【投稿】福島原発事故で子供の甲状腺がん多発か?

【投稿】福島原発事故で子供の甲状腺がん多発か?
                          福井 杉本達也 

1 事故後2年で甲状腺がん患者が急増
 福島県は6月5日、東京電力福島第一原発事故の発生当時18歳以下だった子供約17万4000人分の甲状腺検査の結果9人が新たに甲状腺がんと診断され甲状腺がん患者は計12人、疑いのある人は計16人となったと発表した(朝日:2013.6.6)。しかし、朝日新聞は記事を目立たない35面に掲載するなど各紙とも発表の扱いは地味なものであった。甲状腺がんは1万5000人に1人、疑いのある者を含めると6000人に1人割合であり、通常、小児甲状腺がんが見つかるのは100万人に1~2人程度であり、その30~70倍にもなる。福島県によれば、甲状腺検査の対象となる子どもは全部で、約37万人。11年度からの2年間では、約17万5000人の子どもが超音波検査(一次検査、11年度4万0764人、12年度13万4735人)を受けており、そのうち5.1ミリメートル以上のしこり(結節)が見つかったことなどで精密検査(二次検査)の対象となった子どもは、1140人(11年度分205人、12年度分935人)にのぼる。そのうち、すでに二次検査を受けた421人から27人が「甲状腺がんまたはその疑い」とされた(11年度11人、12年度16人、)12年度検査分では、二次検査対象者が935人なのに、実際に二次検査を実施したこどもは255人であり、検査の実施率はまだ3割にも満たない(福島県『県民健康管理調査』②-11 2013.6.5)。今後、二次検査の進捗とともに、甲状腺がんと診断される子どもがさらに増加し、100~200倍にのぼる可能性が高い。明らかな異常値である。

2 がん多発と放射線被曝との因果関係は?
 調査検討委員会の報告の記者会見では、記者の「統計学的には明らかにこれは多発ではないかという指摘もありますけれども」との質問に対し、鈴木眞一福島県立医科大教授は「根拠になる数字というものがまだ、そういうものが無いからこの検診をやっている」。星北斗座長(福島県医師会)は「明らかな(事故の)影響があるとは我々は考えていない。軽々に事故の影響があるとかないとかいえない」。とし、鈴木教授は続けて「甲状腺がんは放射線の影響があるとは明らかには言えない」。「このような大規模な受診率そのものが、普通のは受診率が高くないんですよこれほどに。高い受診率で大規模に、しかもいまの最新の超音波機器を使って専門医がやっている中での発見率ですので、いろんな、比較する元データがございません。」と逃げを打っている。
 統計学的に有意かどうかについては、2011年調査の既にがん手術を行った3例の評価の段階で津田敏秀・山本英二氏が「多発と因果関係-原発事故と甲状腺がん発生の事例を用いて」(『科学』 2013.5)において、「95%信頼区間が21.46倍~ 231.10倍と求められ、統計学的にも有意な多発であることがわかる」とし、「極めて珍しい事象が起こっている」としている。鈴木氏の「大規模な受診率」「最新の機器」というのは苦し紛れのいいわけに過ぎない。元々低線量の被曝において個々のがん発生事例との因果関係を証明するなどということは不可能である。ただ確率的にがんが増加するとだけしかえいない。公衆衛生学の役割は因果関係の有無を議論して対策を先延ばしすることではなく、火事の現場の消防隊長のように、病気が多発しているのに対策をとらなかった場合には、経済的損害に加えて人的損害が生じるとして事前に(予防)行動に出ることにある(津田・山本)。

3 最短でチェルノブイリの4年が常識か?
 鈴木教授は「甲状腺癌の潜伏期間は、最短でチェルノブイリの4年というのが医学的常識。いままで知り得ている状況を総合的に考えて、放射線の影響ではない」とし、清水一雄甲状腺外科学会理事長も「チェルノブイリと福島は規模がまったく違う。チェルノブイリで起こったことが福島で起こるとは限らない」として、わずか2年で多発し始めた福島県の甲状腺がんの事例を事故とは関係ないと否定しようとしている。そもそも「最も信頼できる最大規模の臨床データ」とする『チェルノブイリの知見』は事故後5年が経過した1991年(笹川プロジェクト)から始まったものである。それ以前については調査自体がない。山下俊一前福島県立医大副学長のように、「4年」という数字にこだわる根拠は何もない。むしろ、事故後1~2年でこのような有意な事例が生じているのはなぜか、チェルノブイリとの相違は何かを追究することこそ本来的な医療であり、科学であり、学問である。ロシアでは270万人が事故の影響を受け、1985年から2000年に汚染地域のカルーガで行われた検診ではがんの症例が著しく増加しており、甲状腺がん以外でも、乳がんが121%、肺がんが58%、食道がんが112%、子宮がんが88%、リンパ腺と造血組織で59%の増加を示した。過去の被曝者の健康調査の結果、白血病は被曝から発病まで平均12年、固形がんについては平均20 ~25年以上かかることが分かっている(Wikipedia)。調査委員会の役割は政府や東電の手先として事故の因果関係の否定にやっきとなることではなく、こうした将来のその他の疾病に対しても、今から対策を立てておくことこそ求められている。

4 チェルノブイリと比べて線量が全く低いのか?
 鈴木教授は「潜伏期間、線量すべて考えて、放射線の影響ではない。UNSCEARの報告(国連科学委員会報告書案)もあった。被ばく量は高くない。」と、被曝量の少なさを強調することによって、甲状腺がんの多発と事故との関係を意識的に否定しようとしている。清水委員も「チェルノブイリと比べて全然被ばく量が小さいでしょ」「チェルノブイリでは最短4年。福島はずっと線量が低い。チェルノブイリの方が(放射性物質の放出が)16倍、朝日新聞の記事(UNSCEAR報告)では31倍多い。よって放射線の影響は少ない。」という。
 5月27日付けの朝日新聞は「福島事故 国民全体の甲状腺被曝量 チェルノブイリの30分の1―国連委が報告書案」と1面トップで報じた。ヨウ素131の総放出量はチェルノブイリの3分の1以下としているが、事故後8日で半減したヨウ素131の放出量の推計はできていない。ヨウ素131は短時間で消滅するため、放出直後の被ばく回避措置、そしてヨウ素が消える前の正確な被ばく調査が重要となる。ところが福島原発事故ではいずれも行われなかった(『NHKスペシャル 空白の初期被ばく~消えたヨウ素131を追う~』NHK:2013.1.12)。福島第一1~3号機炉心内のヨウ素131は6100Bq(ベクレル)10×15あった、チェルノブイリ4号機のヨウ素131は3200 Bq10×15であった(Wikipedia)。福島第一の炉心内のヨウ素131がほとんど炉心内に留まったあるいは西風で太平洋に流れたという根拠は何もない。

5 調査対象地区から外された中核都市:いわき市
 さらに気がかりなのが、いわき市の調査対象である。人口32.8万人の仙台市に次ぐ東北第二の都市であるが、対象者がなぜか絞られており342人(一次検査実施者は341人)しかいない。前記NHKスペシャルによると、ヨウ素131の拡散経路は放射性セシウムの経路とは異なっている。シミュレーションでは第一原発から浜通り伝いにいわき市上空を通り茨城県に抜けた放射性ブルームもある。1万Bq/立米を超えるヨウ素131の高濃度放射性プルームが3月15日未明に福島・関東などを覆った。いわき市は放射性セシウムのブルームの直撃は免れたものの、ヨウ素131のブルームの直撃を受けたのではないかと心配される。福島県以外でも北関東から東京への汚染も心配される。調査検討委員会は政府・福島県・東電の犯罪を隠すのではなく、手遅れにならないうちに今後の県民の健康をしっかりと調査し対応をとっていくべきである。マスコミも又、がんが異常に増加しているという事実から逃げるのではなく、しっかりと報道すべきである。 

 【出典】 アサート No.427 2013年6月22日

カテゴリー: 医療・福祉, 原発, 杉本執筆 パーマリンク