【投稿】放射能瓦礫を全国にばらまくな

【投稿】放射能瓦礫を全国にばらまくな
                   福井 杉本達也

1 被災3県の大量の震災瓦礫
 宮城県の瓦礫は1,819万トン、岩手県は435万トン、福島県は228万トンの震災・津波による瓦礫を抱えている。阪神大震災時の瓦礫1,477万トンの約1.7倍である。あまりにも大量の瓦礫であるため、被災自治体で焼却処分しようとすると10~数10年かかるといわれる。環境省はこの瓦礫を(宮城県の瓦礫344万トン、岩手県の瓦礫57万トン:数字は・毎日:2012.2.17)全国の自治体で手分けして広域処理する計画を立てた。ところが、問題はこの瓦礫が放射能によって汚染されていることである。文科省の「放射線量等分布マップ」によると、時間2μシーベルト以上の地域が名取市から牡鹿半島、気仙沼から釜石付近まで続いている。ちょうど津波の被害にあった地域と合致している。23県では全く受け入れの検討をしていないと回答している(共同通信:2012.1.9)。環境省の瓦礫処理は完全に行き詰まっている。

2 法律違反の環境省の瓦礫処理基準
 福島原発事故が起こるまでは、放射性廃棄物の処理基準は原子炉等規制法において定められていた。原子力施設の解体工事等で発生した廃資材のうち、様々な再生利用、処分のケースを想定し、そのうち最も線量が高くなるケースでも年間0.01ミリシーベルト(=10μSv『クリアランスレベル』)を超えないものを「放射性物質に汚染されたものとして扱う必要のないもの」として、再生利用等できるようにするもので『クリアランス制度』と呼ばれている。経産省はわざわざ、2005年に原子炉等規制法を改正し、クリアランス制度を導入。放射能濃度の確認方法等については省令に規定している。ところが環境省は災害廃棄物を放射性廃棄物として処理するのは現実的ではないとして「原子炉等規制法に基づくクリアランスレベルは10μSv/年と設定されていますが、これを時間当たりに換算すると0.001μSv/時となり、私たちが通常生活していて受ける自然放射線量よりも低いレベルで設定されています。したがって、原子炉等規制法のクリアランスレベルを今回の災害廃棄物に当てはめることは適当ではないと考えています。」(2011.5.2「福島県内の災害廃棄物の当面の取扱い」)として、放射能に汚染された廃棄物を原子炉等規制法から切り離すことを決めたのである。さらに6月23日に「 福島県内の災害廃棄物の処理の方針」として、「放射性セシウム濃度(セシウム134とセシウム137の合計値。以下同じ。)が8,000Bq/kg以下である主灰は、一般廃棄物最終処分場(管理型最終処分場)における埋立処分を可能とする。」として一般廃棄物として処理する方針を明確にした。つまり、8,000 Bq/kg以下~55Bq/kg(換算0.00018mSv/Bq)の「極低レベル放射性廃棄物」と定義されているものを無理矢理「一般廃棄物」にしようとしているのである。
 一方、廃棄物処理法は、放射能汚染されたごみを除外している。法第2条は「この法律において『廃棄物』とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く)をいう。」と定義されており、放射能に汚染された廃棄物を焼却することはできないこととなっている。
 つまり、放射能に汚染した災害瓦礫を焼却するには、原子炉等規制法の規制から「極低レベル放射性廃棄物」外すことと、廃棄物処理法に“これ”を含めること=両法の改正が必要である。環境省はこれを一片の通知だけで行っている。これが、福井県を始め各自治体が「二重基準」と非難していることである。全くの無法状態である。

3 「極低レベル放射性廃棄物を焼却するとどうなるか
 環境省は480~240Bq/kgの放射能汚染瓦礫を焼却しても濃縮率は16~33倍だから8000 Bq/kg以内に収まる。「バグフィルター」という筒状の濾布に排ガスを通過させるなどの煤塵除去装置があれば100%放射性セシウムを除去できる。除去した放射性セシウムを含む焼却灰は管理型処分場に埋設するので環境への影響はない(環境省パンフ『災害廃棄物の広域処理』2012,2,2)と説明する。セシウムは28度で固体から液体になり、641度で気化する。焼却炉では900度~1300度で焼却するが、その後ボイラーで熱交換し、冷却搭で冷却されて約200度でバグフィルターに入ることになる。焼却物には塩化ビニールなどの塩化物が多いので、塩化セシウムなどとなって分子が大きいのでバグフィルターで十分捕捉されるだろうという(福本勤氏「ごみ探偵団」2011.1125-実際、焼却炉内でのセシウムの挙動は不明な部分が多い)。しかし、これはバグフィルターが十分機能してのことである。実際は、石川県のK市は長期間に亘って破れたバグフィルターを放置していたケースや、焼却の“管理の都合”で「バイパス」と称してバグフィルターを通さず排ガスを煙突から排出する例は枚挙にいとまがない(上記:福本氏)。その場合、放射性セシウムは微粒子となって環境中に大量放出される。
 また、放射性セシウムを含む焼却灰は管理型最終処分場に埋設されることとなるが、一般廃棄物の管理型処分場には屋根はない。当然、雨水がしみ込む。セシウムは水に溶けやすい。処分場から環境中に流出する恐れもある。管理型処分場の管理もお粗末な場合が多い。福井県内でもF組合やO組合では処理されない水が環境中に放出されたりしている。さらには、溶融炉のスラグの問題もある。放射性セシウムはスラグには移行しないのか。クリアランスレベル以上の汚染ならば当然アスファルトなどの細骨材には使えない。その量だけで処分場の使用期間は一気に短くなる。
 さらには、焼却炉の修理も問題である。年1回は耐火レンガの修理など定期点検をする必要がある。ボイラーを設置した場合労働安全衛生法上の検査も必要である。高い放射線量の炉内に入ることができるのか。

4 瓦礫処理1兆円に群がる「魑魅魍魎」
 瓦礫処理は1兆円を超す巨大公共事業と化している。「総額1兆円を超えるともいわれるがれき処理は公共事業の激減によって苦境にあえいでいたゼネコンにとってまさに『干天の慈雨』(『ダイヤモンド』2011.1015)である。宮城県では談合情報も飛び交っている(『東洋経済』2011.12.3)。静岡県島田市は最近、「被災者の苦境を思えば、援助できる者が援助するのは当たり前。自治体のトップは余裕があるなら腹をくくって、がれきを受け入れるべきだ。最終処分場がないというのは言い訳。必要なのは気持ちだ。この際、首長の独断でがれき処理をやるべきだ」と放射能汚染瓦礫の受け入れを表明したが、島田市長桜井勝郎氏の肩書きは桜井資源株式会社代表取締役であり、産業廃棄物業である(ブログ「院長の独り言」2012.2.16)。
 放射性瓦礫は何百キロ・何千キロと長距離を移動させるべきではない。それは日本国中に放射能をばらまく行為であり、また、コスト的にもムダである。10年、20年の処理量があるならば、地元に焼却場を何基もつくればよい。焼却場は使い捨てとし、焼却灰は当然「原子炉施設及び核燃料使用施設の解体等に伴って発生するもののうち放射性物質として取り扱う」(原子力安全委員会:2004.12.16)べきものであるから福島第一原発の事故によって発生した「放射性廃棄物」として東京電力が引き取るものである。中国はいまもなお、福島県や群馬県など10都県からの農水産物の輸入を禁止している。香港は福島県への渡航を禁止している。自己中心的に「違法行為」を繰り返せば繰り返す程、世界の日本を見る眼は厳しくなる。「違法行為」は腹をくくって「首長の独断」でやるようなことではない。早く、「自らが作った法律は自らが守る」法治国家となるべきである。 

 【出典】 アサート No.411 2012年2月25日

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