【映画】I AM A COMEDIAN(アイアム・ア・コメデイアン)・テレビから消えた男
福井 杉本達也
いくらお盆休みの人が多いとはいえ、平日のPM1時開演の映画に、階段に入場待ちの人があふれた。マイナーなドキュメンタリー映画であり、普段は5~10人しか観客がいない劇場は100人以上の鑑賞者で溢れた。
「テレビに居場所を失った村本大輔は劇場、ライブに活路を見出し、…世間から忘れ去られた芸人の真実に『東京クルド』の新鋭ドキュメンタリスト日向史有が迫った3年間の記録。…テレビから消えたお笑いコンビ“ウーマンラッシュアワー”村本大輔。テレビに居場所を失った彼は、劇場とライブに活路を見出し、自分の笑い”スタンダップコメディ”を追求する。ニューヨークでコメディ修行に打ち込む村本大輔は、アイデアを思い付くと道端に座り込んでメモを取り…」
村本大輔は福井県おおい町出身である。おおい町といえば、大飯原発であり、現在4基の原発がある。映画でもテレビ局からの電話で、ネタの「原発」について、「もんじゅ」(現在は廃炉)は「原発」ではない、数時間後のネタを直せという電話シーンがでて来る。「高速増殖炉」という建前であるが、「商業化」という建前もあり、28万キロワットの発電をすることとなっており、原子力発電所(=原発)に間違いない。もちろん、県も国も「もんじゅ」は「原発」と認識していた。いかにテレビ局が無知のまま、「言葉」だけでお笑いネタに圧力をかけて来るかを示すシーンである。
2013年のNHK漫才コンクールで「ウーマンラッシュアワー」として優勝してブレークし、一時期は、毎年250本のテレビに出ていたが、「大麻」のことをSNSに書いたことをきっかけに、番組降ろしがはじまり、遂に1年に1本しかテレビに出られなくなった。そこで、村本は、活躍の舞台をニューヨークに求めた。まったく英語ができなかったが、猛勉強と友人による英漁表現のアドバイスでトークショーをやっている。こうしたニューヨークでの武者修行は実に面白い。思いついたネタをまず日本語でメモ帳に書き、それを翻訳ソフトで英訳し、友人に見せて、笑える英語表現に直してもらう、そのメモを手元に様々なライブハウスで、スタンダップコメディに挑戦するのである。常にネタを考え、それを英語に直す。コーヒーハウスであろうが、街頭の木陰であろうが必死にネタの表現を考えるのである。それは、彼がこれまでの日本での下積みで経験してきたことであり、こんなことは当然のことだと語るシーンがある。日本のテレビ局のお笑い芸人が、売れだすが、努力せず教養のない芸人は「パワハラ、セクハラ、イジリ、下ネタ」でしか笑いが取れなくなり、金がなく、企画力も全くなくなり、歌番組やドラマ、ドクメンタリーなども制作できないテレビ局の駒としてバラエティなどに出演せざるを得なくなる。そこは芸とは全く無縁の世界である。村本はこうした芸人とは全く対照的な生き方を試みている。
映画後の舞台挨拶で、村本はアメリカに行った理由を聞かれ、アメリカのお笑い芸人はホワイトハウスの晩餐会に招待されて、そこで、大統領や閣僚が目の前にいるのに、時のの大統領をボロカス言う。それでも、芸人が毎回そこに呼ばれて、時の政権批判をして笑わせる。アメリカの芸人は実体験をもとに話をして現実を突きつけるが日本の芸人は逃げている。だからアメリカで勝負してみたいというような話をしていた。
コロナ禍でトークショーが相次いでキャンセルになるなどストレスもあり、映画の村本はかなり太って、いつも焼酎瓶を片手にラッパ飲みをしているシーンが多かったが、舞台挨拶では細りした体形に戻っていた。