【投稿】「この国の政治状況はファシズムそのもの」 統一戦線論(37) 

【投稿】「この国の政治状況はファシズムそのもの」 統一戦線論(37) 

<<「国会が死にかけている」>>
 いよいよ安倍政権は9条改憲へなだれ込み、議席多数の暴力でなりふりかまわず、突っ走ろうとしている。しかしそうは思惑通りにはいかない事態が立ちはだかっている。
 国会会期末終盤の共謀罪強行採決のでたらめぶりは、安倍政権のうろたえぶりの反映でもある。
 「世界平和アピール七人委員会」(武者小路公秀、土山秀夫、大石芳野、小沼通二、池内了、池辺晋一郎、高村薫の各氏)が6/10、「国会が死にかけている」と題する緊急アピールを発表し、「かつてここまで国民と国会が軽んじられた時代があっただろうか。」として、現在の事態の本質を以下のように鋭く指摘している(全文)。

 戦後の日本社会を一変させる「共謀罪」法案が上程されている国会では、法案をほとんど理解できていない法務大臣が答弁を二転三転させ、まともな審議にならない。安倍首相も、もっぱら質問をはぐらかすばかりで、真摯に審議に向き合う姿勢はない。聞くに耐えない軽口と強弁と脱線がくりかえされるなかで野党の追及は空回りし、それもこれもすべて審議時間にカウントされて、最後は数に勝る与党が採決を強行する。これは、特定秘密保護法や安全保障関連法でも繰り返された光景である。
 いまや首相も国会議員も官僚も、国会での自身の発言の一言一句が記録されて公の歴史史料になることを歯牙にもかけない。政府も官庁も、都合の悪い資料は公文書であっても平気で破棄し、公開しても多くは黒塗りで、黒を白と言い、有るものを無いと言い、批判や異論を封じ、問題を追及するメディアを恫喝する。
 こんな民主主義国家がどこにあるだろうか。これでは「共謀罪」法案について国内だけでなく、国連関係者や国際ペンクラブから深刻な懸念が表明されるのも無理はない。そして、それらに対しても政府はヒステリックな反応をするだけである。
 しかも、国際組織犯罪防止条約の批准に「共謀罪」法が不可欠とする政府の主張は正しくない上に、そもそも同条約はテロ対策とは関係がない。政府は国会で、あえて不正確な説明をして国民を欺いているのである。
 政府と政権与党のこの現状は、もはや一般国民が許容できる範囲を超えている。安倍政権によって私物化されたこの国の政治状況はファシズムそのものであり、こんな政権が現行憲法の改変をもくろむのは、国民にとって悪夢以外の何ものでもない。
 「共謀罪」法案についての政府の説明が、まさしく嘘と不正確さで固められている事実を通して、この政権が「共謀罪」法で何をしようとしているのかが見えてくる。この政権はまさしく国会を殺し、自由と多様性を殺し、メディアを殺し、民主主義を殺そうとしているのである。

 「この国の政治状況はファシズムそのもの」と、真摯で率直かつ真剣に現状を憂慮して、安倍政権を弾劾しているこの緊急アピールは、安倍政権に疑問と怒りを持つさらに広範な人々の結集の軸となり、「安倍政治を許さない」反撃の足場となり得よう。

<<「驕るな!安倍」>>
 しかしこの「許容範囲を超えたこの国の政治状況」は、ここまで安倍政権が追い込まれていることの反映でもあることを見ておく必要があると言えよう。
 国会会期末最終盤、政府・与党は衆参で過半数どころか3分の2の議席を持っているにもかかわらず、会期延長もできずに、委員会審議や採決もすっ飛ばして、本会議での中間報告などという奇策に頼らざるを得なかったというのが実態である。
 連日繰り返される国会前や全国各地の安倍政権への抗議行動は、欧米各紙で報じる事態となった。森友・加計疑惑で露呈された「認めない」「調べない」「謝らない」実態が、次から次へと明らかになり、権力を私物化した側近政治が、目に余る事態、もはや制御しようのない泥沼化を呈しだしたのである。
 ここまでくればとても安倍政権を擁護しきれなくなってきた週刊誌各誌が政権批判に転じざるを得なくなった。新聞広告、電車のつり広告で際立ったのが、週刊文春6/15号トップ大見出し=「驕るな!安倍」である。小見出し「読者調査では『前川喚問』賛成86% 内閣支持率22%」、「現職文科幹部が本誌に激白『不満を持っている人は大勢いる』」。本文リードは「安倍政権は一線を越えつつある。安倍一強の驕りを撃つ!」と続く。さらに緊急特集・「読売『御用新聞』という汚名」の大見出し、「読売記者『出会い系記事はさすがにない』」「首相と『会食30回』でダントツ」の小見出し。
 証拠文書を「怪文書」扱いし、人格攻撃に御用新聞の汚名そのままの読売新聞を利用し、居直り続けてきた菅義偉官房長官も、記者会見でついに答弁不能に陥いる事態となった。急きょ、安倍政権は一転して文科省内の再調査に追い込まれ、「確認できなかった」はずの文書がたちまち「確認できた」のである。そして、6/16の参院予算委員会では菅官房長官が「文書の出所が明らかになり(怪文書というのは)現在の認識でない」とついに発言撤回に追い込まれた。
 とにかくこれ以上追い込まれたくはない。追い込まれれば、安倍政権は決定的なダメージを受ける。何としても早急に国会を閉会したい。その焦りが、強引な手法、野党の裏をかいて委員会での採決を行わず、問答無用、突然本会議を開いて採決強行、国会会期延長なしで閉会という、安倍政権のファシズム的本質・体質を露呈させたのである。
 自民党の二階俊博幹事長は6/16夜のBSフジの番組で、加計学園問題をめぐり、「大騒ぎして頂いたが、このことで国会審議が左右されることは、ばかばかしい話だ」と世論を愚弄し、政権の深刻な政治的行き詰まりに何の反省の弁さえもなく、「今日は終業式」「自民党もそう痛手を負うことなく、国会を終えることができた」と開き直った。政権の体質を最悪の形であらわにした、傲慢そのものの政権運営、安倍・菅・二階のファシスト・トリオの悪しき面目躍如、追い詰められた悪あがきである。

<<「くだらないとバカにするのではなく」>>
 この間の事態について、作家の辺見庸氏は、自身のブログで「アタマがとっくに退化した人民大衆とメディアは、アハアハ笑って現状をよろこび、内閣支持率をあげた。」(6月15日)、「このクニの知識層(あるとしたら、だが)はこれまで、安倍らを知的〈劣位〉のものとして、みくだしてこなかったか。ニッポンの悪の因を、安倍らの知的〈劣位〉に代表させ、象徴させてこなかっただろうか。たたかうのでなく、みくだし、みくびることで、怠惰でいじましい愉楽を感じてきたのではないか。安倍はおそらくそうしたまなざしを知っていた。共謀罪は、安倍らによるしっぺ返しである。からだをはって『努力』してきたのは、このクニの知ではなく、安倍ら反動権力のほうだったのだ。」(6月16日)、「このクニには民主主義など、むかしもいまも、ない。あったためしがない。ひとつ。政治という見世物の興行主たちは、想像をぜっするほどに、あくどい。ひとつ。いま、かがやいているのは、〈悪の知性〉と〈悪の想像力〉だけである。なんの意味もない。つくづく気色わるくなる世の中だ。」(6月17日)と述べている。まさに『絶望という抵抗』(辺見庸・佐高信・共著、2014/12、金曜日)の言であろう。
 しかし、安倍内閣の支持率は4カ月連続の減少となっている(時事通信6/16)。毎日新聞の6/17-18の全国世論調査では、安倍内閣の支持率は36%で、5月の前回調査から10ポイント下落。不支持率は44%で同9ポイント上昇、不支持率が支持率を上回ったのは2015年10月以来の事態となった。ついに逆転である。TBSラジオのミニ世論調査「あなたは安倍政権を支持しますか。しませんか」では、「支持する」7%に対し、「支持しない」は93%である(6/16)。事態は刻々と変化している。もちろん一方では、「最新の世論調査では20代の若者の安倍政権の支持率は68%にも及んでいる」(6/17 ビデオニュース・ドットコム)というデータもある。これは、就職と低賃金と非正規労働にあえぐ若い世代にとっては、自由競争原理主義の新自由主義と緊縮政策・増税政策に明確にノー!を突き付け、経済政策の根本的転換を明示したニューディール政策を明確に掲げられない、共産党をも含めた野党に愛想をつかしている、魅力を感じさせない、その反映とも言えよう。
 翻訳家の池田香代子氏は「あまりにもくだらないことが多くて、脱力してしまう時もあるのですが、それでは相手の思うツボです。くだらないとバカにするのではなく、一つ一つちゃんと考えていかねばなりません。あきらめる必要などまったくありません。」と語っている(しんぶん赤旗6/15号)。
 「みくだし、みくびる」のではなく、〈悪の知性〉と〈悪の想像力〉を徹底的に解体し、批判し、対案を対置できる、野党、共闘、統一戦線こそが要請されている。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.475 2017年6月24日

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