【投稿】米国のTikTok規制法案とSNSの利用

【投稿】米国のTikTok規制法案とSNSの利用

                    福井 杉本達也

1 米国のTikTok規制法案

「米連邦議会下院は13日、中国発の動画共有アプリ『TikTok(ティックトック)』の米国内の利用禁止につながる法案を本会議で可決した。中国などの『敵対国』が影響力を及ぼすアプリを規制対象にする。…米議会と政府は中国による世論操作や米国人の個人情報流出といった安全保障の脅威があるとみている。」(日経:2024.3.15)。TikTokから定期的にニュースを受信している米国人は14%、月間利用者は1億7000万人といわれる。しかし、米国が本当に危惧するものは「安全保障」であろうか。南カリフォルニア大学などのアプリ別「幸せ」分析調査によると、経済状況や社会生活への満足度が高いユーザーを多く抱えるのがビジネスパーソン特化型のLinkedlnであり、Facebook やInstagramは中間、X(旧Twitter)はどちらかというと不満、TikTokは仕事や日常生活に不満を抱えるユーザーが多いという結果となっている(日経:2024.3.1)。その不満が国家に向かうことを恐れているということである。また、経済的には、コメディアンのRonny Chiengが、Banning #TikTok means “Communist China beat free market America at capitalism.” (共産主義中国が資本主義において自由市場アメリカを破ったことを意味する。)と皮肉ったように、“自由の国”米国は競争で負けそうになったら、「情報リーク」や「バックドア」などと全く未確認のデマでセキュリティ危機を煽り、「国家安全問題」を持ち出す。

2 メディア論

新聞やテレビなどのマスコミは、「事実をどう正確に伝えるか」に関心はない。編集局による「編集」がされたものが流される。編集局の方針に都合が悪い事実は、小さく扱かわれるか、無視される。たとえば、日経新聞の政治面:4面の最下欄には「無視」したいが「無視」できない言い訳記事が並ぶ。たとえば「安倍派幹部発言『無責任』と批判 公明幹事長」といった一段見出し記事である(2024.3.16)。一応書いておいたぞ、与党よりだと後ろ指を指されないように、という意味である。我々も写真において、ある風景を写すが、360度の風景が写真1枚におさまるわけがない。ある時間のある方角の特定の一部のみが写真の額縁に写される。そこでは既に写真家の編集がなされている。残った風景の全ては切り捨てられる。1枚の写真は事実ではあるが、事実ではない。無限の情報から、ある部分を、意図的に切り取って、評価し脚色されて流される。SNS は、切り取った写真・動画と短い文書で、真実だとして、我々のスマホに毎分・毎秒、膨大に流され続ける。

3 SNSとアルゴリズム

フェイスブック(現・メタ)の内部告発者フランシス・ホーゲン氏は、フェイスブックのアルゴリズムが偏っていると指摘した。アルゴリズムとは、「コンピューターが膨大なデータをもとに問題を解いたり、目標を達成したりするための計算手順や処理手順」である。このアルゴリズムがどう使われているか。例えば、FTのコラムニスト:ラナ・フォルーハーは、米住宅市場におけるアルゴリズムを使った談合について、「家主らは家賃を最大化するソフトウエアの活用をどんどん進め、全米の何千万にも上るアパートの家賃を通常の市況で想定される価格より高い水準に設定、維持している」と書いている。MetaやGoogleといった「プラットフォーマーと呼ばれる大手テック各社は、ダイナミックプライシングからリアルタイム・オークション、データ追跡、広告の優先表示まで合め、監視資本圭藷のトリックともいえるあらゆる手法を開発し、完成させてきた」。また、アマゾン・ドット・コムは同社が「高い価格を設定しても競合の通販サイトが追随してくる場合は販売価格を引き上げるアルゴリズムを使って様々な商品の相場を意図的に高くし」不当な利益を上げていた(日経=FT:2024.3.15)と指摘している。アルゴリズムは、公開されないブラック・ボックスである。どのように「編集」するかはテック企業の手中にある。

 

4 フェイスブックは監視システムであるースノーデン

2013年6月、米CIA職員のエドワード・スノーデン氏の内部告発により、米国家安全保障局(NSA)がIT技術を駆使して国家的な個人情報収集を行っているという実態が明らかとなった。当時、「極秘個人情報収集プログラムXKSにより、ネット上のあらゆる個人情報を最も広範に収集でき、メールの文面なども閲覧できる」(朝日:2013.8.2)と報道された。10年前に既に、監視機関はフェイスブックなどのインタ―ネット企業にアクセスし、情報を得ており、技術力、規模、権力などが非常に強い企業から物理的な協力を得ることで、監視が可能となっていると告発していた(『世界』2014.10「国家が仕掛ける情報収集の網」デイヴィッド・ライアン×田島泰彦)。それから10年、巨大プラットフォーム企業の情報収集能力は格段に強力になった。スノーデンは「フェイスブックは監視システムであり、ソーシャルネットワークの名のもとに人を欺いている」と発言している。

テスラCEOのイーロン・マスク氏は、旧Twitter(Xに改名)を買収し、それを言論の自由の砦にしようとしたことで、彼と彼のすべてのビジネスが政府とその検閲同盟国による絶え間ない攻撃の標的になったと主張している。旧Twitterは、2020年の米国大統領選挙でバイデン氏の家族がウクライナと中国で影響力を行使したとされる爆弾報道を検閲し、バイデン氏の勝利に貢献した(RT:2024.2.17)。日経新聞2月27日付け社説は「SNS運営企業は大規模なリストラで投稿を監視する体制を縮小したが、人員の拡充やを利用した対策の強化が急務だ」と主張するが、ブラック・ボックスのアルゴリズムは人手を借りずに自動的に検閲しているのではない。膨大な人員を投入して、政権や金融資本に不利な情報をチェックしてはじめて機能するものである。3月7日付けの日経新聞は「米企業の経営者が自社株の売りを増やしている。今年に入り、メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーパーグ最高経営責任者(CEO)やアマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス会長などが相次いで大規模に売却した」と報じた。アルゴリズムを駆使して株価を最高値にまで吊り上げ、最高値で売り抜けるのは簡単である。トランプ氏はフェイスブックを「真の国民の敵」と批判した。理由として、TikTokを禁止すればフェイスブックを利すると主張している(CNN 2024.3.12)。

5 「忘れられた内戦」でSNSを武器とするイエメン(フーシ派)

大手テック企業のSNSは国家による監視システムの一部であるが、SNSを弱者の武器として使う動きも活発である。例えば、我々は、これまでイエメンという中東の”片田舎“で何が起こっているのかほとんど情報はなかった。そもそも、イエメンが世界のどこにあるかも知らなかった(モカ・コーヒーは有名であるが)。国際社会の関心が薄いことから「忘れられた内戦」ともいわれた。日本のマスメディアだけでなく、欧米を含む全てのメディアは完全に無視していた。そこでは、米英を後ろ盾としたサウジ・UAE軍がイエメンの内戦に介入・経済制裁を課し、イエメン国土の多くを占領し、空爆、大虐殺を行い、国民の3分の1以上にあたる1千万人近くが飢餓の状況にあるといわれる。今、そのイエメンがパレスチナ支援で国際的に注目を浴びている。紅海・アデン湾を航行しイスラエルに物資を運ぶイスラエル・米英船舶に対しミサイル攻撃を行い、事実上、空母を含む米英の艦隊は歯が立たないのである。イエメンは米英船舶への攻撃を、SNSを通じて配信している(日経:2023.12.23 「紅海襲撃、輸送能力 2割減、迂回で滞留時間大幅増」)。米欧支配層はSNSの完全支配はできないのである。そうした延長線上にTokTokの問題がある。

韓国主催でオンラインで行われている「第3回民主主義サミット」において、尹錫悦大統領は「偽情報が国民が誤った判断を下すよう扇動し、選挙を脅かす」と指摘した。4月の総選挙に向け偽動画が拡散しており、TikTokなどのSNSで流布されていると非難した(日経:2024.3.21)。

2月28日の日経新聞に、「岸田文雄首相は27日、米メタのマーク・ザッカーパグ最高経営責任者(CEO)と首相官邸で30分ほど面会した。人工知能(AI)を巡って意見交換した」との囲み記事があった。「首相はザッカーパーグ氏に選挙とAIをめぐる問題や、日本のAIの活用状況についての見方を質問した」と書いているが、どう世論操作をするかということであろう。

 

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