【投稿】核から今すぐ撤退せよ

【投稿】核から今すぐ撤退せよ
              福井 杉本達也

1 科学に後戻りはある
 「原発をやめると、という選択は考えられない。」「発達してしまった科学を、後戻りさせるという選択はあり得ない。それは人類をやめろ、というのと同じ」(日経:2011.8.5)と評論家の吉本隆明(40台以下の世代にはよしもとばななの父親といったほうが分かりやすいか)はいう。しかし、残念ながら人類を滅亡させる科学は後戻りさせるほかはない。原発に吉本がいうような「完璧な安全装置を」(同上)つけることはできない。一方は核反応とそれに附随する放射線崩壊であり、数万年・数十万年単位(プルトニウムの半減期は2万4千年)の世界であるのに対し、他方は化学反応であり、生物が生活する数十年単位の世界だからである。鉄(圧力容器)やコンクリート(格納容器)で作られた「完璧な安全装置」も化学反応により錆びたり劣化したりして数十年単位で朽ち果てていく。フィンランドでは10万年間放射性廃棄物を保管する最終処分場を建設中だが、10万年後に人類が生存するかどうかも疑問である(毎日:2011.7.31)。恐竜か「猿の惑星」に管理を託すしかない。要するに管理不可能なのである。

2 熱は宇宙に放出できるが、放射能は地上にたまり続ける
 地球に生命が存在できるのは、大気と水があることによって、太陽からの熱を逃がさないようにするとともに、それが循環することによって、余分な熱エントロピーを宇宙に捨てているからである。ところが、物の場合はどうであろうか。セシウム137やプルトニウム239といった放射性物質は大気や水よりかなり重いため、宇宙空間に余分な物として排出することは出来ず、どんどん地上にたまり続けることになる。今回の福島第一原発事故では広島型原爆30発分の放射能がまき散らされたが、この放射能は今後どんどん減っていくということはない。福島県内の農地の5000ベクレル/kg以上の汚染土壌を深さ5㎝程度削り取るだけで400万トンの廃棄土壌が出る。この土壌はどこへも持っていくことはできない。数百年間に亘り管理しなければならない。まして、1マイクロシーベルト/時を超える汚染された山林は福島県の1/7もあり手の施しようがない。表土をたった5㎝削るだけで1億立法メートルを超える。国はあたかも「除染」によって放射能がなくなるかのような情報操作を行っているが、放射能が消えてなくなることはない。こちらにあった物をあちらへと移動するに過ぎない。福島県を中心として宮城・岩手・栃木・茨城など東日本全体にばらまかれた放射能の総量は変わらないのである。そもそも、広い面積の稲株の残る凸凹した農地をわずか5㎝だけはぎ取るなどということは可能なのだろうか。はぎ取る厚さが増えれば廃棄土壌は大幅に増えるし、作業が杜撰であれば放射能を土壌中に鋤き込んでしまう。自然の浄化作用は放射能には効かない。

3 当初、核エネルギーに驚嘆した科学者
 原子力資料情報室を設立した物理学者の武谷三男は原子爆弾が広島に投下されたとき「私がうけた強い印象は、ついに人類が原子力を解放したということであった。新しい時代が始まったのである。科学者として率直にこの喜びとほこりを感じた」(『素粒子の探求』1965.5.30)と高揚感に満ちた受け取り方をしている。ノーベル賞を受賞した湯川秀樹も「ついに 原子バクダンがさくれつしたのだ ついに 原子と人間とが 直面することになったのだ 巨大な原子力が 人間の手にはいったのだ」(湯川秀樹詩「原子と人間」)と巨大なエネルギーの解放に期待を込めている。しかも、科学者ばかりではなく当時、富山県黒部産の「風邪にピカドン」という置き薬(1包40円)が発売されており(加藤哲郎:2011.9.1)、また、手塚治虫の「鉄腕アトム」(ウランちゃん)やビキニ環礁での原爆実験の衝撃をデザインした「ビキニ水着」の流行など民間でも核エネルギーに対する期待は大きいものがあった。当時、核は発電だけではなく、飛行機や鉄道などの輸送手段や原子力製鉄などへの応用といった幅広い分野での「無限のエネルギー源」の利用が期待されていた。「科学的なエネルギーやさまざまな電気的エネルギーの使用形態がだんだん進んで、核物理の到達点から技術的適応としての核の平和利用に進んでいく歴史の流れの延長上に、日本人が進歩とか発展というものを見ようとした」「一種のバラ色の科学技術未来論」(高木仁三郎『原子力神話からの解放』2000.8)であった。しかし、その『未来論』は核エネルギーの制御のし難さから・放射能の危険性から急速に萎んでいった。吉本隆明は技術の困難さという途中が抜けて、いまだに66年も前の「高揚感」を引きずっているに過ぎない。

4 金儲けのために原爆が落とされた
 核はなぜ1945年8月6日に広島に無警告で落とされたのか。米国の公式見解は「対日戦争を早く終わらせるため」であったとされる。しかし、哲野イサク氏は原爆投下を事実上決定した「暫定委員会」(軍からはスティムソン陸軍長官ら・科学者からはオッペンハイマーらが参加)の議事録から丹念に原爆使用の政策意図を掘り起こし、①ソ連を核兵器開発競争に狂奔させるために、日本に対して警告なしの原爆使用を行った。(日本への原爆使用が「警告なし」に決まったのは、原爆の華々しいデビューを飾るためだった。そしてそれはソ連の目の前で、人口密集地に投下して、原爆を実際に使って見せ、ソ連を恐怖させ、ソ連を原爆開発に狂奔させるためだった)②その政策意図は、ソ連に核兵器開発させて、核兵器を中心においた準戦時体制を構築することだった。③準戦時体制(冷戦)は戦時体制同様、議会(正確にはアメリカ国民)からノーチェックで厖大な投資が予想される原子力エネルギー開発へ予算を注ぎ込むことだと結論づけている(「トルーマン政権、日本への原爆使用に関する一考察」2010.8.13)。ソ連に対する警告とか核抑止力という後付の高尚な理由ではなく、国民の税金を使って新たな基礎研究開発を政府が行う、しかもその基礎研究の成果は排他的に一部の大企業だけが利用できる仕組みを構築する。戦争が終わった後に継続的に予算が確保されるというシステムを作り出すために「軍産学の鉄の結束」を維持するという、自らの金儲けのために人類と地球を危険に曝すことをいとわなかったし、現在もそうしている一部勢力が存在するということである。


5 原子力技術は核武装につなげるものであると公言する読売新聞社説

 9月7日の読売新聞社説は「エネルギー政策 展望なき『脱原発』と決別を」と題し、「日本は原子力の平和利用を通じて核拡散防止条約(NPT)体制の強化に努め、核兵器の材料になり得るプルトニウムの利用が認められている。こうした現状が、外交的には、潜在的な核抑止力として機能している」そのための「原子力技術の衰退を防げ」という。これまでも潜在的核開発能力があるとかを公言する政治家は度々いたが、ここまであからさまな社説も初めてである。先日、燃料交換のための炉内中継装置が落下し復旧作業を行っていた高速増殖炉もんじゅがほぼ事故前の状態に復旧した。なぜ、そこまで作業を急ぐのか。「もんじゅの真の目的は、超軍用プルトニウムを製造することである。そのため、半年に一回燃料を交換する。その際ブランケット燃料集合体の4分の1を交換する。つまり毎年半数のブランケット燃料集合体を取り出し、超軍用プルトニウムを毎年62キログラム生産するように設計されている」(『隠して核武装する日本』槌田敦・中嶌哲演他:2007.11.26)との指摘と社説を重ねるだけで十分であろう。ちなみに超軍用プルトニウムは純度97%以上であるが、もんじゅのそれは99.8%であり2kgもあれば核兵器が作れる。原子力に巣くう勢力は「ムラ」という生やさしい勢力ではない。国民の税金を湯水のごとく使い、自らの金儲けのためだけに人類と地球を危険に曝すことをいとわなない犯罪者集団である。こうした犯罪者集団のこれ以上の跋扈を許してはならない。このままでは人類は核による地球の汚染で死滅してしまう。今すぐ核から撤退すべきである。 

 【出典】 アサート No.406 2011年9月24日

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