【日々雑感】カジノ法成立
12月某日
IR(総合型リゾート、カジノ)法(特定複合観光施設区域の整備に関する法律)案が国会で可決成立。わずかな審議時間で強行採決。ギャンブル依存症やマネーロンダリング、治安などへの対応は中身が全く無いまま。公明党は自主投票、党首が反対票。国の各省庁も、面倒なことは引き受けたくない、と及び腰。マスコミも最近になく各社揃って批判。強行理由は、またしても橋下・松井の日本維新の会と安倍、菅ライン。IRをセットにして誘致したい大阪万博のタイムリミットだから。憲法改正などを控えて、安倍政権の諸悪法に無条件で賛成票を投じてきた日本維新の会への見返りとのこと。
と、ここまでは、マスコミも及び腰ながら報じている。だが、肝心なところが議論されないように誘導されている。
IR報道は、経済効果が多大という前提に立ち、ギャンブル依存症など副作用にどう対処するのか、という論理で構成されている。しかし、IR問題の本質は経済効果の点にある。本当に経済効果があるのか。効果ありとして、“金”は誰から誰にどう流れるのか。蓮舫民進党代表の、“対策・整備の資金は結局、庶民の掛け金でしかない”旨の国会質問は、経済刺激を知らないバカだと一蹴された。
IRは“国際競争力の高い魅力ある観光地”として、設置区域の申請は地方公共団体、全国に最終的に10か所程度の設立を予定。売上は1か所数千億から1兆円規模、波及効果は全国で2兆円を超すと宣伝されている。松井知事は1,000万人の海外観光客増を吹聴する。
だが、旨い話は疑え。レクリエーション・展示・宿泊の総合施設とはいえ、売上の約8割を施設面積の3~5%のカジノが担う施設。寺銭狙いの豪華宿泊賭博場でしかない。誘致を検討したある自治体の幹部からかつて、「市財政で見る限り、固定資産税や住民税(所得)などの歳入増加と、治安やギャンブル依存症などで必要とされる歳出増を比較すると、歳出の方が多くなる可能性は高い。(市財政の悪化)」と聞いた。もちろん、周辺整備は自治体の負担。このような検討結果は推進派議員への配慮により表には出されない。納付金や入場料が設置自治体に収められるとしても、ギャンブル依存自治体となるわけで、教育などへの影響その他環境悪化は避けられないだろう。
売上も、取らぬ狸の皮算用に注意だ。後発IRに海外の富豪が押し寄せるだろうか。アジア各地でカジノは不振だ。かつて、日本では、地方競馬の不振、総合保養地整備法の大失敗の過去がある。ディズニーやUSJとも同じではない。周辺商店街は来場者に期待するというが、豪華カジノで遊ぶ人が周辺地で散財するだろうか。やけ酒はあるかもしれないが。経済効果の試算には常に試算者の思惑が入っている。
賭博とは胴元だけが確実に儲かるシステムだ。土建業や機器などの企業も建設することで儲かる。IR運営のノウハウを日本企業は持たない。一般日本人市民(上位1%は海外に行く)の富がアメリカ資本の胴元に吸い上げられ、自治体が赤字を出して警備する。市民は低下する行政サービスの下でギャンブル依存症に怯える。もし閑古鳥が鳴けば壮大な廃墟がレガシーとして残るだけ。金持ちが儲けるだけ儲けてそれでお仕舞い。毎度の社会的格差拡大の再生産の構図が見えている。
こうした疑問に一切答えない、検討を拒否するのが、日本維新の会を先頭とする推進派だ。 (元)
【出典】 アサート No.469 2016年12月24日