<<「世界経済の構造的変化」>>
8/24~26、日米欧の主要中央銀行トップを集めた国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」(Fed Summit)が開かれた。その会議の内容は、8/22~24のBRICS首脳会議が、6か国の新規加盟国を発表して「BRICSに新たな活力を注入し、世界の平和と発展に寄与する。新興市場国と発展途上国の連帯と協力の新たな章を描くために尽力」する
ことを表明したのとは、まったく対照的に、
予測不可能な経済的危機打開の先行きについて、米中銀・パウエルFRB議長が、「よくあることだが、我々は曇り空の下で星を頼りに航行している。」と吐露していることに象徴的である。
例年、アメリカ西部の高原リゾート、ジャクソンホールで開かれる米欧日の中央銀行トップが集う「ジャクソンホール会議」、今回のテーマは、皮肉なことに、「世界経済の構造的変化」であった。
パウエル氏は、「インフレ:進歩と今後の道筋」という基調講演で、「インフレ率はピークから低下しており、これは歓迎すべき展開だが、依然として高すぎる」と述べ、要旨、以下のことを強調したのであった。、
・ 経済の不確実性は、機動的な金融政策決定を必要とする。
・ 予想通りに景気が冷え込んでいない兆候に注意。
・ インフレ率の低下にはまだ長い道のりがある。
・ 物価の安定を取り戻すには、さらに多くの課題を克服する必要がある。
・ 賃料の鈍化は住宅インフレの鈍化を示唆。
・ 政策は制限的だが、FRBは中立金利の水準を確信できない。
・ FRBは、金融政策が両面でリスクに直面していることに留意している。
・ インフレ率の低下には、労働市場の軟化も必要となる可能性が高い。
パウエル議長の結論は、要するに、「我々は曇り空の下で星を頼りに航行している」とする、不確実性の羅列であった、と言えよう。
<<「リーダーシップの欠如」>>
欧州中銀(ECB)のラガルド総裁は、「変化と停滞の時代における政策立案」という演題で、「人生は後ろ向きにしか理解できないが、前向きに生きなければならない」という言葉(『恐怖と震え』を書いたキルケゴール)を引用し 、労働市
場における「深遠な変化」、エネルギー転換、地政学的ショックにより、これまでの成長モデルは、「もはや適切ではないかもしれない」と、まさに自らの「恐怖と震え」を実感している内容であった。
英中銀(BOE)のブロードベント副総裁は、「貿易制限の経済的コスト:英国の経験」と題して、「貿易のグローバル化が進んでいない方が経済ショックから守る効果が高いという証拠はない」と主張し、交易条件の悪化と労働市場の逼迫が相互作用し、そうした不確実性により、金融政策の設定はかなり複雑になっている」と、これまた見通し得ない不確実性を嘆く事態である。
ドイツ連銀のナーゲル総裁は、「インフレ率が依然5%前後であることを忘れてはならない。これは高過ぎる。」と対インフレ対策の重要性を述べるにとどまっている。
一方、日銀の植田総裁は、アジアにおける貿易・直接投資に見ら
れる構造変化を論点として、日本企業の輸出や対外直接投資において脱中国化が進展していることを強調して、G7の対中国貿易制裁・緊張激化路線に追随。
逆に日本のインフレについては、「基調インフレは依然、目標をやや下回っている。それが緩和を堅持する理由」であると、これまでの低金利・金融緩和路線の継続を追認し、方向転換封じ込めに終始するものであった。この点では、米欧の論調とは異なるものであった。しかし、植田氏のインフレ認識は、日本経済のインフレ加速の実態をほとんど無視しており、日本の消費者物価指数(CPI)変化率が、米国を総合ベースで上回ってきており、ユーロ圏のインフレ率に近づいていることさえ認識できていない。この、インフレ高進を放置する路線こそが、今現在進行中の、通貨減価、円売り、1ドル=150円台突破、円安進行の元凶であるという認識もないのである。
この会合に抗議する民衆の怒りには暴力的に食って掛かるが、このように、日米欧の中央銀行を率いる総裁たちは、直面する政治的経済的危機に対して、今や確たる指針も指し示し得ない、不確実性に漂うしか対応できない、リーダーシップの欠如、無能力さをさらけ出しているのである。
(生駒 敬)