【投稿】総選挙結果について

【投稿】総選挙結果について

 10月27日に行われた衆議院選挙は、石破新総裁の下、自民党が歴史的大敗を喫し、立憲民主党・国民民主党が躍進する結果となった。過去であれば「保革伯仲」とでもいう状況が出現したわけだが、どうもそういう雰囲気ではない。
 自民党大敗の原因は、パーティー収入の派閥からのキックバックを収支報告書に記載せず「裏金」として政治資金化した疑惑に対する国民の強い反発であるのは明かであろう。
 自民党の低迷は、公明党にも大きな影響を与え、自公与党の過半数割れを結果し、立憲民主党を中心とする「野党連立政権」の可能性も浮上させている。
 11月11日とも言われる特別国会に向け、自民党の一部野党への連立取り込みの動きと、立憲民主党による他の野党への働きかけが焦点となっている。
 しかし、今回の選挙結果、特に比例区選挙の得票状況を詳しく見ていくと、与党を過半数割れに追い込んだとは言え、野党側にも多くの問題が指摘できる。以下に選挙結果、特に比例投票結果に見られる特徴について考えてみたい。
 (筆者による選挙結果分析は、比例区分析表を基本としている。
  2024年10月総選挙の分析表 2021年10月総選挙の分析表を参照されたい) 
 
<裏金疑惑議員の多くが落選した小選挙区選挙>
 自公与党の過半数割れを生み出した大きな要因は、小選挙区にある。公認を得られなかったり、比例重複立候補も認められなかった「自民党候補」は44人。その内、27人が小選挙区で落選。ほとんどで立憲民主党など野党候補が議席を確保した。
 小選挙区の前回当選と今回の当選者数の比較は以下のとおりである。
 自民党 189 → 132 (57議席減)
 公明党   9 → 4    (5議席減)
 立憲民主党 57 →104 (47議席増)
 維新の会  16 →23   (7議席増)
 国民民主党  6 →11   (5議席増)

 小選挙区では、与党が62議席減少したのに対して、野党3党は59議席を増やした。
自公政権はここで大敗北を喫したのであり、裏金問題に対して国民は明確にNOを突きつけた。

 この結果は、無党派層が自民党から離れたことが最大の要因であり、自民党支持層の一部が投票に行かなかったなども考えられる。一方、自民党支持層に「自民党にお灸を据えたい」という選択もあっただろう。比例区でも、同様の傾向が見られると考えられる。
 
<比例区では、違った特徴が現れている>
 一方、比例区の各党の得票状況では、少し違った傾向が見られるのである。
 比例区の前回当選と今回の当選者数の比較は以下のとおりである。
 自民党  72 → 59 (13議席減)
 公明党  23 → 20  (3議席減)
 立憲民主党 39 →44  (5議席増)
 維新の会  25 →15  (10議席減)
 国民民主党  5 →17  (12議席増)
 共産党    9 →7   (2議席減)
 れいわ  3 →9 6議席増
 参政党  0 →3 3議席増
 保守党 2議席増
 
 比例区では、自公与党が16議席減に対して野党は26議席を増やしている。ただ、野党である維新の会は、10議席減となっている。議席を増やしたのは、立憲民主党、国民民主党、れいわ、参政、保守の各党である。
 比例区の得票数も見てみよう。
 自民党  1985万票 → 1358万票 (627万票減)
 公明党  709万票  → 596万票 (113万票減)
 立憲民主党 1146万票 →1156万票 (10万票増)
 維新の会  793万票  →510万票  (282万票減)
 国民民主党 257万票  →617万票  (359万票増)
 共産党   415万票  →336万票  (79万票減)
 れいわ   221万票  →335万票  (114万票増)
 参政党 → 187万票
 保守党 → 114万票 
 
 自民党、公明党は、合計740万票を失っている。立憲民主党、国民民主党、れいわ、参政、保守は、合計597万票を増やした。維新の会は、282万票を失っている。
 全ての増減数の合計が、前回票と合わないのは、投票率の減少が原因と考えられる。
 自民党は、明らかに「裏金疑惑」の影響を受けて前回より約630万票を失い、比例区議席を13減らし、公明党も113万票を失った。公明党の比例区票は近年減少の一途を辿っており歯止めが掛からない状況が続いている。学会員の高齢化や減少が原因であろう。
 今回の比例区の最大の特徴は、360万票余りを増やした国民民主党の躍進である。マスコミは、SNSを駆使した選挙戦術や、「若者の所得を増やす」というスローガンで、若者の票を獲得できたと解説している。しかし、筆者はむしろ自民党から逃げた票の受け皿の面も否定できないと推察する。さらに、比例区の政党略称問題の影響は、この数字から読み取れない。実は、投票所に掲げられた政党略称名は、立憲民主党も国民民主党も同じ「民主党」であった。各政党から届けられた略称がそのまま記載される。民主党とだけ書かれた票は、2党の得票数に応じて配分される。この影響が国民民主党の獲得票にどれだけ寄与したかは、発表資料がないため不明である、という前提でこの文書はお読みいただきたい。
 そして、旧来の野党に対して、新興勢力でもある、れいわ、参政、保守は、合計で417万票を増やした。自公・立憲・国民という「旧勢力」に飽き足らない層が、新興政党を選択したと言える。
 共産党は、野党共闘路線を方針変更し、小選挙区213選挙区に候補者を擁立した。比例票の積み上げを期待した作戦であったが、効果はなく、比例票79万票を失う結果となった。一部の県では、野党共闘が継続され、全小選挙区で自民党に勝利した。「野党共闘」路線が修正を余儀なくされているとは言え、小選挙区での自公与党との対決の構図を鮮明にして勝利した事実は貴重な教訓であろう。野党各党の事情があるとはいえ、大半の選挙区での野党乱立という判断を行った野党各党には猛省を促したい。この有様では、政権交代などありえないし、国民の信頼も得られないだろう。
 次は、急速に勢いを失った維新の会である。大阪の特殊事情は別として、今回の選挙で野党第1党を目指していたはずの政党だが、比例区票で約300万票を失った。「国民政党」として再起できるのか、予想される大阪万博の失敗と更なる予算投入、兵庫県知事問題、度重なる各級議員の不祥事など、何一つ好材料はない。大阪での「成功体験」は他府県では通用しないという事が理解できないようでは、この政党には「第2自民党」という以外には選択肢は残っていないと思われる。
 
<敵失のみの政権交代は危うい>
 最後に立憲民主党である。比例票では、全比例区で前回総選挙とほとんど獲得票数は変わらない。1150万票前後が、この党のコアな支持層ということになる。比例票では、自民党→立憲民主党への票の移動は少ないという事実。自民党から逃げた票は、国民民主党と参政、保守党、そして投票回避に流れたと見ていいと思う。
 比例区では、政権交代を予測されるような票の流れはなかったということ。自公与党で比例区票は750万票余りが減少し、立憲民主党は前回同様の得票でも獲得議席が増えたに過ぎない。小選挙区では、分かりやすい「裏金候補」から立憲民主党へという流れはあったが、比例区では起きなかったということは、「躍進」に浮かれる立憲民主党関係者には是非とも確認しておいて欲しい。「敵失」のみで政権交代を期待してはいけないのである。
 自民党支持層にとっては今回の選挙で十分に「お灸を据えた」ことになり、次回の総選挙では、何も変わらなければ、自民党に回帰することは確実と見なければならない。ただ、自民党も旧安倍派が勢力を失い、極右勢力が「保守党」となって党外に出たこと。アベノミクスの失敗が明かとなり、「成長戦略」なる幻想が薄れていく中で、新たな保守政策の確立と国民の支持が前提になる。
 立憲民主党にあっては、政権交代などの浮かれ話に乗ることなく、最大野党の役割をしっかり果たし、国民の支持を受ける政策の確立と地方組織の強化、政策宣伝の改善などを通じて、足元を固めることが必要であろう。
 筆者は、敢えて言えば立憲民主党の中道左派支持者とも言えるので、そういう色眼鏡をかけた選挙分析になっていると思う。ご意見をコメント参加でいただければ幸いである。
(佐野秀夫) 

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