【投稿】「エネルギー基本計画」批判

【投稿】「エネルギー基本計画」批判
                            福井 杉本達也 

 4月11日に閣議決定された新しい国の『エネルギー基本計画(以下「計画」)』は、2011年3月11日の福島第一原発事故を「忘れ」、「無かった」ことにし、原発を今後も使い続けるようとする宣言である。原発を、基本的な電力供給源の役割を担う「ベースロード電源」と位置付け、使用済み核燃料を「再利用する」核燃料サイクルという名目で独自核武装のための1954年来の60年間の壮大なフィクションを維持するものである。

1 福島原発事故対応の無責任
 計画は「事故で被災された方々の心の痛みにしっかりと向き合い」「発生を防ぐことができなかったことを真摯に反省し」「再発の防止のための努力を続けていかなければならない」との言葉を羅列する一方、事故処理の「国民負担を最大限抑制」すると居直る。「原子力賠償、除染・中間貯蔵施設事業、廃炉・汚染水対策や風評被害対策などへの対応を進めていく」とするものの放射線の健康被害に関しては一切の言及はない。

2 何を持って「世界で最も厳しい規制基準」というのか
 「事故の反省と教訓を踏まえ」「世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める」というが、何を持って「世界で最も厳しい」というのか。比較はどこの国の基準なのか全く不明である。そもそも、事故の原因をまともに追及せず、さらには輪をかけて事故を「津波」だけのせいにし、地震による原子炉破壊・電源喪失・核爆発を伴う水素爆発・当初のヨウ素131による被曝・その他の証拠の隠滅を図ろうとするなど、何一つ『真摯な反省』をしていない国が「世界で最も」と勝手に叫んでも、「世界」はそのような基準を信じない。

3 事故を起こさないという「精神論」か「過小評価の」論法か
 「二度と原子力事故は起こさないとの強い意思を持ち、原子力のリスクを適切にマネジメントするための体制を整備するとともに、確率論的リスク評価(PRA)等の客観的・定量的なリスク評価手法を実施する」というが、「強い意思」を持っていれば事故は防げたのか。これは「科学」の世界ではない。「信念」「思い込み」「カミカゼ」の世界である。少なくとも国家が国民や世界に向かって発表するレベルの文書ではない。
 今回の福島では1度に4基の原発がレベル7の事故を起こした。単純に原発の運転期間から計算すると500年に1回の事故である。現在の50基の原発で割れば10年に1基ずつ事故が起きる計算となる。これでは日本(我々国民も)は消滅である。確率論的リスク評価(PRA)で「定量的」なリスク評価が行えると本当に思っているのか。「定量」の中に福島事故は含まれていない。「無かった」ことにして、ごまかしでもするつもりなのか。

5 原発停止で輸入燃料費増による貿易赤字が増えたという嘘
 『化石燃料への依存の増大とそれによる国富の流出、供給不安の拡大』の見出しがあるが、「原子力発電所が停止した結果、震災前と比べて化石燃料の輸入が増加することなどにより、日本の貿易収支は赤字幅を拡大してきている」「日本の貿易収支は、化石燃料の輸入増加の影響等から、2011年に31年ぶりに赤字に転落した後、2012年は赤字幅を拡大し、さらに2013年には過去最大となる約11.5兆円の貿易赤字を記録した」とし、「原子力発電の停止分の発電電力量を火力発電の焚き増しにより代替していると推計すると、2013年度に海外に流出する輸入燃料費は、東日本大震災前並(2008年度~2010年度の平均)にベースロード電源として原子力を利用した場合と比べ、約3.6兆円増加すると試算される。」と述べている。
 化石燃料の増加による赤字が3.6兆円というのは東京新聞の特報(2014.4.12)からもその嘘が明らかである。「『輸入量が増えた分が大体7割、資源価格上昇が2割、為替要因が1割強』。茂木経産相は3日の参院予算委員会で、経産省の試算の内訳を説明した。 この割合で3.6兆円をみると、原発停止による液化天然ガス(LNG)や石炭、石油など火力発電の燃料の輸入増加分は約2.52兆円にすぎない。残る3割ほどの約1.08兆円は、資源相場の上昇や円安による輸入費用増加だ。」と指摘している。
 そもそも、日本の貿易赤字の原因は輸入増加というよりも輸出減少にある。輸出数量がプラスなのは自動車・化学・建機などだが電機は震災以降もダラ下がり状態である。これまで日本の輸出を牽引してきた輸送機械と並ぶ両輪の一方が欠けると一気に輸出の勢いが削がれる(藻谷俊介『エコノミスト』 2013.11.12)。経済の元締めとも言うべき経済産業省の官僚はこのようなことも分からずに作文したのか。それとも、明日にでもばれる嘘でも原発再稼働のためには大嘘をつくのか。いずれにしても日本の官僚機構の劣化は甚だしい。

6 地球温暖化の嘘
 原発の停止が「地球温暖化対策への取組に深刻な影響を与えている」とし、「これまで国際的な地球温暖化対策をリードしてきた我が国の姿勢が問われかねない状況となっている」と脅し、原発は「原子力燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源」であり、「運転時には温室効果ガスの排出もない」「重要なベースロード電源である」とする。
輸入ウラン100%の原発が「準国産」と言い張るのはどのような思考なのか。供給が途絶えても「数年間生産が維持できる」といっても所詮電気だけである。生活のあらゆる面に使用される石油でも半年間の備蓄はある。
 地球温暖化説に対しては、このところ、地球の平均気温は10年以上上がっておらず、むしろ寒冷化の傾向が見えることから幾多の疑問が提起されている。今回発表されたIPCCの第5次報告書では平均気温が産業革命以前より最大2.5度上昇したとしても経済に与える損失は収益の0.2~2%という(日経:2004.1.7)。8年前の前回の報告書では、100年の温暖化が世界のGDPを5-20%減少させ、不況や飢餓、難民、紛争を引き起こすと危機感を極端に煽るように書かれていたことと比較すると温暖化の地球環境への影響は微々たるものであることが明らかとなった。むしろ事故で放射能をまき散らす原発こそ地球破壊の元凶でkある。

7 天然ガスについて
 計画には一部常識的なことも書いてある。発電の1/2を占める天然ガスについて「今後、利用の増加が見込まれる天然ガスについては、パイプラインを含めて安定供給を確保する観点からの検討が必要である」と述べる。国内的には「太平洋側と日本海側の輸送路、天然ガスパイプラインの整備」を、また国際的には「ロシアの豊富な資源ポテンシャル、地理的な近接性、我が国の供給源多角化等の点を考慮すれば、ロシアの石油・ガス資源を有効活用することは我が国のエネルギー安定供給確保にとって大きな意義を持ちうる」とし、「将来的なパイプラインネットワークを活用した供給形態の多様化を視野に入れ、望ましい国際的なサプライチェーンの在り方と可能性についても検討を進める」とし、数少ないまともな文面となっている。日本は天然ガスを一度液化してLNGとし、船で運んできて、再び気化して利用している。海底パイプライン化すれば液化・輸送費が大幅に安く済む。

8 石炭について
 石炭についても「低廉で安定的なベースロード電源」として位置付けている。米国ではシェール革命の影響で「電源を石炭から天然ガスにシフトする動きを加速している。これにより米国から欧州への石炭の輸出が拡大しており、欧州では石炭火力発電への依存が深まりつつある」と述べる。「石炭火力発電は、安定供給性と経済性に優れている」として積極的に推進する姿勢を見せている。如何にバカな官僚群といえども『核』という色眼鏡を取れば世界的には方向は同一にならざるを得ない。

9 電力の国際的融通について
 「我が国の電力供給体制は、独仏のような欧州の国々のように系統が連系し、国内での供給不安時に他国から電力を融通することは」できないとしているが、ASEANでは2020年を目標に加盟国を繋ぐ送電網の整備(ASEANパワーグリッド)が進められようとしており、日本企業の三菱商事や日立も参画するという(日経:2013.8.13)。これに東アジアの電力網を繋ぐのが『アジア大洋州電力網』(『エコノミスト』2012.5.22)である。日本が東アジアでロシアや台湾・韓国・北朝鮮・中国との送電網の整備を進めることは何ら不可能なことではない。自らの目を曇らせているのは『安全保障』という名の『孤立化』政策だけである。

10 独自核武装への道について
 独自核武装について、計画は「原子力の平和・安全利用、不拡散問題、核セキュリティへの対応は…世界の安全保障の観点から、引き続き重要な課題である」とし「周辺国の原子力安全を向上すること自体が我が国の安全を確保することとなるため、それに貢献できる高いレベルの原子力技術・人材を維持・発展することが必要である」「核燃料サイクル政策については、これまでの経緯等も十分に考慮し、関係自治体や国際社会の理解を得つつ、再処理やプルサーマル等を推進する」とあくまでも独自核武装をあきらめない姿勢をとっている。しかし、日本を核攻撃するのに正確で小型の核弾頭は必要とせず、電源か水の供給さえ遮断すれば通常弾頭のミサイルだけで核攻撃以上の打撃を十分与えることが可能であることが原発自体(燃料プール)が核爆発した福島の事故からも明らかになってしまった。無意味な『独自核武装』は自滅への道である。

11 『もんじゅ』の取扱い
 もんじゅについて「放射性廃棄物を適切に処理・処分し、その減容化・有害度低減のための技術開発を推進する。具体的には、高速炉や、加速器を用いた核種変換など、放射性廃棄物中に長期に残留する放射線量を少なくし、放射性廃棄物の処理・処分の安全性を高める技術等の開発」するのだという。核燃料を取り囲むブランケットという場所で純度98%の核兵器級プルトニウムを生産できるもんじゅを「何としても生きながらせたい」”気持ち”が浮かび上がっている。『高速増殖炉』から核燃料を『増殖』できるというこれまでの大嘘を放棄し『高速炉』という名称に改めたが、『核種変換』などという出来もしない夢物語の作文は正気の沙汰とは思われない.。 

【出典】 アサート No.437 2014年4月22日

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