【投稿】熊本地震・原発固執政権めぐって 統一戦線論(23)

【投稿】熊本地震・原発固執政権めぐって 統一戦線論(23)

<<大地の警告>>
 熊本県、大分県で観測史上4度目という震度7の強い地震が拡大している。何の前触れもなく、突如襲い掛かる大地の警告である。最大震度6強の強い余震が次々と連鎖、同時多発的に発生し、いまだ被害が拡大途上である。地震活動は、九州の広い範囲から、4月14日夜の「前震」に続いて、16日未明に熊本の「本震」(M7.3、震度6強)では、これと連動して関西地域でも地震が観測され、大阪南部でも震度3が記録されている。いったんおさまったかに見えても、誰も今後の事態を予測できない。
 明らかにこの事態が示していることは、日本列島を関東から中部、関西、四国、九州をまで貫く巨大な活断層である中央構造線と密接にかかわった巨大地震が動き出していることを示している。この中央構造線上に愛媛県の伊方原発があり、佐賀県の玄海原発が位置し、静岡県の浜岡原発がある。鹿児島県の川内原発は、この中央構造線の延長線上であり、しかもこれと並行し、活性化が心配されている南海トラフ地震のプレートの直近に位置している。日本列島は列島全体が地震の巣の上に位置しているともいえ、日本のすべての原発は、大地の警告を無視して、その地震の巣の上に立地する危険極まりない存在である。5年前の福島原発事故はそのことをまざまざと示したばかりであった。
 今回の地震発生は、4/6、福岡高裁宮崎支部が、川内原発1・2号機の運転差し止め仮処分の抗告を棄却してわずか8日後のことである。西川裁判長は、耐震設計の目安となる基準地震動(可能性がある最大の揺れ)を上回る地震のリスクはゼロではないとしつつも「新基準は耐震安全性確保の観点から極めて高度の合理性を有する」と認定。耐震設計についても「過小評価とは言えない」、「避難計画がないわけではない」、事故の危険性は「社会通念上無視し得る程度小さい」などと、まるで福島の原発事故がなかったかのような、一時代前の「原発安全神話」を「社会通念」として、原告の主張をを切り捨てたのであった。この「川内原発運転差止仮処分の却下」は、大地の警告を無視した完全に間違った決定であることを自然が立証してしまったのである。今回の地震発生で真っ先に気が動転したのは、九州電力経営陣とこの裁判長であろう。

<<惨事便乗型の改憲姿勢>>
 その川内原発は、この福岡高裁宮崎支部の運転差し止め仮処分の抗告棄却によって、現在、全国で唯一再稼動している原発である。同原発は、震度4を記録し、余震が拡大しているさなかにあっても平然と運転を継続し、原子力規制委員会も政府もこれを追認し、むしろ再稼動継続路線に固執している。
 川内原発の「震源を特定せず策定する地震動」では、震源距離10km圏内でマグニチュード6.8を想定しているが、最大加速度は620ガルでしかない。ところが今回の地震では、益城町の三成分合成で1580ガル、上下動1399ガルという巨大な地震動が記録されている。1995年の阪神大震災の891ガルをさえ大きく上回っている。しかも、余震が熊本から南西方向にも拡大しており、かつて川内沖100 km を震源とする震度7の地震が記録されていることからすれば、川内原発は、すぐさま停止させるべきなのである。
 ところが4/16、原子力規制庁は、稼働中の川内原発と、運転停止中の玄海原発、伊方原発に異常はない、と発表。丸川珠代環境相兼原子力防災担当相は15日の閣議後の記者会見で「原子力規制委員会から九州電力川内原発と玄海原発の施設に影響はないと報告を受けている。これからも余震が心配される。必要な時にすぐ態勢が組めるよう備えたい」と述べ、運転中の川内原発について、観測された地震動が自動停止させる基準値を下回っているとして「現在のところ、原子力規制委員会は停止させる必要はないと判断している」と、停止させる考えなどさらさらない態度である。原発震災事故は、それに直面してから、「必要な時にすぐ態勢が組めるよう備えたい」といった甘いものではない。「必要な時」には、すでに手遅れなのである。運転停止させることが先ず何よりも必要であるが、たとえ運転停止させても、放射能災害拡大の危険性に満ち満ちていることをまったく認識していない甘さである。群発地震のさ中にあっても、なぜひとまず止めようとしないのか? その最低限の常識さえ示しえない安倍内閣の傲慢さにはあきれ返るばかりである。
 地震が熊本県から大分県に拡大し、豊後水道を挟んだ四国電力伊方原発も危険極まりない存在である。その伊方原発について、愛媛県と四国電力は4/16未明、県庁で記者会見を開き、伊方1~3号機に異常はないと説明。四国電担当者は、再稼働前の最終的な手続きである3号機の使用前検査に「影響は出ないと思う」と強調、七月下旬の再稼働を目指す姿勢を変えていないし、安倍政権はこの再稼動をも後押ししている。
 4/17付け東京新聞は、「『川内』運転 住民ら不安 政府、地震域拡大でも静観」と題する記事で、川内原発建設反対連絡協議会の鳥原良子会長は「川内原発周辺にも活断層があり、いつ南九州で大きな地震があるか分からない。とにかく運転を止めてもらわなければ」と語気を強めた。松山市の市民団体「伊方原発をとめる会」の和田宰事務局次長は「再稼働の方針を考え直してもらいたい」と訴えた、と報じている。
 菅官房長官は4/16、こうした不安や訴えをまるで考慮することもなく、「原発、現状において停止する理由ない」、「津波もなく(震源地から)離れており、止める考えはない」と平然たる態度である。菅官房長官は、さらにこの地震に乗じて、緊急事態条項を憲法改正で新設することについて「極めて重く大切な課題だ」と、まさに惨事便乗型の改憲姿勢を露骨に示すまでにいたっている。第二の原発震災にまでつながりかねない、被災者や多くの人々のつのる不安を無視した、安倍政権の悪代官そのものの姿勢である。安倍首相、菅官房長官、丸川珠代・原子力防災担当相は、あくまでも原発再稼動路線に固執する、事実上「原子力村・原発マフィア」の代理人にしか過ぎない存在なのである。

<<民進党は川内原発の稼働停止の主張を>>
 地震が拡大するさなかの4/15、民進党、共産党、社民党、生活の党の4野党の書記局長・幹事長の協議がもたれ、熊本県での地震被害を受け、犠牲者を悼むとともに「党派を超えて人命第一で救援に全力をあげよう」「野党が互いにできることを一緒にやっていきたい」と、党派を超えた人命第一の救援に全力をあげることが確認された。
 問題は、さらに進んで、野党共闘の柱に、原発再稼動反対を明確に位置づけることが必要不可欠な事態の進展である。今回の地震の重大な警告を生かさなければ、野党共闘は真に力強いもの、人々の切実な不安と訴えに応える力強いものとはなりえないであろう。安倍内閣が、この地震のさなかにおいてもなお原発再稼動路線に固執し続けているからこそ、この路線と対決するさらにより幅広い統一戦線の形成が可能であり、喫緊に要請されているといえよう。
 4/16、フォトジャーナリストの広河隆一さん、作家の落合恵子さん、沢地久枝さん、広瀬隆さん、ジャーナリストの鎌田慧さんと、若者のグループSEALDs(シールズ)の山田和花(のどか)さんら六人が、「私たち「川内原発の即時停止を求める有志の会」は、九州全域を巨大地震が襲っている状況の中で。川内原発を停止させる措置を取らず、原発を運転し続ける九州電力に対して、川内原発の即時停止を要請します。」「異常があってからでは遅いということは、東京電力福島第一原発事故の経験から、誰の目にも明らかです。今とるべき唯一のことは、すぐに原発を停止し、万が一の事態に備えることです。九州では今、大震災に襲われ、多くの人が被災しているなか、懸命の救援が続いています。そのような、ただでさえ大変な不安な状況の中で、人々は、次の大地震がもしかして川内原発を襲うのではないかという恐怖にさいなまれています。私たちは九州電力に、原発の稼働を即時中止するよう要請します。」とする川内原発の即時停止を求める要請文を、九電に送ったと明らかにしている。
 民進党の一部には、原発に対する態度を曖昧にしたままやり過ごそうとする勢力が存在するが、熊本震災の警告はもはやそのようなあいまいさや、対応と感度の鈍さを許さない事態の進展である。
 すでに、3/2、民主党宮城県連と共産党宮城県委員会は定数1となった今夏の参議院宮城選挙区の候補者を民主党現職の桜井充氏に一本化することで合意し、以下のような6項目の「政策協定書」を交わしている。
 (1)立憲主義に基づき、憲法違反の安保関連法廃止と集団的自衛権行使容認の7・1閣議決定の撤回を目指す。
 (2)アベノミクスによる国民生活の破壊を許さず、広がった格差を是正する。
 (3)原発に依存しない社会の早期実現、再生可能エネルギーの促進を図る。
 (4)不公平税制の抜本是正を進める。
 (5)民意を踏みにじって進められる米軍辺野古新基地建設に反対する。
 (6)安倍政権の打倒を目指す。
 これは、今回の参院選をめぐる野党共闘で、もっとも進んだ包括的で具体的な政策合意である。民進党でこれが可能であるならば、この政策合意をさらに全国化し、全野党の合意に拡大することが要請されている。とりわけ(3)の脱原発路線を、直面する事態に照応して、原発再稼動ゼロを明示し、民進党においては、最低限、より具体的に川内原発の稼働停止と玄海原発、伊方原発の再稼動反対の主張を明確にすること、それを全野党共有の政策合意とすることが不可欠と言えよう。それは可能であり、そのためのさらなる努力が要請されている。野党共闘がこれに応えられなければ、有権者の圧倒的な支持を獲得することはできないであろう。
(生駒 敬) 

【出典】 アサート No.461 2016年4月23日

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