【投稿】外交戦略の頓挫と改憲宣言

【投稿】外交戦略の頓挫と改憲宣言
              ~安倍改憲策動阻止する共同行動を~

<対北朝鮮スケジュール闘争>
 共謀罪、森友、加計問題で揺れる国会審議を強引に進めるため、安倍は引き続き北朝鮮を利用し、朝鮮半島危機を演出している。政府は4月21日、都内で開かれた都道府県の危機管理担当者会議で、北朝鮮の弾道ミサイル落下を想定した避難訓練を実施するよう要請、危機と不安を煽った。
 こうしたなか北朝鮮は4月29日早朝、今年6回目の弾道ミサイル試射を行っが、発射数分後に爆発、北朝鮮国内に落下したと見られる。この際、東京メトロと東武鉄道は10分間わたり全線で運行を停止、JR西日本も日本海に面する一部路線で運転を中止した。
 これらの措置は、テレビのニュース速報を見ての対応で、本当にミサイルが日本を狙ったものだったら、到底間に合っていないお粗末なものだった。祝日の早朝で混乱はなかったが、鉄道各社としてみれば、官邸の意向を忖度したものであったと考えられる。一方で肝心の政府の対応は、安倍は外遊中、Jアラートも発しない平常運転という滑稽なものとなった。
 また、その航路が不明瞭だった「カール・ビンソン」打撃群は同日対馬海峡を通過し日本海に入った。5月1日防衛省は、この艦隊への物資補給のため、横須賀を出港する米海軍の貨物弾薬補給艦に対する防護任務を、初めて海上自衛隊に発令した。
 これに基づき「いずも」及び途中合流した護衛艦「さざなみ」が相模灘から奄美大島付近までの間防護活動を行ったが、現実的には北朝鮮の航空機、潜水艦が太平洋に進出してくるのは困難であり、必要性は稀薄なものであった。
 元々両艦の行動はシンガポールでの国際観艦式参加のための航海であり、たまたまスケジュールが合致したため実施された、朝鮮半島危機扇動と日米同盟強化の既成事実づくりの弥縫策であった。
 政府が本気なら、4月28日に呉から佐世保に転籍(移動)したヘリ空母「いせ」を大隅海峡から対馬海峡までの九州西岸海域で防護任務に当たらせただろう。五島列島や対馬近海は北朝鮮潜水艦の活動可能海域であり、より高い緊張感が演出できたと考えられる。「いせ」は「いずも」型には無い、高性能ソナーや対潜ミサイル、魚雷を装備する世界屈指の「潜水艦キラー」であり、こうした任務にはうってつけの艦である。
 しかし今回、補給艦の出港もしくは「いせ」の抜錨を数日遅らせたり、佐世保から反転させられなかったのは、防護作戦が直前に慌てて決められたもので、米軍との調整も不十分であったことを物語っている。
 今回の一連の騒動は、国民に緊急事態、緊張感を要求しながら、政府は既定の日程を優先させると言うスケジュール闘争でお茶を濁す、泥縄式の危機対応の本質が露呈したものとなった。
 またこの間安倍はトランプと頻繁に電話協議を行ったとされておいるが、その内容は非公表とされている。これは秘密保護のためなどと言われているが、トランプにそれを求めるのはジョークであろう。内容が公表できないのは中身なしのパフォーマンスと批判されても仕方がない。
 5月15日の参議院決算委員会で稲田は、陸上配備のイージスシステム「イージス・アショア」の導入に言及した。しかし現在日本のミサイル防衛(BMD)は海自が主坦であり、今後BMD対応イージス艦の増勢が計画されている。
 そこに「イージス艦より1千億は安い」と「イージス・アショア」を押し込めば、限られた予算の中での陸海空の押し付け合い、縄張り争いが惹起するだろう。
 朝鮮半島危機を口実に進められるこれら軍拡は、中国に対しても向けられるものである。北朝鮮対応を持ち出されれば批判しにくい点を見越しての策略と言え、今回の「いずも」の行動にしても、米艦防護から南シナ海長期巡航は一連の動きである。中国政府は米艦防護に公式の反応は示していないが、各報道機関はそれを注視しており、南シナ海での活動如何では中国政府も何らかの対応を行うだろう。

<動く世界と動かない安倍>
 安倍政権がこうした無定見な緊張激化策にうつつを抜かしている間に、国際情勢とりわけアジアの状況は大きく変化している。
 5月10日、韓国で文在寅大統領が誕生した。翌日には日韓電話協議が行われ、慰安婦問題に関し再交渉は触れられなかったものの、安倍は「韓国国民の大多数が情緒的に合意を受け入れられないでいる」と突き付けられた。翌12日には国連の「人権条約に基づく拷問禁止委員会」が、日韓合意は不十分だとして見直しを勧告した。日本政府は反発しているが、国際的認識を背景に韓国からの要求が強まる可能性がある。
 安倍政権は経済、軍事での日米同盟強化で中国封じ込めを外交の基本としてきたが、現在大きく揺らいでいる。5月11日、アメリカ産の牛肉、液化天然ガスなどの対中輸出拡大10項目で米中が合意したことが公表された。またCNNは5日国防総省が海軍からの「航行の自由作戦」承認要請を却下した、と伝えた。南シナ海での同作戦はオバマ政権下で4回実施されたが、トランプ政権下では行われていない。
 こうした状況の中14,15日北京で「一帯一路」国際会議が、アメリカを含む約130か国から1500人が参加して開かれた。またAIIB(アジアインフラ投資銀行)加盟国は77か国に拡大したことが明らかとなった。
 5月18日には中国貴陽市で南シナ海問題に関する中国、ASEANの高級事務レベル協議が行われたが、法的拘束力のある行動規範の具体化には踏み込めなかった。一方19日の中比協議では、仲裁裁判所の判決を棚上げし次官級会合の定期開催で合意した。
 南シナ海問題の一方の当事者であるベトナムも「一帯一路」会議に、国家主席が参加、タイも中国製兵器の購入を拡大させ、韓国も新体制の下、対中修復を図るなど、中国の影響力は一段と拡大している。
 これに加え今後、TPPの頓挫、米中貿易合意でアメリカからの通商圧力が強まることに恐怖した安倍政権は対外政策の修正を図ろうとしている。日本はトランプ当選直後はアメリカ抜きのTPPは考えられないとしていたが、方針を180度転換し、11か国での発行を目指すこととしたものの、5月21日の閣僚級会合では合意できず、結論は11月まで先延ばしとなった。
 日本が主導し67か国が加盟するADB(アジア開発銀行)は、5月4日横浜で開いた年次総会でAIIBとの協力、連携を表明せざるを得なくなった。
 「一帯一路」会議には二階幹事長を事実上の特使として派遣、習近平との会談で「日中関係の拡大」が確認された。来日した韓国の文喜相特使との会談で安倍は慰安婦合意の履行を強く求めなかった。
 中韓との連携も北朝鮮への対応が優先と解説されているが、形式的な「軍事的圧力」は奏功せず、北朝鮮はミサイル試射を継続し、技術力を高めている。一方米韓とも条件が整えば北朝鮮との首脳会談も辞さずとし、プーチンも金正恩体制の存続を前提とした解決に言及している。
 こうなれば、今後いかにして対話のテーブルを構築するかが課題となる。本来なら安倍は「関係各国首脳の中で平壌へ行ったのは私だけ」と胸を張って言えるのに沈黙を続けている。あちらこちらで拳を振り上げている間に、各国間の調整が進み、安倍政権は今後ますます、厳しい判断を迫られることになるだろう。

<「詳しくは読売新聞で」>
 「危機」をよそに決行した訪露でも思った成果は無く、外交面での八方ふさがりの鬱憤を晴らすかのように5月3日、安倍は改憲集会にビデオメッセージを寄せ、憲法を改正し2020年の施行を目指すことぶち上げた。
 このなかで安倍は、日本国憲法の9条1項2項を残した上で、自衛隊の保持を明文化した第3項を書き加えると言う、踏み込んだ提案を行った。
 安倍は8日の衆議院予算委員会で民進党の追及に「総理大臣としての発言ではなく、自民党総裁としての発言」と詭弁を呈し、「総裁としての考えは読売新聞に書いてあるので熟読してほしい」との開き直りを見せた。あまりの国会軽視に自民党の浜田予算委員長も、この場で一新聞社を持ち出すのは不適切と安倍を注意、当の読売新聞も橋本五郎が読売テレビの番組で苦言を呈さざるを得ないほどであった。
 自民党の2012改憲草案では9条を事実上廃棄し、国防軍の創設を明記するとしているが、今回の「安倍ビデオ」では総裁としての発言といいながら、それとはかけ離れたものとなっており、自民党内でオーソライズされたものではないのは明らかである。
 それを日頃は目の敵にし、意見を無視する「憲法学者」に自衛隊違憲論があるから、と屋上屋を重ねるような第3項を追加すると言うのはご都合主義も甚だしい。こうした矛盾を抱えたまま現行の自衛隊で妥協すると言うのは、自民党改憲草案の「放棄」であろう。
 ポスト安倍を伺う石破や岸田は「党内でこのような論議は一回もしていない。読売新聞をよく読んだが判らなかった」「9条を今すぐ改正することは考えていない」と否定的な見解を明らかにした。
 次期総裁争いに絡み安倍との差別化を図ろうとする点を差し引いても、こうした発言が党内から出ること自体、今回の提案が、いかに独断専行、それこそ「共謀」ではなく「単独犯」であったかを物語っている。
 さらに「安倍ビデオ」では、「共謀罪」と同様に2020の東京オリンピック、パラリンピックを引合いに「日本が新しく生まれ変わる」ため改憲が必要と、露骨なスポーツの政治利用を臆べもなく行った。また改憲項目に、「教育の無償化」という賛同を得やすい内容を掲げているのは、巷に横行する「抱き合わせ販売」にほかならない。
 自民党改憲草案は「直球」であるが、今回の安倍提案は「変化球」「癖球」であり、これにより野党、平和勢力の切り崩し~「改憲総選挙」が狙われている。安倍政権は衆議院で「共謀罪」採決を強行した。安倍の真の狙いは憲法の民主的条項の空洞化であること暴露し、安倍改憲を阻止する取り組みが求められている。(大阪O)

【出典】 アサート No.474 2017年5月27日

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