)

<<典型的な新自由主義政策の合意>>
6/2 バイデン米大統領は、「リスクがかつてないほど高かった」米国史上初のデフォルト(債務不履行)によってもたらされる「経済危機」から米国を救ったと、ホワイトハウスと下院共和党の間で合意された債務上限合意を自賛した。「私が大統領選に立候補した時、超党派の時代は終了し、民主党と共和党の協力はもはや不可能だと聞かされていた。しかし、私はそれを信じようとはしなかった。米国はそうした考え方に決して屈することはないからだ」と。
合意の一方の当事者である共和党マッカーシー下院議長も「これは納税者にとっての勝利です」と自賛している。
 しかし、その合意の本質は、「超党派」の名の下に軍事費の増大をさらに推し進め、社会保障費と社会プログラムの支出を削減し、富裕層の減税(トランプ減税)を引き続き容認し、格差を拡大する、新自由主義政策そのものが露骨に打ち出された合意である。これは、バイデン政権自身が「超党派」の名の下で合意したかった、むしろその合意を前提に、一見、共和党右派の「緊縮」政策と対立するかに見せかけていたバイデン政権の政策が、実は新自由主義政策そのものであることを明確に示している。デフォルト危機を煽りながら、新自由主義政策を「進歩派」にも受け入れさせる、いつもの「またか」と繰り返される政治劇なのである。バイデン氏は、この協定は「妥協であり、誰もが望むものを手に入れることができるわけではない」という口実で、都合よく、共和党を利用した、いや実は必要だったのだとも言えよう。今回は、その上に、対ロシア・対中国緊張激化政策とドル一極支配体制の危機が「合意」をさらに促進させたのである。

 この「合意」の結果、「2023年財政責任法」と呼ばれるこの協定によって、フードスタンプと困窮家族向け一時援助プログラムが削減される。何万世帯もの世帯が家賃援助削減の危機にさらされる。補足栄養支援プログラム(SNAP)給付金と困窮家族一時支援(TANF)の一部受給者に新たな就労要件が課される。さらにパンデミック以来実施されてきた学生ローンの支払い猶予も解除され、バイデン氏が公約していた学生ローン免除どころか、今年2023年8月に学生ローンの支払い再開を強制する。一方、富裕層や企業と投資家には、2018年12月から28年までのトランプ時代の4.5兆ドルの減税が継続されることが明らかになり、なおかつ脱税行為を捕捉するIRS税務当局・内国歳入庁IRSの予算を削減する。等々、弱肉強食・自由競争原理主義の新自由主義政策のオンパレードである。
共和党指導部は、これでももちろん、「まったく不十分」と非難しており、共和党大統領候補に名乗り出たロン・デサンティス氏は、削減が足りない、と非難している。

<<ロッキード「合意は、わが社の勝利」>>
6/1、ロッキード・マーチン社のトップ、ジェームズ・タイクレ(James Taiclet)CEOは、投資家向けの会合(Bernstein Annual Strategic Decisions Conference)で、防衛予算の引き上げを自社の勝利として祝い、「最近、債務上限をめぐる政治的な動きが活発になっています。しかし、そのような状況でも、現在の合意は、国防予算は2年間3%増で、他の予算は削減されています。これは、私たちの業界や会社が現時点で求めることのできる最高の結果だと思います。」と自慢たらたらである。

タタイクレ氏はさらに、「現時点で我々は本当に強い立場にあると思う。当初、例えばF-35に対する大統領の予算は、当初の大統領予算に含まれていた米国向けの航空機の数80機以上であり、したがってそれが我々が必要とするレベルである。これに海外からの受注を加えると、今後数年間で前年比 156 件の目標まで増加する可能性があります。他の多くのプログラムにも、大統領の予算には十分な資金が用意されている。」と報告している。
タイクレ氏は、3つの「戦略的取り組み」として、「複数年にわたる調達、つまり、需要が大幅に高まった場合に、第二の供給源を認定したり、実際に利用できる海外の工場を確保」すること、「2つ目は、防衛企業へのデジタルの加速です。」、「そして国際的な面では、会社を真にグローバル化し、米国政府を本当に助ける方法で海外での生産と維持を推進すること」として、米政権と一体となって世界の軍事産業を領導せんと、宣言しているのである。
米国防総省・ペンタゴンの支出の半分以上は軍事産業請負業者に支払われており、世界最大の兵器会社ロッキード・マーチンのCEOは、この事態を「最高の結果」「わが社の勝利」と謳歌しているわけである。

バイデン政権は、下院共和党との間で合意された債務上限合意は、ウクライナ戦争への支出には「何の制約も与えない」ことを明確にしている。すでに、これまでにウクライナ戦争への支出が認められた1130億ドルは、緊急追加資金として可決されたもので、債務上限合意の一部である支出上限が免除される、というのである。都合の良い、勝手な論理である。「緊急要件として指定された資金や海外有事作戦のための資金は制約を受けず、その

他の特定の資金も上限の対象にはならない 」という論理からすれば、8860億ドルの軍事予算がさらに増やされることは明瞭である。緊急資金はウクライナにとどまらず、台湾への武器供与や、対中戦略の一環としてさらなる軍事費増大に使われる可能性が大なのである。

新自由主義財政政策の特徴は、軍事支出の拡大・加速と並行して、企業・投資家・富裕層の減税を拡大し、結果として拡大する財政赤字、国家債務の増大を社会保障・社会プログラムの支出の削減に利用することにある、しかしこうした政策は、政治的経済的危機をより一層深刻なんものとさせ、自らの政権基盤そのものを掘り崩すものでもある。すでに、5月末のCNNの世論調査では、66%が、ジョー・バイデンの再任は「災害を招く」と考えているのも当然と言えよう。
(生駒 敬)

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