【コラム】ひとりごと —増加する虐待と福祉の課題—

【コラム】ひとりごと —増加する虐待と福祉の課題—

○今年6月、障害者虐待防止法が成立し、来年10月1日に施行される。内容は、障害者に対する虐待の防止、通告の義務化、そして養護者への支援などである。○養護者(家族)からの虐待、障害者施設での虐待、作業所や企業などの雇用の場での虐待に対して、都道府県・自治体が対応することが明記されている。○障害者に対する虐待は、中々表に出てこない性格を持っており、家庭内では養護者、施設等では職員などから、身体的・経済的虐待は潜在的に存在している。虐待防止法が成立したことは、大きな前進であることは間違いがない。○しかし、市町村の職場での実態を考えると少々問題があるのである。○虐待防止法は、これで3つ目である。2000年に児童虐待防止法が制定されている。そして2006年制定の高齢者虐待防止法。そして今回の障害者を対象とした虐待防止法となる。○いずれの法も、基本的フレームは同様であろう。虐待の防止・通告の義務化・一時保護規定などである。○それでは、どのように対応されていくのだろう。児童の場合、通告先は、児童相談所または家庭児童相談室(いずれも自治体窓口)で、対応は通告から48時間以内での児童の安全確認から始まる。高齢者の場合の通告窓口は、高齢者総合相談窓口である「地域包括支援センター」である。○今回の障害者の場合は、「市町村障害者虐待防止センター」を開設して対応するとなっている。○児童の場合は、直接に自治体担当部署が対応するが、高齢者・障害者の場合は、それぞれのセンターとなっているが、委託である場合が多く、一時保護などの処分は、自治体部署が決定することになる。○小生、障害者虐待への対応の経験はないが、児童・高齢者虐待への対応は身近で頻繁に生起している。これが、中々手間がかかるのである。安全確認も、いきなり家庭に飛び込んでも、拒否的対応が多い。家庭内で起こっているため重篤な場合でない限り、加害者が認めないことには、前に進まない場合が多く、自然と見守りケースが増加していくことになる。○重篤な、死亡や大やけど、骨折等の場合は、傷害事件として警察の出番となる。しかし、大半は両親や家族(高齢者の場合)に対する「見守り」指導ケースとして、時間をかけて信頼関係を作りつつ指導を継続するわけである。○児童虐待の場合は、児童福祉法の絡みで、従来から相談員が選任で配置されている場合が多いが、高齢者虐待の場合は、おそらくどこの自治体も選任の職員はいない。介護や高齢者福祉の係が、兼任で対応しており、専門家と言われる職員はおらず、ただでさえ人減らしで少人数職場であるので、事件が起こるとたいへんな事態になる。家族との接触も夜間になる場合もある。○ちょっと愚痴っぽい話になったが、本論に戻ると、極端に言って虐待対応の専門家は、自治体にはほとんどいないのである。○児童の場合は確かに専門家である相談員がいる。児童福祉法が基礎にある。児童福祉法は、戦後の混乱期、戦争で親をなくし浮浪児となった子ども達を保護する必要から制定され、経済的理由や家庭的理由から、親元を離れて施設等で養育することを規定している。○しかし、昨今の虐待事案は、ある意味、こうした古典的理由から生起していない。若年の母親であったり、未婚の内縁者から、虐待を受ける場合も多いし、両親の精神的理由から起こる場合が多い。つまり、現在の児童虐待は、養育者(親)の方に深刻な問題がある場合が多いのである。○虐待防止法は、通告・安全確認・保護というシステムだが、本来の原因は、養育者にあり、ここに焦点を宛てた「教育的対応」を法律は規定していない。最悪行き着くのは、傷害罪などの刑事罰しかない。○精神的な問題を抱える家族への対応には、精神保健福祉士の手を借りることになる場合が多いが、児童の担当部署には、その人材はいない場合がほとんどだ。○新たに障害者虐待への対応を来年に向けて準備することになるのだが、こんな縦割りの対応をすることが、現実的なのか、と思うわけである。○確かに、児童・高齢者・障害者、さらに女性(DV防止法)と、対象者を区分して、虐待対応施策は整備されてきた。システムはほとんど同じである。これらに別々の担当者を配置することが現実的なのだろうか。法律の規定があるため、対応せざるをえないだろうが、虐待という人権侵害に統一的に対応する方が、現実的であるように思えるのである。○厚生労働省は、おそらく、それぞれの虐待問題に、○○防止協会などの外郭団体を作って「天下り先」を、生産し続けるのだろう。○社会が内向き志向になり、社会生活のストレスの捌け口が、家庭内に向かう現実の中で、「法律を作りましたので、対応しております」などの官僚答弁で何も解決しないだろう。現実に向き合い、「専門性」を打破し、トータルに対応できる福祉の人材が求められていると感じる今日この頃である。(2011-08-20佐野) 

 【出典】 アサート No.405 2011年8月27日

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