【投稿】破綻寸前のアベノミクスと原発トップセールス

【投稿】破綻寸前のアベノミクスと原発トップセールス

<<「年収150万円増」の大ウソ>>
 連日めまぐるしく変動する東証株価の乱高下に慌てふためき、アベノミクスの化けの皮が剥がれ落ちようとしているのをなんとか食い止め、巻き返そうと、安倍首相は6/5に発表した「成長戦略第三弾」なるものをぶち上げ、一人当たりの国民総所得(GNI)を「十年後には現在の水準から百五十万円以上増やす」と宣言した。マスメディアのほとんどは「10年で所得150万円増」とこれをこぞって大宣伝したが、肝心要の所得引き上げ政策、賃上げ政策が全く欠落した「成長戦略」であった。これがために巻き返しどころか、かえって東証株価は失望売りが殺到、500円以上の大幅反落という事態を招いた。
 それでも首相は無知か意図的か、そもそもこのGNIは国民や日本企業が一年間に国内外で得た所得を指すもので、従来の国内総生産 (GDP)に「海外からの所得の純受取」(対外資産から得られる利子や配当などの所得)を加えたものであって、企業の所得が含まれるため、個人の所得を示す指標とは別物であり、日本企業や国民が国内外で得た所得の総額を指し、「1人当たり」でも年収とは異なり、国民一人一人の給与や年収=所得とはまったく異なるものであるにもかかわらず、アベノミクスによってまるで国民一人当りの年収が150万円増えるかのように発表し、街頭演説でもそのように嘘をつきまくったのである。
 首相は6/8の都議選の自民党候補を応援する都内各地の街頭演説で、「10年間でみなさんの年収は150万円増えます」「十年間で平均年収を百五十万円増やすと約束する」「成長戦略を進めていけば、間違いなく年収が百五十万円増える」「今後10年で一人あたり平均所得を今より150万円増やす」などと、根拠のない幻想、まったくでたらめな大嘘を平然と繰り返したのである。
 首相は街頭で、「国民の総所得」とは言わずに、もちろんその中身も説明もせずに、「年収」「収入」「平均年収」「1年間の年収」「みなさんの所得」などという言葉にいいかえ、すりかえ、ごまかしたが、一部メディアの指摘に官房長官は、首相の演説はGNIを「わかりやすく説明」したものだと取り繕ったが、完全な詐欺的行為なのである。
 企業が国内の工場を閉鎖して労働者を解雇し賃下げを強行したとしても、海外展開して利益を上げれば、GNIは減らない。さらに国内で企業が儲けても労働者に分配しなれば、GNIは増えるが、労働者の所得は増えないし、圧倒的現実は企業は内部留保をどんどん積み増し、労働者への分配をどんどん減らし、非正規雇用を拡大することによってさらに給与所得を減少させている。解雇しやすくする「限定正社員」制度の導入など格差拡大と一層の人件費縮小を成長戦略の柱にし、最低賃金さえ上げようとしないアベノミクスではさらなる給与所得の減少が追い討ちをかけよう。年収増とはまるで逆の政策を推進しながら、「年収150万円増」などと嘘を平気で繰り返す、直面する都議選や参院選さえ乗り切れればいいということなのであろう。GNIについて無知であれば度し難く、わかっていて人々を欺くとすれば悪質極まりない。いずれにしてもその化けの皮は遅かれ早かれ剥がれざるを得ないといえよう。

<<「恥ずかしい大人の代表」>>
 この種の安倍首相の現実を顧みない軽薄さは、エネルギー分野での「成長戦略」に至っては、「原子力発電の活用」を盛り込み、原発の再稼働に向けて「政府一丸となって最大限取り組む」と明記して恥じない薄ら寒さである。これが「成長戦略」だというのであるから呆れたものである。福島原発事故で、十六万もの人たちが故郷を追われ、もはや故郷に帰れない事実上の厳然たる難民が大規模に発生しているにもかかわらず、除染も放棄し、被災者への援護の手もろくに差し伸べもせずに放置し、本来真剣かつ緊急に取り組むべきこうした課題は無限に先延ばしにし、事故の収束さえ覚束なく、事故収束など不可能な事態に直面しているにもかかわらず、原発再稼働に向けてだけは「最大限取り組む」とは、まったく現実を直視せずに、見たくないものには蓋をする、卑劣極まりない政治姿勢である。
 こうした首相自らの無責任な政治姿勢こそが、あのツイッターで被災者や市民団体を「左翼のクソども」などと暴言を繰り返していた復興庁の水野靖久参事官をのさばらさせていた元凶といえよう。彼は、福島復興に向けた「子ども・被災者生活支援法」に基づく基本方針策定問題などに携わっていたにもかかわらず、左翼のクソどもから、<ひたすら罵声を浴びせられる集会に出席。感じるのは相手の知性の欠如に対する哀れみのみ〉などとツィートし、社民党の福島瑞穂党首に対して〈20分の質問時間しかないのに29問も通告してくる某党代表の見識を問う〉と批判したり、共産党の高橋千鶴子衆院議員に〈通告出していないのはアンタだけ〉とブチ切れたり、タクシー運転手からの釣り銭が多かったことをネットで明かした、みどりの風の谷岡郁子代表を〈釣り銭詐欺〉と呼び、自民党の森雅子・少子化担当大臣を〈我が社の大臣の功績を平然と『自分の手柄』としてしまう某大臣の虚言癖に頭がクラクラ〉とメッタ切りにし、要するにそんなくだらない連中に比して「オレたちは日本の頭脳」と上から目線の「毒を吐く」エリート官僚、しかし自らの果たすべき責務や責任については、「今日は懸案が一つ解決。正確に言うと、白黒つけずに曖昧なままにしておくことに関係者が同意しただけ」と、課題の先送りとウヤムヤ化を「懸案が一つ解決」とほくそ笑むその程度の愚劣な人間なのである。しかしそこに現れている一貫した姿勢は安倍首相と全く同一線上にある、無責任極まりない政治姿勢である。
 そして問題は、安倍首相自身も、6/9、渋谷・ハチ公前で都議選候補の応援演説を行った夜、フェイスブックに<聴衆の中に左翼の人達が入って来ていて、マイクと太鼓で憎しみ込めて(笑)がなって一生懸命演説妨害してましたが、かえってみんなファイトが湧いて盛り上がりました。ありがとう。前の方にいた子供に『うるさい』と一喝されてました。立派。彼らは恥ずかしい大人の代表たちでした>と書き込んだのであるが、その場で反対の討論を行った人たちが持っていたプラカードが、あの自民党のTPP反対のプラカードで、ネット上で、TPP反対に右翼も左翼も関係ないと反撃され、6/10にはあわててこの書き込みを削除せざるをえなかった程度のこれまた愚劣な認識なのである。
 復興庁幹部の『左翼』発言と安倍首相の『左翼』発言とは期せずして一致してしまったのであるが、本質的に軽薄な短絡思考が同一であることを自己暴露しており、安倍首相も復興庁幹部、日本維新の会の橋下氏や石原氏と同様、その担当を、首相を解任されるべき、その程度の「恥ずかしい大人の代表」なのである。

<<「世界一安全な技術」>>
 しかしこの程度の首相が、6/15~20の日程で、ポーランド、英国、アイルランドの3か国を訪問し、日本企業の原子力発電所受注に向け、トップセールスを展開し、6/17-18、英・北アイルランドのロックアーンで開かれる主要8か国首脳会議(G8サミット)では、「アベノミクス」の取り組みを説明するという。
 すでに来日したフランスのオランド大統領との会談では、新興国への原発輸出の推進や、事実上の破綻状態にある核燃料サイクル政策での連携を盛り込んだ共同声明を出し、5月末には、インドのシン首相と、原発輸出を可能にする原子力協定の早期妥結で合意している。国内での現実とは全く相反する、世論の意向を全く無視した、すでに破綻が明確な原子力業界の利益しか代表しない、安倍首相のトップセールスは、日本の原発事故の現実を全く無視した虚言にしか過ぎないものである。
 今回訪問するポーランドでは、同国にチェコ、スロバキア、ハンガリーを加えた4か国と、初の首脳会談を行い、日本企業の原子力発電所受注に向け、トップセールスを展開する方針である。これら諸国でのセールストークは「安全な高い水準の原子力技術を提供したい」「世界一安全な、原子力発電の技術をご提供できます」である(5月、サウジアラビアでの演説)。空々しいのにも程がある。「世界一安全な技術」などとは程遠い、「世界一危険な現実」にどう向き合うかが問われており、その方策さえ見出し得ない現実を全く無視した、虚言そのものである。
 しかし 安倍政権はその「成長戦略」において、2020年の日本企業のインフラ受注額を、現在の約10兆円から3倍の約30兆円に拡大する目標を掲げ、エネルギー分野では、20年の日本企業の海外受注額を推計で9兆円程度と見込み、そのうち原子力は、現状の約3000億円の受注金額が20年までに2兆円に拡大すると見込んでいるのである。
 すでに福島原発事故以来、初めてとなる原発輸出の合意にこぎ着けたトルコとは、三菱重工業とアレバ(フランス)の合弁企業で、黒海沿岸に原子炉4基を建設する、総事業費約2兆2千億円のビッグプロジェクトであるが、日本と同様、周辺をユーラシア、アラビア、アフリカの各プレートに囲まれた地震大国である。安倍首相自身が地元通信社のインタビューに「世界で最も高い安全基準を満たす技術でトルコに協力したい」と答えているが、その世界最高の安全基準を保証できる具体的根拠は全く存在しないのである。にもかかわらずそう答えられる神経は、そうした現実を直視しえない、空約束でしかないものである。おりしも安倍首相のトップセールスに応じたエルドアン首相の独裁政権は、民衆の抗議に窮地に追い込まれている。そして日本の安倍首相のトップセールスも日本の原発事故の教訓や圧倒的多数の世論の動向からは全くかけ離れた原発業界の利益しか代表しないしろものである。地に足のつかない安倍政権は、浮き足立ってバタバタともがいている危険極まりない、原発事故を世界に拡散する「死の商人」の政権である。退陣に追い込むべき広範な世論の結集、一人一人の声の結集こそが要請されていると言えよう。参院選がそのような場になり得るかどうかが問われている。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.427 2013年6月22日

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