【投稿】トランプ関税戦争:世界恐慌への警告--経済危機論(156)

<<「史上最も愚かな貿易戦争」>>
3/4、米トランプ政権は、カナダ、メキシコ、中国に対する一方的な関税引き上げ戦争に突入した。
2/1にトランプ氏が署名した、メキシコとカナダからの輸入製品に25%の関税を課し、カナダのエネルギー製品には10%の関税引き上げを課し、中国に対しては10%の追加関税を課す、という大統領令は、2/3にカナダ、メキシコとの交渉を続けるとして、実施を30日間延期していたが、進展はなく、関税措置は3/4に発効、ついに関税・貿易戦争に突入する事態となった。

カナダのトルドー首相は直ちに、「カナダ国民の皆さん、甘い言葉は言いません。これは厳しいものになるでしょう」と宣言し、対抗措置として、第1段階には、3月4日午前12時1分から米国からの輸入品300億カナダドル(約210億米ドル)相当の商品に対する対抗関税を課す。対象製品には、オレンジジュース、ピーナッツバター、ワイン、酒類、ビール、コーヒー、電化製品、衣料品、履物、オートバイ、化粧品、一部のパルプおよび紙製品などが含まれる。次いで、21日間の意見募集期間が設けられ、米国からの輸入品1250億カナダドル(約890億米ドル)に対する追加対抗措置が行われる。その品目リストには、電気自動車、果物や野菜、牛肉、豚肉、乳製品、電子機器、鉄鋼、アルミニウム、トラック、バスなどの製品が含まれる、ことを明らかにし、米国が自国の措置を撤回するまで関税は継続すると明言している。
さらにトルドー首相は、今後起こる貿易戦争がアメリカ経済にどれほど深刻な打撃を与えるかを説明し、市場は低迷し、インフレが上昇する可能性があると指摘し、「彼らは、食料品やガソリンなどの日常必需品、車や住宅などの主要な購入品、その他あらゆるものについて、アメリカの消費者にかかるコストを上げることを選択した」と述べ、トランプ氏は「カナダ経済の完全な崩壊を望んでいる。そうすれば我々の併合が容易になるからだ」と語り、カナダを米国の51番目の州にしたいというトランプ氏の願望に言及、「これは非常に愚かな行為だ」と、まさに断腸の怒りを表明している。
この発言を聞いたトランプ氏は、カナダの「トルドー知事」などと揶揄し、報復関税に対しては「米国の相互関税も即座に同額引き上げる」と応じている。次元の低いエスカレートの応酬である。
カナダのオンタリオ州の首相ダグ・フォード氏はトランプ関税への対抗措置として、米国への電力と重要な鉱物の供給を停止する用意があると述べ、米ミシガン州、ミネソタ州、ニューヨーク州など、カナダの電力に依存している米国の州への電力供給・輸出を停止するとの脅しまで表明している。
事態の進行は、まさに危なっかしい、危険な領域に入っている、と言えよう。

トランプ大統領、最も愚かな関税に踏み切る

 

3/3、米ウォールストリート・ジャーナルの編集委員会は、トランプ大統領を激しく非難し、トランプ氏の関税措置を「史上最も愚かなもの」と断言し、「特定の国や企業に打撃を与える報復措置により、トランプ大統領は想像よりも早く考え直すかもしれない」が、「トランプ氏は、関税自体を望んでおり、それが新たな黄金時代の到来を告げると述べている。」、この「無制限の関税マンは、2期目では必ず大きな経済的リスクになるだろうが、今やそうなっている」と結論付けている。

<<「1930年代大恐慌に似た崩壊に直面する可能性」>>
3/4、メキシコのクラウディア・シャインバウム大統領は、メキシコは3/9に米国に対する報復関税を発表すると発表し、米国の関税引き上げを「不当」なものであると非難。トランプ政権が米国・メキシコ・カナダ協定に違反していると指摘し、メキシコ政府と組織犯罪を結びつけるホワイトハウスの主張を「攻撃的で根拠がない」と否定。「関税が課されれば、雇用の喪失、生産の遅れ、米国の消費者に対する自動車価格の上昇が見込まれる。これは保護主義政策が達成しようとしていることとはまったく逆の結果」をもたらすことを警告している。

同じく3/4、中国は、トランプ氏が中国からの輸入品に対する関税を10%から20%に倍増すると決定したことを受けて、米国の農産物や食品の幅広い製品に10~15%の関税引き上げを発表、米国企業25社に輸出および投資制限を課したことを発表している。米国からの鶏肉、小麦、トウモロコシ、綿花の輸入に15%の追加関税を課し、米国産のモロコシ、大豆、豚肉、牛肉、水産物、果物、野菜、乳製品には10%の追加関税が課される。さらに、環境保護と食品の安全を守るため、米国産木材の輸入を即時停止し、米国産大豆を中国に供給している3社の輸出資格を取り消すと発表している。
3/4、報道官・楼欽建氏は、北京で開かれた記者会見で、米国の一方的な関税措置は世界貿易機関の規則に違反し、世界の産業チェーンとサプライチェーンの安全と安定性を乱すものだと警告。
中国はすでに7,750億ドルの米国債務を手放し、欧州から62兆ドル相当の証券を引き揚げる準備をしており、これが勢いを増せば、西側諸国の金融システムの崩壊の引き金、世界金融秩序の再編成となる可能性が浮上している。

こうした事態の急速な進行を背景に、米株式市場は動揺を隠しきれず、3/3、3/4、ダウ工業株30種平均が2日連続で下落、48時間で1,300ポイント以上下落、銀行株と小売株が下落を主導し、S&P 500 は年初来で赤字に陥り、トランプ氏が当選した後に見られた株価上昇は完全に帳消しとなり、当選前よりも低い水準に下落している。
関税戦争により、今後12か月でインフレが2023年5月以来の高水準となる6.0%に達すると予測されており、すでに実質GDPの四半期変化率-2.5%は、FRBの記録開始以来、最悪の水準である。
高関税のブーメランを予測も想像もできない、ただ推進するのみ、とするトランプ政権は、政策の大幅な修正・転換に踏み切らない限りは、国内外で孤立せざるを得ない事態に追い込まれるであろう。すでにトランプ政権の不支持率=52% vs 支持率=48%、物価対策では、不支持=54% vs 支持=31% と、不支持が支持を逆転する事態である(2月末CNN調査)。

関税戦争開始によるこうした激しい変化にあわてたトランプ政権は、ハワード・ラトニック商務長官が急遽、トランプ大統領がカナダとメキシコの指導者と「妥協」する用意があるかもしれないと示唆、トランプ大統領が「おそらく」妥協を検討するだろうと発表している。動揺を隠し切れない事態の展開である。

関税戦争は世界を新たな大恐慌に陥れる恐れ

3/4、国際商業会議所(ICC International Chamber of Commerce)の幹部は、まもなく「1930年代の貿易戦争の領域に陥る下降スパイラル」に直面する可能性があると主張し、米国が輸入品に高関税を課す計画を撤回しなければ、世界経済は1930年代の大恐慌に似た崩壊に直面する可能性があると警告している

しかし、トランプの関税戦争は、まだ始まったばかりである。カナダ、メキシコ、中国に課せられた新たな関税により、米国の消費者と企業の総コスト負担はすでに 1,600 億ドルという驚異的な額にまで上昇している、と報じられている。しかしこれは、トランプ氏の関税戦争計画全体の、まだ 40% にすぎない。対日本や対EU 諸国を含めた、全世界的な相互関税が導入されれば、巨大な悪影響を及ぼし、歴史的な世界恐慌にまで突入しかねない、そのような緊張状態に突入しつつあると言えよう。
(生駒 敬)

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