【投稿】北海道・京都ダブル補選をめぐって 統一戦線論(22)
<<「市民運動で安倍政権を包囲すること」>>
安倍政権の強引な安全保障関連法の成立から半年となった3/18、同関連法に反対する集会、デモが全国各地で展開された。一昨年来の運動がより広範にかつ、裾野を広げている証左ともいえよう。
「戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会」が主催した集会では、高校生団体「T‐ns SOWL」、安保関連法に反対するママの会、視覚障害者、日本弁護士連合会や日本キリスト教団の代表、日本医師会の前会長らのスピーチは、会場からの大きな連帯と歓声で迎えられた。開会あいさつに立った同実行委メンバーで「平和フォーラム」代表の福山真劫さんは、今年の中心的な取り組みは「市民運動で安倍政権を包囲すること、衆参の選挙で野党を勝利させること」「参院選で改憲勢力による3分の2の議席確保を阻止する枠組みができた。あとは我々がどう闘うかだ」だと強調、「たたかう野党を全力で支えよう」と訴えた。
同集会に参加した民主党の枝野幸男幹事長は「あの採決とはいえないような採決から半年。国民はどうせ忘れるだろうとタカをくくっていた人たちがいます。忘れているどころではない! ますます『おかしいぞ』という声は広がっている。そう確信をしています」と述べ、「『幅広い連携を』と声をあげてきていただいた皆さんの声に押されて、しっかりと、それぞれの党の立場の違い、意見の違いを乗りこえて、『安倍晋三政権の暴走を許さない』『立憲主義、民主主義、国民生活の危機を乗りこえる』、この点でできうる限りの協力をするというところまで持ってくることができました」「皆さんからは『まだまだ甘い』とか『もっと急げ』とか、そういうご意見もあるかと思います。しかし、民主主義を守るための戦いです。お互いの違いを、時間をかけてもじっくりと話し合ってすり合わせて、そして結論を出していくのが民主主義です。そのかわり、最大の戦いではある選挙には、必ず間に合わせます。4月の補欠選挙を2つとも取り、ダブルなんか打てなくさせます! そして夏の参院選で与党やその周辺にいる勢力を一人でも少なくするために、最大限の成果をあげるために、私たちは全力をあげてまいります」と発言している。まだまだ切迫感や迫力不足で甘いともいえるが、やっとここまで発言できたか、という意味で、その意義は大きいといえよう。
同じく、共産党の小池晃副委員長は、「野党の選挙協力を談合だ野合だなどと言っている。とんでもない! 自民党には言われたくありません。『立憲主義を取り戻す』。これ以上の大義はないではありませんか」「民主党、維新の党、社民党、生活の党と固く力をあわせて、自民・公明と補完勢力を国会で少数に追い込むために、市民のみなさんと心一つにたたかいぬく」と決意表明している。本当にセクト主義を克服できるかどうかが、共産党にも問われている。
<<「『民主党・共産党』対『自民党・公明党』の対決になる」>>
4月12日告示・24日投開票の衆院北海道5区と京都3区の両補選は、その意味で参院選の帰趨にも影響する重要な試金石である。
枝野氏は「4月の補欠選挙を2つとも取り、ダブル(選挙)なんか打てなくさせる」と述べたが、対する安倍政権も必死である。
安倍自民党総裁は3/12のの党会合で「衆院北海道5区補欠選挙は極めて重要な選挙になる」と都道府県連の幹事長ら幹部に対して認識の共有を求め、「選挙はどの選挙も重要だが、特に北海道5区は重要だ」と強調、「北海道5区の補欠選挙、夏の参院選は今後の行き先を占うものになる。今年は選挙の年、勝負の年になる」と緊張感を持って対応するよう求めた。特に衆院北海道5区の補欠選挙が重要とする理由について、「日本共産党が候補者を下ろし、民主党と協力して『野党統一候補』を出し、われわれの候補に挑んできているからだ」と強調、安倍総裁は「夏の参院選挙では多くの選挙区で共産党は候補者を下ろし、民主党と協力をして、戦いを挑んでくる。まさに『民主党・共産党』対『自民党・公明党の連立政権』、自公対民共の対決になる」と訴えた。安倍首相自身が主導し、地域政党「新党大地」を寝返らせ、民主党を離れさせた鈴木貴子議員を抱き込んだのもその布石であった。鈴木貴子議員は「共産党とくみするような民主党に仲間入りをしたつもりはない」と開き直っている。
すでに昨年7月に擁立を決めていた自民党の候補・和田義明氏と対決するのは、野党統一候補で無所属として出馬する池田真紀さんである。池田さんは昨年12月、上田文雄前札幌市長らが呼び掛け人の市民団体「戦争させない北海道をつくる市民の会」の出馬要請を受諾しての立候補である。池田さんは、2014年衆院選で北海道2区から民主党推薦として出馬、今回は5区にくら替えし、無所属の野党統一候補として出馬する。だが、共産党が公認済みの橋本美香氏を取り下げ、野党統一候補になるまでに2カ月もかかってしまっている。共産党北海道委員会と民主党北海道が候補者一本化に合意し、共産党が独自候補を取り下げ、維新、社民も推薦、新人の池田真紀さんを統一候補としたのは、今年の2/19であった。最終的に上田氏らが接着剤の役割を果たし、民主、共産、維新、社民、生活の野党5党が推薦、市民ネットワーク北海道が支持を決め、野党勢力の結集がようやくのことで実現したのである。
しかし 池田さんには主婦や学生の勝手連が次々にできている。市民グループ「怒れるイケマキ応援隊イケマッキーズ」=「イケマッキーズは30~60代の女性がメンバー。池田氏の街宣を追う応援ツアーやトークイベントなどを企画し、SNSで拡散する。メンバーは「私たちは安倍政権がやばいと集まった仲間。政治に関わっていない市民に支持を広げたい」と無党派層への浸透を狙う。フェイスブック など会員制 交流サイト ( SNS )で配信。瞬時に拡散し、 安全保障関連法 廃止を旗印に野党と市民団体が共闘する新しい選挙を印象づけた。」(2016/3/5北海道新聞)
この北海道五区は、前回2014年の衆院選小選挙区候補者別得票数は自民131,394票に対し民主・共産あわせて126,498票。その差は約5,000票。十分に逆転可能な差である。「10%差と言われてたけど今2%差ぐらいに迫ってる」状況である。
<<「水面下の支援>>
京都3区の補選は北海道5区とは相当に様相が異なる。育休宣言後の不倫が発覚した自民・宮崎謙介前衆院議員の辞職に伴うもので、自民は候補擁立を断念。連立を組む公明党も「謹慎」。自民支持を当て込んで、おおさか維新の会が新顔の森夏枝氏、日本のこころを大切にする党が新顔の小野由紀子氏の両氏を擁立。まだ流動的ではあるが、自民を補完する「保守分裂」である。
これに対して、前回衆院選の同3区で宮崎氏に敗れ、比例近畿ブロックで復活当選した民主の泉健太衆院議員が、3/27に合流する民進党公認で選挙に臨む。3/13の民主党の京都府連大会で泉氏は「いずれの選挙でも共産とは共闘しない」とする府連の活動方針を強調。だが同時に、泉氏は直接の連携は求めていないが、「政権の政策に疑問を持つ人には党を超えて結集してもらいたい」と述べ、水面下の支援には期待を示す。
「水面下の支援」を期待される共産党は、3/14、自主投票を発表する。同党の山下書記局長は、京都3区補選をめぐる状況として、(1)5野党党首合意で安保法制=戦争法廃止、集団的自衛権行使容認の閣議決定撤回を確認した民主党の公認で現職が立候補を予定している。(2)中央レベルでも、京都府レベルでも、民主党からわが党への協力の要請がない。(3)5党首合意で確認した現与党とその補完勢力を少数に追い込む必要のある選挙となること―を説明。「これらを踏まえ総合的、自主的に判断した。補選という特別な条件のもとでの判断だ」と述べている。同日、共産党京都府委員会も声明を発表:民主党の泉健太氏が「京都では共産党と連携することにならない」と表明、3/13の民主党京都府連大会で「拒否感の強い共産党とは一線を画す」として「いずれの選挙でも共闘しない」と明記した活動方針を採択した。泉氏は「安保法制廃止・閣議決定撤回」を今のところ、公約として明示的に述べていない。現状では、選挙協力の見通しは立っていない。同時に泉氏は「安保法制廃止・閣議決定撤回」を党首間で合意した民主党の公認候補である。安倍暴走政権の補完勢力であるおおさか維新なども候補者を擁立するもとで、5野党合意を誠実かつ真剣に実現する立場から「自主投票」とすることを決めた。
この苦渋の判断の背景には、直近、2/7に投開票された京都市長選の深刻な事態がある。自民、公明、民主、社民が相乗りした現職の門川大作市長が3選を果たし、「憲法市政みらいネット」の候補で共産推薦の本田久美子氏がダブルスコアで敗れ、、門川陣営が「今回の市長選では、投票率が35・68%と低迷したにもかかわらず、門川氏が圧勝。ここまで勝つとは思ってなかった。勝ちすぎだ」と漏らすほどであった(門川=254,545、本田=129,119)。「初の女性憲法市長」の誕生を訴えたが、ここ半世紀の共産党単独推薦候補で最も少ない得票数で、前回の共産推薦候補より6万票以上減らす結果となってしまったのである。共産党京都府委員会の渡辺和俊委員長は「準備が足りず、共産党としての力が足りなかった」「投票率が低く、赤旗の読者も減少している。若い人への働きかけが必要だ」と反省。2/7,8付赤旗は「健闘も及ばず」、安保法制に反対する学者の会、ママの会@京都、シールズ関西などの応援を得て、「市民の共同が広がりました」と報じたが、なぜ「市民の共同が広がった」のに敗北したのか、については、一切応えられていない。
今回の補選への「自主投票」は、そうした敗北を踏まえた、共産党の苦渋に満ちた判断だと言えよう。さらに踏み込めば、一線を画しつつも、自主的支援と明確にすべきであろうし、そうしたほうが、「暴走安倍政権打倒に本気で取り組んでいる」というメッセージがより強く伝わり、むしろ支持の裾野も統一戦線ももっと大きく広げられることを認識すべきであろう。
北海道5区と京都3区の両補選は、その意味で重要な試金石となろう。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.460 2016年3月26日