【投稿】 原発推進の役割を担った地球温暖化仮説

【投稿】 原発推進の役割を担った地球温暖化仮説
                          福井 杉本 達也 

1 原発産業の斜陽化とともに始まった地球温暖化仮説
 1979年の米国―スリーマイル島原発事故・1986年の旧ソ連―チェルノブイリ原発事故以降、世界的に脱原発の機運が高まっていた。そのような中で、1958年からハワイ・マウナロア山頂の気象観測所にて、大気中の二酸化炭素濃度データの観測・収集・計測を継続的に実施ししていたC.D.キーリングは、観測結果から、大気中のCO2濃度の増加は人為的に放出されているCO2放出量の半分に相当する量が蓄積していると考えられるとした。また、第二次世界大戦後1970年代半ばまで続いた世界的な寒冷化傾向は一転して継続的な気温の上昇傾向を示すようになっていた。この二つの事象を繋ぎ合わせることによって『人為的に放出されたCO2の増加が大気中のCO2濃度の上昇をもたらし、大気中のCO2濃度の上昇による大気の温室効果の増大によって気温が上昇し、このまま気温が上昇すると生態系に壊滅的な打撃を与える』というシナリオに基づいて『人為的CO2地球温暖化脅威論』が作り出された。1988年の米国議会上院エネルギー委員会においてNASAのハンセンは人為的CO2地球温暖化は確実に進行していると証言している。
 この人為的CO2地球温暖化仮説に斜陽化しつつあった米国の原子力関連企業は飛びついた。こうして気象分野の研究者と原子力関連企業の間には強い利害関係が生まれた。それを世界的に広げたのがフランスである。元来、フランスは環境問題に関しては最も冷淡な国家であった。ところが、原子力産業が斜陽化してきたので、CO2を出さない原子力発電は環境によい発電ということになった(参考:近藤邦明HP)。

2 原発を前提としなければ成り立たない地球温暖化仮説の課題解決
 2007年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次評価報告書はCO2削減のためには省エネルギーや燃料転換だけでは不十分で、原子力、再生可能エネルギーシステムの大規模な導入や二酸化炭素の固定と貯留(CCS)が必要だと説く(第3作業部会報告書)―図TS10など)。これを受け、国立環境研究所地球環境研究センターの藤野純一主任研究員は「2050年には世界の温室効果ガス排出量を1990年に比べて約50%削減し、それ以降さらなる削減が求められる」とし、「化石燃料と比べてCO2をあまり排出しない再生可能エネルギー(風力や太陽エネルギー)や原子力発電の割合を増加させる、さらにはCO2排出の少ないエネルギーで製造した電気や水素を効率的に利用するといった対策で、大幅に改善できる可能性」があると『解決法』を提示する(同センターHP:Q&A)。そして、この間「原子力ルネサンス」という言葉がもてはやされた。
 これまで我々は将来の科学技術が現在の課題を解決してくれるであろうという前提で物事を判断してきた。しかし、今回の福島第一原発の事故はこれらの前提を全て吹き飛ばしてしまった。人類は核エネルギー=その反応は我々が日常的に使っている化学反応 (燃焼) の約1億倍にもなり、10万分の1秒というとてつもない短い時間で核分裂を繰り返し加速度的に増加するが、それを制御し暴走しないようにしてエネルギーを取り出そうとする技術の取り扱いに完全に失敗してしまった。核物理の到達点(核兵器)から技術的適応としての核の平和利用に人類の進歩を見ようとしたバラ色の科学技術未来論は崩壊した。
水野和夫氏は「原発事故は、近代の最も重要な概念である『科学技術』万能主義神話を崩壊させた」とし、「技術進歩」を17世紀~20世紀を支配した「成長教」というキリスト教神学に代わる宗教=「大衆は…奇蹟と来世の信徒から一挙に人力の自然支配という技術の奇蹟の信徒となった」(カール・シュミットの引用)であったとし、「3.11で技術も魔術の一つだったと明らかになった…科学技術と成長は人類が抱える問題を解決するどころか、ますます泥沼化」させたとする(『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』日本経済新聞出版社 2011.9.5)。
 また、内山節氏は「資本主義には拡大再生産を遂げつづけることによって正常に展開するという側面が付随している。拡大再生産が止まれば、市場の縮小と失業問題、貧困の問題などが一気に吹き出してくる。」ところが「自然が有限だと…不都合なことになってくる…資源の面でもそれが無限に存在しなければ、無限の経済発展とはつじつまが合わない。」つじつまが合わないことを「人はその解決を科学の発展に丸投げしたのである。科学の発展がさまざまな問題を解決していくだろうと仮定することによって、ほとんどの人々はこの矛盾する悩みから解放された」。「将来の科学」が「問題を解決していくのであれば、それは専門家の仕事になる」。問題の解決が専門家にしかできないとすることによって「専門家の暴走を許容する社会」を作り出し、「この発想の延長線上で、福島の惨状は発生した」と述べる(『世界』2011.11』。
 核技術はこの66年間、やっかいな放射能の取り扱いを「将来の科学」に委ねようとしてきたが結局徒労に終わった(だけではなく福島をはじめ東日本に厖大な放射能をまき散らした)。IPCCの掲げる「再生可能エネルギー」や「CCS」も同様の道をたどる恐れが高い。IPCCは地球温暖化という問題は提起したが解決はもはや不可能である。人類や生物が放射能と心中する方が早くなってしまう。ましてや「経済開発が持続可能な形で進められる」ことはない。

3 日本気象協会の犯罪的役割
 日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)と信大病院(松本市)が福島県内の子ども130人を対象に今夏行った健康調査で、10人(7・7%)の甲状腺機能に変化がみられ、経過観察が必要と診断されたことわかった(信濃毎日新聞2011.10.4)。チェルノブイリ原発事故では数年後に小児甲状腺がんが急増している。
 福島原発事故では保安院の発表によると、ヨウ素131は3月15日を中心に広島原爆の2.4倍分が大気中に放出されたという(日経:2011.8.27)。政府は緊急時には15分で計算できるというSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測)を事故後12日も経過した3月23日に発表した。その間に福島県内の36万人もの子供をはじめ、東京を含む関東や東北地方の数千万人の子供が(もちろん日本の人口の半分の大人も)被曝してしまった。自治体によっては少量のヨウ素剤も準備されてはいたがほとんど飲む暇もなかった(ヨウ素剤は放射能が到達する24時間前から2時間後までに服用しないと効果は極端に悪くなる)。これらの被曝は今後の日本人の健康に大きな影響を及ぼすこととなろう。国家による国民に対する重大な犯罪行為である。しかも地球温暖化研究の中心部隊である日本気象学会はこの事実と結果の重大さを十分知りながら、新野宏日本気象学会理事長(東京大学大気海洋研究所教授)名で「放射性物質の拡散が懸念されています。大気拡散は、気象学・大気科学の1つの重要な研究課題」だが「今回の未曾有の原子力災害に関しては、政府の災害対策本部の指揮・命令のもと、国を挙げてその対策に当たっているところであり、当学会の気象学・大気科学の関係者が不確実性を伴う情報を提供、あるいは不用意に一般に伝わりかねない手段で交換することは、徒に国の防災対策に関する情報等を混乱させることになりかねません。会員の皆様はこの点を念頭において適切に対応されるようにお願いしたい。」(同学会HP・2011.3.18 報道・朝日:2011.4.2「放射性物質予測、公表自粛を 気象学会要請に戸惑う会員」など)。との通知を出し政府の犯罪に荷担したのである。会員は放射能の排出量は分からなくても、風向・風速などで地球温暖化の研究よりははるかに簡単に拡散予測はできたはずである。もちろん気象庁も福島県の浜通りの風向きも雨の予想も何一つ発表しなかった。当時、我々はドイツ(Deutscher Wetterdienst)やフランス・オーストリアといった海外の放射能拡散シミュレーションを頼る他なかったのである。

4 金のため自己保身を図る研究者
 放射能の危険性についてわかりやすい発信を続ける中部大学の武田邦彦氏、精力的に反原発の全国連続講演をこなす広瀬隆氏、毎日福島原発と放射能の状況についてラジオで解説する京大の小出裕章氏―いずれも地球温暖化仮説に懐疑的である。一方、日本における地球温暖化脅威論の元締め的国の研究機関-国立環境研究所の安井至氏は「放射線による直接的健康被害がでる可能性はかなりゼロに近いのに対して、今回の事態で精神的うつ状態になる人が今後増加するだろう。チェルノブイリでもそうだった」(安井至HP『市民のための環境学ガイド』「ICRPはなぜ信頼できるのか」2011.10.9)などと原発擁護の姿勢を示している。なぜ、研究者の一部はこうした態度を取るのか。その秘密を伊東光晴氏は「地震研究で文科省所管であれば研究費の額は知れたものである。それを地震“予知”とすることで所管が変わり、巨額な予算が入手できるのである。工学関係者は、こうした予算獲得にたけている」(『世界』2011.11)からだと解き明かしている。人為的CO2地球温暖化仮説に関する研究も環境省・経産省・国交省・農水省など予算は多岐にわたり額も巨大なものである。
 その最たる研究者?の一人が東電の社外監査役で原子力ムラの総本山東大前総長の小宮山宏である。かつて、総長就任前の小宮山はその著『地球持続の技術』(岩波新書1999.12.20)で「代替エネルギーの開発は確かに必要ではあるが、21世紀中に自然エネルギーを化石資源に全面的に代替させることは技術的にも不可能である。また、安全性に対する懸念から、原子力への依存も避けるべきである。」と述べていた。ところが、総長を退任し無事三菱総研理事長に収まった時期の『低炭素社会』(幻冬舎新書2010.5.30)では日本の原発の稼働率が60%と低いことにふれ、「日本も世界で平均的な稼働率である80%を目指せば、化石燃料によらない発電が3%分は増え、その分CO2が減らせます。…CO2削減のためには極めて有効な発電手法の一つであることは間違いありません。」と見事に変節をしている。自己保身や研究費稼ぎのため政府や企業にすり寄り国民に甚大な被害を与えた研究者の犯罪は厳しく断罪されねばならない。 

 【出典】 アサート No.407 2011年10月22日

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