手始めはパトリオット
自民公明両党は、3月15日に与党ワーキングチームの提言を踏まえ「防衛装備移転三原則」の改訂に合意し、武器輸出に大きく踏み出した。
既に昨年末、第一弾としてパトリオットミサイルの対米輸出が決定しているが、ウクライナでは同ミサイル2セットが、3月初旬にロシアに初めて撃破された。
ウクライナは同ミサイルシステムを3セット(供与国はドイツ2,アメリカ1)しか保持しておらず、予備の発射機も4器(ドイツ2,オランダ2)しかない。
日本では北朝鮮の弾道弾対処として、同ミサイルを東京の中心部である市ヶ谷に展開する光景がお馴染みだが、この間ウクライナは、これまで専ら拠点防空用として運用されてきたパトリオットを前線近くに配備し、ロシア軍機を撃墜してきた。
しかしこうした大胆な戦術の代償も大きいものとなった。事態は急を要するものとなっており、今後日本からの追加輸出、さらにアメリカ議会、大統領選の状況によっては、事実上の無償提供も求められよう。
次世代戦闘機の夢
今回パトリオットに続き輸出が解禁されたのが次世代戦闘機である。これは日、英、伊3カ国による国際共同計画「グローバル戦闘航空プログラム」(GCAP)で開発されることとなっている。
戦闘機が完成すれば、第3国、具体的には装備品協定を結んでいる米、英、仏、独、伊、豪、印、比、越、秦など15カ国への輸出がもくろまれている。これらは現時点で紛争当事国ではないが、戦闘機を購入後に武力衝突が発生した場合、どうなるのか等、疑念が山積しているが、それ以前に開発が計画通りに進むかどうか分からないのである。
ヨーロッパでは仏、独、西、白が参画するもう一つの将来戦闘機開発計画「未来戦闘航空システム」(FCAS)が存在しており、以前から関係各国や航空産業から様々な提起がされている。
要は、欧州で同じものを同時に進めるのは、時間と経費のロスだからFCASとGCAPを統合せよ、という意見である。
元々、国際共同開発は先端技術の統合と各国の負担を軽減するという観点から推進されているものだから、「全欧州将来戦闘機」は極めて合理的である。
露宇戦争の影
さらに、露宇戦争の長期化でNATOは拡大するものの、その戦略の見直しは必至である。中でも想像以上の装備の損耗に対応するためには武器、弾薬の一層の共通化が求められよう。
冷戦期においても、欧米では兵器の共同開発が推進されたが戦車や水上戦闘艦では頓挫し、戦闘機も欧州では3種類の異なる機体が導入された。皮肉にも冷戦下の落ち着いた環境ではそれが許されたが、熱戦の時代ではそうした余裕はますます狭められている。
ウクライナでは、過去中東の砂漠でエイブラムス戦車がT72系列の戦車を圧倒したような光景は見られていない。
現在の情勢は欧州対ロシアという共通基盤での装備開発を一層後押しするだろう。イギリスは、安全保障においては欧州随一の反ロシアであるから、今後GCAPからの離脱も考えられる。
日本はF2戦闘機開発時にアメリカから煮え湯を飲まされた経緯から、アメリカにはことわりを入れた上、技術移転に寛容なイギリスをパートナーに選んだといわれている。しかし世界が驚くEU離脱を行った国を無条件に信頼するのは脳天気に過ぎるというものであろう。
そもそも日、英では仮想敵国が異なるわけであり、技術面からも用兵側の要求を満たすのには難航が予想される。
対中戦回帰へ
そうした場合、日本にとって共通する仮想敵、地理的条件、対等な関係など、共同開発の条件を備えるのは台湾、もしくは豪州しかないのである。豪州とは「円滑化協定」を結び、既に日本は装甲車を輸入、日本からの潜水艦の輸出はならなかったが、豪は現在「もがみ」型護衛艦の導入に関心を寄せていることから、共同開発も含めた軍事協力は今後も進むであろう。
問題は台湾であり、中国が台湾回収に踏み出せば、日本は何らかの形で介入する可能性が高まっている。昨年政府は台北に防衛省職員を配置し関係の緊密化を図っており、台湾有事を見据えた体制を作りつつある。
具体的な軍事協力については進められていないが、武器輸出、軍事協力のハードルが加速度的に下げられつつあるなか、今秋明らかになるであろう日米の次期政権の対応を厳しく監視していかなければならない。(大阪O)