【投稿】安倍長期独裁政権を阻止しよう
―外患あれど内憂なしの状況打破を―
<「早回り・空回り」の安倍外遊>
8月21日、安倍はリオデジャネイロオリンピック閉会式で、スパーマリオに扮し土管の中から現れ、この奇妙奇天烈な演出に世界は驚いた。
このブラジル訪問を皮切りに矢継ぎ早に安倍は外遊を重ねた。8月25~28日にはケニア・ナイロビでTICAD6(第6回アフリカ開発会議)等に参加、9月2,3日には、ウラジオストックで東方経済フォーラム出席と日露首脳会談をおこなった。いったん帰国した安倍は息も継がさない形で、杭州に飛びG20参加および日中首脳会談をこなした。
その足で6~8日には、ラオス・ビエンチャンでASEAN関連の諸会議に顔を出し、日韓首脳会談を行った。さらに9月20日からは国連総会出席とキューバ訪問と安倍の旅は留まるところを知らないようである。しかし、今回の一連の外遊も移動距離と費やした経費に比べて、12月のプーチン訪日決定以外は、さしたる成果はなかったといても過言ではない。
これまで5年に一度、日本にアフリカ各国首脳を呼び寄せる形だったTICADは、今回初めてアフリカの地で開催された。この間中国のアフリカ地域への進出は著しく、安倍政権は挽回に躍起になっているのである。
ナイロビで安倍は、「自由で開かれたインド太平洋戦略」として、アフリカ諸国へ3年で300億ドルの投資を約束、中国を意識し、自由と法の支配に基づく発展のため、「質の高い援助協力」を表明した。
これに対して参加各国首脳からは歓迎の声が上がった。ケニヤの大統領は「会議は大成功」とし「日本は各国の独立以来のパートナー」と最大限持ち上げたものの、昨年の中国とのフォーラムで南アフリカの大統領は「中国は世界の平和と発展に寄与している」と賛辞を送っている。
アフリカ各国にしてみれば、日本であれ中国であれ競うようにどんどん投資してくれるのは願ってもないことである。
むしろ実際には、開発独裁を基本とするいくつかの政権にとっては「法」「自由」「民主主義」という「先進国の価値観」をちらつかせない中国の援助のほうがありがたいのが本音であり、さらに支援と安全保障=対中包囲網をリンクさせようとする日本は迷惑であろう。
さらに先月号で南スーダン内戦での中国軍の損害を指摘したように、人道支援分野においても中国の存在感は高まっている。日本も第2次安倍政権発足直後の2013年1月、アルジェリアで発生した合弁プラント襲撃テロにより10名が犠牲となったが、国連平和維持活動と企業活動では、現地での意味合いが違ってくる。
こうした状況に焦りを禁じ得ない安倍政権は、「血を流す貢献」に備えるため、11月からの南スーダン派遣予定部隊へ「駆け付け警護」任務を付与することを目論んでいる。
南スーダンでは7、8月の激しい戦闘以降も緊張状況が続いてる。9月に入ってからも首都ジュバ一帯を支配するキール大統領派は、「国連は反政府勢力に手を貸している」「国連は我々を監視している」(スーダントリビューン電子版)と国連敵視姿勢を露わにしており、TICADの華やいだ雰囲気とは全くの別世界となっている。
<司令官は「キャンセル姫」>
このような現地情勢での「国連側」である自衛隊の任務拡大は、不測の事態を招く危険性が高い。稲田防衛大臣は「南スーダンは安全」と言っておきながら、ジプチ慰問訪問でお茶を濁した(先月号既報)。
これには各方面から批判があったのだろう。稲田のアメリカ、南スーダン歴訪が発表され、9月17日にジュバの自衛隊派遣部隊を視察することとなった。
ところが訪米中の15日、突然体調不良により南スーダン訪問がキャンセルされた。報道等によると、風土病の予防接種の副作用でアレルギー(蕁麻疹)症状が出たためと言われているが、同日のカーター国防長官との会談には元気な姿で臨み、その後はF35戦闘機に笑顔で乗り込んでいる。過日竹島の領有権問題で、鬱陵島に乗り込もうとした勢いがあればどこへでも行けただろう。
稲田は訪米前の10,11日に予定されていた就任後初の沖縄訪問も、北朝鮮の核実験への対応を理由にキャンセルしている(実際は12日に出された、高江ヘリパッド建設への自衛隊ヘリ投入命令が要因だろう)が、当初は北朝鮮のミサイル問題を論議する14日の参議院外交防衛委員会を欠席して訪米する日程を組んでいた。
稲田は自民党政調会長時の昨年9月、オバマ政権に戦争法案の説明をするため訪米予定と報じられたが、これは立ち消えになった経緯があり、なんとしてもアメリカに行きたかったのだろう。
訪米日程を短縮して出席した同委員会では、民進党から危機感の無さを指摘され、「緊張感を持って職務に邁進したい」と答えざるを得なかった。さらに議員バッジをつけずに出席したことに対し、味方であるはずの「平成だまれ将軍」佐藤正久委員長から「バッジの重みを自覚せよ」と厳しく注意を受けた。本当に蕁麻疹が出たなら精神的ストレスも一因であろう。
安倍は稲田を後継者の一人として経験を積ませようとしていると言われているが、定例の防衛大臣記者会見でも頓珍漢な問答が散見され、お姫様抱っこを続けるようでは先行きは大いに不安と言わざるを得ない。佐藤のいら立ちもイラク派遣部隊長の経験者からすれば、ジプチでも国会でも「最前線」に何をチャラチャラと来ているのか、という思いもあるのだろう。
<緩和より激化を優先>
不安視される防衛大臣のもと安倍政権は軍拡を進めている。8月31日、防衛省は来年度予算として、5兆1685億円の概算要求を決定した。これは今年度当初予算に比べ2,3%の増となり過去最高となっている。
その内容は新型潜水艦の建造に加え、道弾迎撃用ミサイルSM3(海上)PAC3(陸上)の改良型の取得、南西諸島に配備するための地対空、地対艦ミサイル、空母など大型艦船を攻撃するための空対艦ミサイルの取得、開発、新型水陸両用車両の開発など、対中国色が色濃くにじみ出たものとなっている。
実動訓練も活発化している。南スーダンに派遣予定の部隊では「駆け付け警護」「宿営地の共同防護」に係わる訓練が進められている。当該の青森5連隊は、日露戦争前の八甲田雪中行軍に続き不運な役割が回ってきたのではないか。
9月14日には、グアムから飛来した米軍のB-1爆撃機と空自のF-2戦闘機が編隊を組む形で共同訓練が実施された。これは実戦の場合、空爆に向かう米軍機の護衛ということであり、集団的自衛権発動を想定したより踏み込んだ訓練であると言えよう。
こうした動きは中国を一層刺激している。この間の北朝鮮の弾道ミサイル乱発や核実験強行に関しては、尖閣や南シナ海の領有権よりも喫緊の課題であるはずだが、安倍はG20など様々な国際会議で執拗に中国に対する牽制を続けた。
そのような険悪な空気の中開かれ、またしても笑顔なし、国旗なしとなった日中首脳会では、ようやく偶発的な交戦を回避するための「空海連絡メカニズム」確立に向けての議論を再開することが確認された。
これを受けた実務者会議「日中高級事務レベル海洋協議」が9月14,15日広島市で開かれ、年内にも防衛当局者の間で協議を開始することとなった。偶発的衝突の防止は国際的な課題となっている。
9月5日杭州でオバマとプーチンが30センチの距離で睨みあったが、7日には黒海上空で米露両軍機が3メートルにまで、異常接近したことが明らかになった。6月にはシリア沖で米露艦船が約100メートルまで接近している。
アジアに於いては米中の衝突よりも、日中の衝突のほうが現実味を帯びている。アメリカは南シナ海で「航行の自由作戦」を行っているが、米露ほどの緊張関係にはない。
<対中包囲網の崩壊と日本の孤立>
一連の外遊で対中包囲網構築に腐心する安倍であるが、その姿は賽の河原での石積みのごとくである。G20では日米中で南シナ海問題について個々の論議はされたものの、全体的には世界経済のリスク回避と成長加速の為に、あらゆる政策を総動員することが合意された。続いて開かれたASEAN首脳会議や東アジアサミットでも、南シナ海に関する仲裁裁判所の判決などは、全体の議論にはならならず、中国ペースで会議は進んだ。
それどころか一連の会議の中で、対中包囲網の「要」であるフィリピンの離脱が明確になった。ドゥテルテ大統領はASEANの場に南シナ海判決は持ち出さないと明言、帰国してからも、ミンダナオ島の米軍部隊の退去を要求、さらには南シナ海でのアメリカとの共同哨戒活動への不参加を表明した。背景には、アメリカのドゥテルテへの批判もあると考えられるが、就任以前から表明していた対中対話路線が加速するものと思われる。ドゥテルテは「フィリピンのトランプ」と渾名されるが、チャベスになるかも知れない。
オバマが会談をキャンセルする中、9月6日におこなわれた日比首脳会談で安倍は、先の小型巡視船10隻に続き大型巡視船2隻の追加供与を表明した。小型船は国内治安対策であろうが、航洋機能のある大型船は台湾に向けられる可能性も指摘されている。やらずぼったくり以下になればどうするのか。
安倍政権はロシアに対しては、担当大臣を置いて経済協力を進めるという異例の態勢で臨み、中露の接近に楔を打ち込もうとしている。しかし9月13日から中露海軍合同演習「海洋協同2016」が広東省近海の南シナ海で開始された。
これは毎年恒例の演習であるが総仕上げとして、昨年から合同の上陸、空挺降下訓練が行われる実戦的なものとなった。両国とも他にも様々な国と合同演習を実施しているが、上陸演習まで行うのは中露間だけである。
もっともロシアが牽制している主要な相手はアメリカであるが、余計に中露離反を目論むことは困難であろう。第2次安倍政権発足以降、歴史認識における日本包囲網が形成されたが、今後それが実体化する可能性もある。
本来なら、危機的な国際情勢の中枕を高くして寝られるはずもない安倍が、異例の長期夏期休暇と外遊を重ねても安穏としていられるのは、野党、民主勢力の不甲斐なさに起因するものである。安倍政権はこの間、民進党の代表選をまったく気にかけた形跡がなく、蓮舫選出後も余裕を見せている。
総選挙自民勝利から総裁任期延長、長期独裁政権樹立~日本の国際的孤立という最悪の道を阻止しなければならない。(大阪O)
【出典】 アサート No.466 2016年9月24日