【投稿】「トランプ関税」:日本の消費税は「輸出補助金」

【投稿】「トランプ関税」:日本の消費税は「輸出補助金」

福井 杉本達也

1 「エンゲル係数」が約3割に

24年の家計の消費支出に占める食費の劃合を示す「エンゲル係数」は28・3%と、1981年以来、43年ぶりの高水準になった。生活に欠かせない食料への支出劃合が高いほど、家計にゆとりがない状態と見なされる(福井:2025.2.8)。フランス24%、英国22%、ドイツ19%、米国16%、韓国12%なのに、日本だけがどうしてこんなにも高いのか。先進国ではトップである。庶民は食べ物すらまともに買えない状況に陥りつつある。あらゆる分野で物価高が加速するが、賃上げも全く追いつかず、家計を極端に追い詰めている。アベノミクス=異次元緩和の帰結が、この異次元の物価高となっている。これは自民党政権による「人災」である(小沢一郎:2025.2.12)。この約30%の消費税のうち2.4%部分は消費税である。もちろん、この30%は1世帯当たりの平均的な消費支出であり、平均を上回る世帯も多々ある=ほとんどを食費にまわさざるを得ない世帯もあるということである。

2 トランプ氏:消費税還付は「輸出補助金」と発言

米ホワイトハウスの高官は、日本について名指しで「構造的な(非関税)障壁が高い」と言及、トランプ氏は「消費税も関税とみなす」と語った(日経:2025.2.15)。トランプ氏が問題視しているのは消費税の輸出還付制度である。輸出企業が消費税還付を受けられる仕組みがあり、これが「事実上の輸出補助金」として機能している点をトランプ氏は不公平だと主張している。アメリカの売上税にはこのような還付制度がないため、「消費税がある国々に対しては報復関税をかける」と警告している。

消費税(VAT)は全事業者の取引に課税されインボイスで管理されるが、米国の売上税(Sales Tax)は最終消費取引のみに課税される。消費税では輸出企業は仕入れ税の還付を受けられるが、売上税では還付金は発生しない。例えば、日本企業が3万円の商品を海外に輸出し、仕入れに1万円を支払った場合:国内①仕入れ時の消費税支払い:1,000円(10%)②輸出時の消費税:0円(輸出免税)③結果:1,000円が還付(還付金として受け取る)この仕組みのため、日本の大手輸出企業(例:トヨタなど)は年間何兆円もの消費税還付を受けている。

国内で商品を購入すれば、商品代金のみに消費税がかかる。しかし、海外から輸入する場合は、商品代金だけでなく関税・運賃・保険料まで含めた金額に消費税が課される。実質的に、輸入品の方が消費税の計算ベースが大きくなる可能性がある。これにより、輸入業者は同等のモノを国内で仕入れる場合よりも多くの税負担することとなる。

日本の輸出企業は、国内で支払った消費税が還付されるので実質負担がゼロに近い。一方、自社が日本市場に製品を輸出すると、関税とともに輸入消費税がかかる。トランプ政権では「実質的な保護貿易」と受け取られており、消費税の変更圧力: 米国からの圧力が強まることで、日本政府が税制改革を迫られる可能性がある。

 

3 自動車産業などの膨大な消費税還付金

日本の輸出還付制度では、輸出品に「ゼロ税率」が適用され消費税が課税されない。輸出企業は国内での仕入れや経費に支払った消費税を「仕入税額控除」として差し引け、輸出売上が多い企業は支払った消費税より控除額が大きくなり、その差額が還付される。消費税の輸出還付制度により、2023年度は輸出大企業20社に約2.2兆円、トヨタ単体で約6,100億円の還付金が支払われた。輸出売上にゼロ税率を適用し、仕入れ時の消費税を還付する仕組みで、実質的な「輸出補助金」となっている。トランプ氏はこれを「関税より懲罰的」と批判し、報復関税を示唆。日本は関税調整で対応する可能性が高い。今後、日本はどうするか、消費税制度の見直しが求められる。

4 下請業法違反―仕入消費税部分を実質値引きさせるー賃金原資を削る

自動車産業のような、ピラミッド型の産業構造の場合、トヨタなどは、下請けの組み立て会社に、「もっと安くしろ、仕事をおろさないぞ」と圧力をかける。24年7月、トヨタの系列の組み立て会社が、部品製造会社に対して、余計な経費を負担させていたとして、下請法違反で公正取引委員会から勧告を受けた。日産自動車も、同じく下請け会社に支払う代金を一方的に値引きしていたということで、勧告を受けた。「乾いた雑巾を絞る」とはこのことである。下請け企業が賃金原資を削らなくを得なくなる。これでは中小企業はまともに賃上げができない。

 

5 円安による資源価格の上昇とトランプの「通貨安誘導」とうい攻撃

3月3日、トランプ氏は、「通貨を下げると我々に非常に不公平な不利益をもたらす」とし、円安を批判する発言を行った。円安は、日本が輸入する資源価格を高騰させ、日本国民の生活水準を低下させるとともに、自動車などの輸出価格をドル換算で低下させ、輸出しやすくする。トランプ氏はそのことを問題視している。円安によってガソリンや電気などのエネルギー価格をはじめ、工場などの原料も大幅に値上がりしている。儲かっているのは輸出大企業のみである。

円安が150~160円台/ドルまで進んだのは、日銀による国債の買い入れと、それによる円通貨の大量発行にある。結果、円の金利は低下し、資金は高金利のドルに流れるとともに、日銀の国債の買い入れによって、ゼロ金利の資金獲得により、財政負担を気にすることなく無原則な財政運営が行われるとともに、国民は物価高に苦しむこととなった。

 

6 壮大な無駄―日本もマスク氏のような「チェーンソー」が必要か

維新は、大失敗が確実視されている4月から始まる大阪万博の赤字穴埋めのため、たった1000億円の高校無償化で与党の2025年度予算案に賛成してしまった。万博にはインフラ整備費を含めると10兆円以上がかかっている。当初から与党にとっては一番安い買い物だとして妥協は想定されていた。

1996年度の消費税収(国税)は6.1兆円だったが2023年度には23.1兆円になった。20兆円税収が増えたが、そのうち17兆円が消費税の増大である。一般会計税収は2020年度が60.8兆円。2023年度は72.1兆円。この3年間で国税収入は11.3兆円増えた。消費税で509兆円もの金を国民から巻き上げた。その509兆円を一体何に使ったのか。同じ期間に法人の税負担は319兆円減った。同じ期間に個人の所得税・住民税負担は286兆円減った。消費税の税収のすべてを巨大企業と富裕層の減税に使った。減税規模は605兆円となった(植草一秀:2024.12.30)。

⾖腐「1丁」を買う感覚で1兆、2兆の⾎税が散財されている。ロケットを上げる補助⾦

には1兆円のお⾦がばら撒かれる。半導体の⼯場を作る補助⾦には3兆円のお⾦がばら撒かれる。コロナの病床確保の名⽬で国公⽴病院には6兆円ものお⾦がばら撒かれた。副作用が多々報告されるコロナワクチンに4.7兆円もの⾎税がばら撒かれた(植草一秀:2024.12.31)。1兆円のコロナ旅行支援は会計検査院に検証不能と指摘された(福井:2025.1.30)また、東電の福島第一原発の事故処理費には膨大が税金が投入されつづけている。これまでに13兆円が投入され、国の負担が5兆円、今後もさらに膨らむ。そこに全く役立たなかった凍土壁工事をはじめ原発関係企業が群がる。また、一般歳出に占める防衛費の割合は、3年で、8%から12%以上まで伸長し、今後もさらに増大の予想である。しかし、コメなどが不足し高騰している。食料がなければ安保もくそもない。巨大なブラックホールに膨大は資金が吸い込まれていく。トランプ新政権よりはしごを外されたが、既にバイデン政権の末期にはウクライナへの援助資金を日本は1.8兆円もを行っている。

経済的に行き詰った米国は、なりふりをかまってはいられない。トランプ2.0は各国の税制をはじめ、かなり政策を深く考えている。イーロン・マスク氏が政府効率化省を率いて、「チェーンソー」を振り回して、USAID閉鎖などブラックホールの枝を切り払おうとしている。また、米国の医療費はGDPの17%も占めるが、盲腸手術1日130万円・救急車を呼べば8万4千円ときわめて高額であり、無保険者も多い。ここ数年、乳幼児死亡率も上がっており、じわじわと社会的衰退が進みつつある。民間保険会社や医療機関の儲けとなっており、ロバート・ケネディ・Jr保健相は巨大な医療利権に切り込む構えである。かつての社会党時代のような安上がりな予算修正のみに汲々としていたのでは日本も沈没は免れない、省庁の廃止や補助金の廃止、消費税の廃止を含めて、相当の荒療治をしないと、ブラックホールの引力に太刀打ちできないであろう。

 

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