【コラム】変貌する中国–上海を旅して–
〇10何年ぶりに中国・上海市を訪れた。〇まず驚くのは、高速道路の整備と高層マンションの林立風景であろう。以前は、上海虹橋空港から入国していたが、今回は浦東区の新しい空港、巨大な浦東空港に降り立った。そこから、車で中心部に移動するのだが、高速道路(これは無料のようだった)は、車で溢れ、渋滞に時折遭遇しつつ、ホテルに向かった。〇上海万博の跡地付近を通り、30階はあろうかという高層マンション群をいくつも見た。この風景は、観光地に向かう翌日も遭遇する。建設中のものもここそこにあり、ありふれた風景である。〇1元10円程度だった通貨レートも、16円程度に切り上がり、中国通貨元の価値が上っている。街中の飲食店でも、このレートを考えると安さは感じられず、むしろ日本国内の購買力の印象と比べても、同等のような感覚であろうか。〇滞在中に、何人かの人と会話をしたが、とにかく困っているのは、家賃だという。ツアーガイドの女性も、家賃の高さを嫌って、最近安いアパートに引っ越したとの話だ。独身者同士でシェアする場合も多いという。〇林立するマンション群には、一体どんな階層の人々が住むと言うのだろうか。日本人的感覚なら、ローンを組んで住宅を買うということだろうが、おそらく大半は、富裕層による投資目的なのではないか。街中のスーパーの前で時間を潰していたら、投資話のパンフレットや、マンションや住宅地のチラシを配ってくれるのだが。〇電気店で、サムスン製の携帯電話が売られていたが、円に換算すると、ほぼ日本の国内価格と変わらない。中国ブランドなら、もっと安いかもしれない。〇旧租界である外灘も夕暮れに訪れた。中国の人も多いし、欧米からの観光客も多い。しかし、日本人の姿は、我々以外には、見かけなかった。上海市内の観光地豫園でも同様で、欧米からの観光客ばかりであった。ここにも、日中関係が影を落としているなと感じた。〇市内を移動する際、とにかく車、車である。以前なら、自転車や原付が道路を占領していたが、今は自動車である。高速道路やバイパス的な道路も多く、市内と空港や周辺工業地帯への移動手段は整備されている。以前になかった地下鉄も市内を縦横に走っている(乗る機会はなかったけれど)。空港から市内へは「リニアモーターカー」路線も整備されている。高速道路を走っている限り、ここが本当に中国なのか、という感覚も生まれてくる。北京では大気汚染が進んでいると言うが、上海では、そこまでの汚染という印象はない。〇道路が整備され、車がひしめく表通りから、少し猥雑な市街地を行くと、昔ながらの商店が軒を連ねている一角に出た。手前には、入り口に警備員が配置されている高層マンションがあったが、その直ぐ側に、肉や野菜、魚を売る庶民の商店が並んでいた。そこの人々は、南京東路の歩行者天国を歩く、おしゃれな中国人達とは違い、丁度日本でいう昭和レトロというのか、少々くすんだ服装、高齢者も多く、昔ながらの生活風景である。肉や魚、上海蟹も売られていたが、とても安い値段だった。〇10年一昔というが、この街の、この国の変貌は何だろうか。〇社会主義というものを印象付けるものは、何もなかった。中世中国のお庭や旧宅は観光地として残されているが、今そこにあったのは、街全体が猥雑な都会であった。上海市だけで、人口2300万人。何処に行っても人が溢れていた。帰国後、閑散とした大阪の街中を歩いた時、ちょっと寂しい気持ちになった。(2013-11-18佐野))
【出典】 アサート No.432 2013年11月23日