【投稿】軍拡進める新防衛大綱 

【投稿】軍拡進める新防衛大綱 

<「仮想敵国」を明確化>
 今年3月、北朝鮮が韓国海軍艦艇を撃沈、9月には尖閣諸島近海で海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件が発生、さらに、11月23日の北朝鮮による韓国延坪島砲撃、これらに対する日米韓の大規模軍事演習の展開など、東アジアの緊張を高める憂慮すべき事態が連続した。
 こうしたなか日本政府は12月17日新たな「防衛計画の大綱」(新防衛大綱)と「中期防衛力整備計画」(中期防)を決定した。新防衛大綱では、「基盤的防衛力構想」から「動的防衛力」への変更を掲げ、中国の軍拡と影響力拡大を「地域・国際社会の懸念事項」と明記。部隊編成も南西方面重点に切り換え、海上、航空自衛隊の増強を図るという、中国を事実上仮想敵国と明確にした軍事ドクトリンを打ち出した。
 今回明らかにされた大綱、計画は、中国、北朝鮮の動向を受けてのものと思われがちだが、「基盤的防衛力構想」の転換、「武器輸出3原則」の見直しなどの内容は、政権交代以前から防衛省によって周到に準備されていたものであり、今回の決定は追認にすぎない。
 麻生内閣時代から検討が始まった新大綱は、09年12月策定予定だったのを、鳩山政権成立を受け1年先送りすることとなった。その間に一連の事態が発生したわけであり、それらのことが新大綱の危険な内容に免罪符を与える事となった。

<基盤的防衛力構想とは何か>
 新大綱の最大の要点である「基盤的防衛力構想から動的防衛力への変更」については、「基盤的防衛力」を「自衛隊の部隊を全国均等に配置する考え」などという、部隊運用の問題であるかのような解釈が流布されているが、これはとんでもないすり替えである。
 「基盤的防衛力構想」というのは、1976年に初めて制定された防衛大綱で導入されたものである。これは、極東ソ連軍の兵力に係わらず、限定的な侵攻に対処しうる最低限度の常備兵力を保持し、これを超える有事の際は「戦力の急速な拡大」などをもって対処するという基本方針である。
 これは、ソ連軍に対抗し、日本も随時兵力を増強すべきという、陸上自衛隊(制服組)を中心に主張されてきた予算、権益拡大のための「所要防衛力構想」では、軍拡に際限がなくなるのを封じ込めるため、内局(背広組)が創りあげた構想であった。
 1954年の創設以来、4次にわたる防衛力整備計画を経て、自衛隊とりわけ陸自の兵力は当時21万5千人にまで増大、さらに陸上幕僚監部は24万人体制を要求していたというが、防衛大綱制定により頭打ちとなった。
 言ってしまえば「基盤的防衛力構想」というのは、有事に「急速な戦力の拡大」など間に合うはずもなく、本気でソ連の侵攻など考えていないことの裏返しであったのだが、「憲法9条」「専守防衛」という枠組みを逸脱しないための歯止めでもあった。これに基づき各自衛隊の隊員、正面装備の定数に「たが」がはめられていたわけである。 
 ただ厳密にいえば隊員数と装備の数は同一に論じることはできない。戦車、戦闘機、護衛艦は同じ定数であっても、個々の性能が向上すれば大幅な戦力増強が可能となる。もっとも、性能向上には調達費増が不可分で、それには「防衛費GNP1%枠内」という蓋があった。

<軍縮から軍拡へ>
 制服組としてはなんとか「基盤的防衛力構想」をとっぱらいたいと望んでおり、79年のソ連のアフガン侵攻以降の情勢を踏まえ、86年に策定された中期防衛力整備計画をばねに一層の軍拡を目論み、87年には中曽根内閣で防衛費GNP1%枠が撤廃された。しかし直後のソ連崩壊で第1の仮想敵国が「消滅」するなど、80年代後半は自衛隊の希望とは逆方向に情勢は進んだ。
 90年代に入ると、北朝鮮の核や弾道ミサイル開発で朝鮮半島の緊張が高まり、軍拡のチャンスが訪れたかに見えたが、北朝鮮では役不足であり、さらにバブル崩壊後の経済状況下では、それどころではなく、1996年の防衛大綱では陸自の定数は16万人とされた。
 ところが2000年代に入ると、中国の著しい経済発展と軍事力増強という、あらたな展開が惹起してきた。さらに同時多発テロに続くアフガン、イラク戦争でアメリカの世界戦略見直しに拍車がかかり、東アジアで日本が軍拡を進めるまたとない機会が巡ってきたのである。
 そして2004年、第2次小泉内閣で約10年ぶりに防衛大綱が改定された。そこでは、国際テロなどに対応し、抑止重視から対処重視への転換=「多機能弾力的防衛力構想」、国際貢献活動の基本任務格上げなどが明示された。しかし基盤的防衛力の有効な部分は維持することとなり、また小泉総理は靖国参拝で中国との緊張状態をつくりだし、イラク派兵を強行したが、軍拡自体には熱心でなかったため、自衛隊にとって「半歩前進」という結果となった。
 その後06年の郵政解散のどさくさの中で閣議決定された防衛白書では、中国の台湾侵攻と尖閣諸島攻撃に言及、これへの対処を促進させる内容が盛り込まれた。小泉政権後、福田はともかく、安倍、麻生というタカ派内閣下、自衛隊は改訂から5年足らずで、大綱の見直しを進めていく。そして最初に述べたように09年8月に新大綱の叩き台となる「安全保障と防衛力に関する懇談会報告書」が作成されたのであるが、直後の政権交代で改訂は1年先延ばしとなった。当然、内容的にも軍拡に歯止めがかけられる方向での再検討が進むと思われたが、普天間基地問題を巡る鳩山内閣の迷走で、自衛隊、防衛省の思惑どおりに進むことになる。

<軍事費は素通りで「空母」建造>
 新政権下、事業仕分けなど様々なチェックを経て09年12月新年度予算案が閣議決定された。しかし防衛予算については防衛省の要求が社民党からもさしたる反対もなく、ほぼ要求通り通る見通しとなり、10年3月正式に予算化された。なかでも全長248m満載排水量24000tの「平成22年度計画ヘリ搭載護衛艦(22DDH)」(軽空母)建造が認められたことは、新大綱の装備的先取りともいえるものである。
 海上自衛隊のヘリ搭載護衛艦(DDH)は4隻体制で、現在順次新型艦に更新中であるが、それらは格段に大型化するため、満載総トン数は08年度までの27400tから約86000tに、搭載可能な哨戒ヘリは12機から48機へと飛躍的に戦力は拡大する。また、これら新DDHは小規模な改良でアメリカの「F35」戦闘攻撃機(航空自衛隊次期主力戦闘機候補)の垂直離着陸型を運用することが可能である。
 DDHを核とする海上自衛隊の対潜部隊は、ソ連の潜水艦に対抗するため整備された戦力であるが、ソ連崩壊で無用の長物と化しつつあった。しかし、近年の中国海軍潜水艦の増勢を理由に甦ったのである。これらは事実上の「所要防衛力」の構築である。
 これらは、現在62隻ある中国海軍の潜水艦を「第1列島線」の内側に封じ込める任務に充てられる。さらに新防衛大綱では、潜水艦定数は6増の22、護衛艦は1増の48隻とされ、そして艦艇だけでなく現有のP3Cに代わる国産のP1対潜哨戒機も配備予定である。近い将来海自の総兵力は、中国が空母を1隻程度戦力化しても「所要防衛力」をも超えていくのではないかと考えられる。
 鳩山総理は、普天間代替基地に関して「海兵隊ヘリの訓練は、これらのヘリ護衛艦で行えばいいのでは」とか「海兵隊は抑止力だと判ったなどと」の仰天発言を連発し、「東アジア共同体」すなわち東アジアにおける軍縮と緊張緩和政策を放棄したことを満天下にさらした。

<振り回される民主党>
 こうした民主党の基本姿勢は、菅政権でも継承され今回の決定に至った。自衛隊念願の「基盤的防衛力」の廃棄は達成された。しかし本来対置されるべき「所要防衛力」という概念は既成事実化しているため示されず「動的防衛力」という構想が示された。
 本来、それらは対立する概念ではなく「基盤的防衛力の動的運用」と言えば済むものである。実はこれまでも陸自は全国の部隊を北海道に急速移動させる「北方機動特別演習」を毎年のように行い、05年からは逆に北海道の部隊を本州に移動する「協同転地演習」という「基盤的防衛力の動的運用」を実施しており、ことさら新機軸のように言うことでもない。
 新大綱の「動的防衛力構想」とは、前大綱の「多機能弾力的防衛力構想」を一歩推し進め、先制攻撃をも含むだろう能動的戦力運用を基本方針とすることであり、「専守防衛」の形骸化ともいえる。
 今回、中国の脅威を理由についに「基盤的防衛力構想」は廃止され、「武器輸出3原則」も風前の灯である。陸自は隊員定数と正面装備の削減を飲まされたが「肉を切らせて骨を断った」も同然だ。次の自衛隊、防衛省の目標としては「集団的自衛権」の行使だろう。
 これについては、先の北朝鮮による延坪島砲撃の際、菅総理が「周辺事態法の適用云々」と述べたように、朝鮮半島でアメリカ軍が戦闘行動に入るような状況が惹起した場合、いつ発動されてもおかしくない。
このように自民党政権でできなかった軍事政策が次々と実現していっている。民主党政権は「政治主導」を言いながら、混沌とする情勢とナショナリズムに振り回されつつ自衛隊、防衛省に軽視され、いいようにあしらわれている。 
 鳩山前総理を公然と批判した陸自幹部自衛官や、尖閣ビデオを流失させた海上保安官が出てくるのはこういう背景があるからである。武官の政治問題といえば、古くは「超法規行動」の栗栖統幕議長から田母神空幕長までは将官の問題発言だった。しかし現在は様々な規制が解かれ、規範が緩むという空気の中「現場指揮官の問題行動」が懸念される事態となっている。
 政権交代の成果は着実に、しかし真逆の方向で現れている。野放図な軍拡に歯止めをかけるため、海自においては総トン数規制を導入するなど、早急にソフト面、ハード面にわたる暴力装置の適正な管理システムを構築しなければならない。(大阪O) 

 【出典】 アサート No.397 2010年12月24日

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