【投稿】アメリカのパワー衰退とユーラシア大陸の台頭

【投稿】アメリカのパワー衰退とユーラシア大陸の台頭
                            福井 杉本達也

Ⅰ.軍事パワーの誇示
 12月14日朝。日米共同統合演習に加わっていた空母ジョージ・ワシントン(GW)が、母港・横須賀基地に戻ってきた。今回の共同演習に参加したのは、日本の陸海空自衛隊からは3万4000人、艦船は約40隻、航空機は250機にのぼる。米軍は陸海空及び海兵隊か兵員1万人余り、艦艇約20隻、航空機150余機。合わせて4万4000人、60隻の艦艇、400機余りの航空機が演習に参加した。日米の合同軍事演習史上最大規模であり、11月に黄海を中心に行われた米韓の合同演習の6倍の規模であった。12月10日『NAVY News Service』は演習終了後の“記念写真”を配信したが、GWを中心に強襲揚陸艦「エセックス」とヘリコプター搭載護衛艦「ひゅうが」が脇を固め、イージス巡洋艦「カウペンス」・イージス艦「こんごう」・ミサイル駆逐艦「JSマケイン」・ヘリコプター搭載護衛艦「ひえい」など20数隻の艦艇を付き従えるものであり、憲法上の制約は全く無視され、自衛隊が米軍の一部として一体的に運用されている実態が如実に示されている。

Ⅱ.経済パワーの衰退
 陸を支配する者から海を支配する者にヘゲモニーが移行した16世紀から1970年代前半まで先進国は途上国の資源を安く買い叩き、反対に加工した製品を途上国に高く売ることによって儲けてきた。例えばイギリスの産業革命はインドの綿花を安く買い、それを加工して綿製品をインドに高く売ることによって発展してきた。欧米先進国(日本を含む)の人口は1870年代には地球全体の15%(現在人口は10億人)になったが、これら15%の人々が残り85%の発展途上国を従属させ資源を収奪し著しい不等価交換により利益を享受してきた。ところが、第1次オイルショック後の1974年以降の30数年・特に中国がWTOに加盟した2001年以降はBRICsなどの新興国が非常に力をつけ、新たに40億人もの人口が先進国並みの生活水準を享受しようと加わってきた。原油価格は1973年までは1バレルたった2~3ドルだったものが、第2次オイルショック直後の1980年には30~40ドルに上がった。1990年代は20ドル前後で推移するが、バブルの2008年には一時147ドルまで跳ね上がり、現在も80ドル台で推移している。結果、先進国は交易条件が悪化し、実物経済では稼げなくなり、金融に活路を見出していくこととなる。たとえば日本の鉱物性燃料の輸入代金は1994年には4.9兆円だったものが、2008年には27.7兆円にまで膨らんでしまった(参照:『超マクロ展望 世界経済の真実』水野和夫×萱野稔人)。

Ⅲ.金融空間への拡張と最終的な失敗
 交易条件の悪化によって実物経済で儲けられなくなった先進国・特に省エネ技術などで遅れをとったアメリカ・イギリスなどは実物空間から金融空間への展開を図ることとなる。それが1980年代からの「国際資本の完全移動性」の提唱であり(日本国内の用語では「金融の自由化」であり、「聖域なき構造改革」)、世界の余剰マネーを掻き集めアメリカのコントロール下において自由に使おうとするもので、1995年から2008年の間に100兆ドルもの実物に裏付けのされないカネが作られた。そうした行き場のないカネが、ITバブル・住宅バブル・サブプライムローン問題などを生み出し、最終的に2008年9月のリーマン・ショックで崩壊することとなった。

Ⅳ.「スマートパワー」のストーリー
 フォーリン・アフェアーズ誌2010年12月号で、ハーバード大学のジョセフ・ナイも金融危機の結果、今後、アメリカの文化も経済も21世紀初頭のようなパワーを失い、世界的な優位を保つことはないとの認識を示している。しかし、軍事パワー領域は一極支配構造の状態にあり、アメリカはその大きな優位を当面維持していくとしている。中国はどれほど経済成長しようとも、その軍事力と経済力がアメリカの覇権を脅かすほどにまで大きくなることはまずない。それにははるかに時間がかかるし、中国はそれを達成する前に政変が起きるとする。アメリカの覇権を脅かすのは、日中韓が一体化した東アジア共同体だけであり、この3国が共同体を形成してしまうと、アメリカをはるかに上回る力を持つことになる。したがって、アメリカの戦略としては日本と中国の仲を悪くさせ、東アジア共同体ができる可能性の芽を摘むことであるとし、アメリカが主導して日中韓の仲を裂き、日本、インド、オーストラリアその他の国を「エンゲージ」して、中国に対抗させ、中国のパワー増大というリスクに備えた保険とする。力の衰えた米国は他国の力を借りなければ望むような結果は出せないことを認識したうえで、情報化時代におけるハードパワーとソフトパワーリソースを組み合わせた「スマートパワー」をいかに形成するかだと説く。

Ⅴ.基軸通貨体制とその揺らぎ
 1971年のニクソン・ショックによってドルと金との兌換が停止された。その後のドルの基軸通貨としての価値を実質担保してきたものは石油である。ドルが基軸通貨だからこそ、アメリカがいくら財政赤字で経常収支も赤字でも、中国や日本をはじめ各国はドルを買い支えてくれる。結果、ドルはアメリカに還流し、それでモノも買えれば逆に世界各国に投資もできる。しかし、1999年1月より統一通貨ユーロが発足して以降、ドルの基軸通貨としての地位は揺らいできている。石油のドル取引という基軸通貨の根幹を揺さぶろうとしたのが、イラク・フセイン政権の石油のユーロによる取引きであった。アメリカによるイラク戦争の真の目的はユーロによる石油代金の決済を阻止することにあった(『金融危機の資本論』本山美彦×萱野稔人:2008)。
 基軸通貨ドルの威信の低下を決定的に示したのは、11月12日にソウルで開催されたG20である。アメリカは会議を前に「経常収支数値化 (経常黒字・赤字を一定範囲に収める)」というピ ンボールを投げて新興国を動揺させ、イギリスやカナダ、豪州などアングロ・サクソン・グループによる中国包囲網を画策したが、逆に中国・フランスなどによる逆包囲網により孤立し「経常目標」はお蔵入りとなってしまった。結果として、ドルを世界中に散布するFRBの超金融緩和策は手足を縛られてしまった(福井:2010.11.13、「通貨戦争の行き着く先・ドルにそっぽ向くフランスと中国」倉都康行『エコノミスト』2010.12.14)。

Ⅵ.石油・資源の市場による支配
 1970年代以降、資源ナショナリズムにより、産油国の油田の多くは国有化され、石油価格の決定権は一旦OPECに移った。その価格決定権を奪ったのが1983年に創設されたWTI先物市場である。WTIはアメリカ南部のテキサス州を中心に産出される原油でアメリカ国内で産出される原油の6%・世界で産出される原油の1~2%ほどでしかないが、その価格は世界の原油価格の中で最も有力な指標となっている。実際のWTIの1日あたり産出量は100万バレルに満たないにもかかわらず、先物の1日あたり取引量は100倍の1億バレルを超えるという「現物」抜きの詐欺的市場であり、石油を金融商品化することによって、カネの力で市場を操作し価格決定権を取り戻したのである。
だが、ロシアと中国は2010年9月に東シベリア・タイシェットから国境・スコボロジノを経由して中国黒竜江省の石油化学工業の中心大慶を結ぶ「太平洋石油パイプライン」第1期工事を完成した。ロシアでは引き続きスコボロジノから極東ナホトカまでの第2期建設を始めている。2014年に完成を予定であり、東シベリア産原油のアジア向け輸出を拡大する。ユーラシア大陸の原油がパイプラインで結ばれることは、アメリカによる市場支配(海洋支配)からの離脱を意味する。原油取引は相対取引であり、ドルの支配から逃れ、ルーブル=元などによる取引が可能となる。また、ロシア・ガスプロムと中国とのガスパイプライン交渉も妥結し、2015年には西シベリアからの天然ガスが中国に供給されることになる。

Ⅶ.ユーラシア大陸
アメリカは大西洋と太平洋の2つの海洋からユーラシア大陸を取り囲んでいる。大西洋の先には金融資本の母国イギリスが、太平洋の西側には属国・日本があり、中間にイスラエルを置いて西と東の両側から大陸に睨みを利かせる。しかし、このスペイン-オランダ-イギリス-アメリカと続いてきた海洋覇権の支配構造は今大きく揺らいでいる。1つは中国を始めとする新興国・40億人の経済発展によって、経済の軸足がアメリカから新興国・特にユーラシア大陸に傾いているからである。2つには金融危機により再び金融が実物経済よりも儲かるという時代は終わり資金がアメリカに環流しなくなったからである。3つには海洋を通過せずにパイプライン・鉄道・道路によりユーラシア大陸内陸部をつなぐ手段が開発されてきたことである。4つには基軸通貨ドルに代わりうるユーロという通貨ができたことである。今後ともしばらくはアメリカの軍事力の優位性は動かないであろう。しかし、それは海洋を通過しない取引・国際金融資本の支配下から離れた取引が活発化するにつれますます空洞化するであろう。6月29日に中国―台湾間で経済協定が結ばれたことにより、既に、東シナ海ではジョージ・ワシントンやカールビンソンの増派ではとても埋めきれない海洋覇権の綻びができつつある。新防衛大綱は南西諸島の防衛力を強化するため「動的防衛力」を掲げるが、与那国島の西に人為的な崖を作るのか、日本をユーラシア大陸の大陸棚の一部として位置づけるのか先は見えている。クリントン政権時代の国防長官ウィリアム・J・ペリーは「日本のような同盟国に対して、私は正直に米軍が二正面作戦の遂行能力を持っていないことを伝えるべきだ」と思っていると正直に書いているが(日経:「私の履歴書」2010.12.17)、事を全く理解できないのは、前原外相や長島昭久らだけである。 

 【出典】 アサート No.397 2010年12月24日

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