【書評】「ポピュリズムへの反撃-現代民主主義復活の条件」

【書評】「ポピュリズムへの反撃-現代民主主義復活の条件」
(山口二郎著、2010.10発行、角川書店、724円+税)

ついに、いや、やっと出版されたか、と感慨ひとしおである。
劇場型だとか、無党派層の反乱だとか、ここ数年を賑わせた政情にモヤモヤしたものを感じていたのは私だけではないだろう。
また、何となく「これはポピュリズムだ」と解釈しながらも、それ自体が一体何なのか、十分に理解しないまま言葉を使っていたことも事実である。
本書は、そういった疑問に対してスッキリと一つの答えを示してくれているばかりではなく、「反撃」の糸口をも示してくれているのである。

<本書の意義>
まず、山口氏は冒頭に「最近の日本の政治を見ていると、『今頃になって気がついた、しかしそれでは遅すぎる』ということが、いくつもあったような気がします。」と述べ、現在大きな社会問題となっている医療難民、介護難民、派遣切りなどを小泉政権時代の医療制度改革や規制緩和の当然の帰結であると指摘しつつ、国民が一時的であれあれ程「熱狂」したことについて、きちんと反省し、分析しなければ、同じことを繰り返すことになるとしている。
そして、そのことをポピュリズム=大衆のエネルギーを動員しながら一定の政治的目標を実現する手法、その動員に決定的に重要な意味をもつ言葉のあり様という切り口でもって考えようとしている。

<ポピュリズムの定義>
ポピュリズムとは何か。山口氏はイギリスの政治学者バーナード・クリックの言葉を借りて「ポピュリズムとは、多数派を決起させること、あるいは、少なくともポピュリズムの指導者が多数派だと強く信じる集団を決起させることを目的とする、ある種の政治とレトリックのスタイルのことである。そのときこの多数派とは、自分たちは今、政治的統合体の外部に追いやられており、教養ある支配層から蔑視され見くびられている、これまでもずっとそのように扱われてきた、と考えているような人びとである。」と定義している。
その際に決定的な役割を果たす「わかりやすい言葉」という欲求を利用した「単純化」と「二項対立」、そしてステレオタイプこそが、ポピュリズムの手法の危険性を表している。
<ポピュリズムへの批判>
「郵政民営化を成し遂げることが改革である」「ロクに仕事もしない郵政公務員を民間の会社員にしてしまえ」…大衆のもつ欲求と怨嗟を基盤にしながら、短いフレーズで「わかりやすく」煽ることにより熱狂的な支持を受けようとするやり方を我々は何度もみてきた。
しかしそこには、「なぜ民営化が必要なのか」「民営化が何をもたらすのか」といった冷静で論理的な思考は一切なく、ただ単に不満の矛先を「設定された」敵に向かわせ、圧倒的な支持さえ受ければ、「論点」としたこと以外の課題でも何をしてもいいとばかりに振舞うポピュリストの姿が浮かび上がるのである。
山口氏は他にも「官から民へ」「国から地方へ」「利益誘導」「ばらまき」「政治主導」「官僚制の打破」など、一世を風靡した「言葉」に対して、そのカラクリを暴露するとともに、ステレオタイプに加担したマスコミと学者を徹底的に指弾している。
また、最も直近の事例として、橋下・大阪府知事や東国原・宮崎県知事、鹿児島県阿久根市長の手法を「地方ポピュリズムの惨状」として批判し、地方政府が「大統領制」であり、強いリーダーが現れやすい反面、ポピュリズムが噴出しやすい土壌にあることを指摘している。

<ポピュリズムにはポピュリズムを>
では、そのようなポピュリズムに対して、我々はどう反撃していけばいいのか。
山口氏は、ポピュリズムをすべて否定し、これを叩き潰せばよいという単純な話はしていない。現代の民主政治には多かれ少なかれポピュリズムの要素が含まれることは不可避であるとした上で、ポピュリズムが本来持っていた強者への対抗、平等化のベクトルをうまく生かしていこう、と訴えている。
雨宮処凛の運動を引き合いに、偽物の「われわれと奴ら」という対立図式ではなく、客観的な利害状況に沿った対立図式で政治的な戦いを仕掛けること、「あなたたちが置かれている状況はこうであって、あなたたちの利害、抱えている不利益はこういうことなのだ」ということをわからせる手法として、また、政治参加を促進させる手法として、ポピュリズムという要素は必要であると説いているのである。
そして、小泉流の「われわれと奴ら」の線引きから、「敵味方」の線を引き直す必要性を指摘し、その点でマルクスを再評価し、一番大きな対立の構図は「やはり働いている人と人を働かせて利潤を取っている人の違い」としていることは非常に興味深い。
さらに、中間団体をいかに再生させるかが重要な手がかりだとして、無党派層と中間団体の間に線を引いた対立構造を壊すために、部落解放同盟や労働組合にもう一度戦う必要性さえ訴えていることは、我々にも多くの示唆を与えている。

<いざ反撃へ>
私の在住する大阪では、山口氏が本書で最も指弾している橋下・大阪府知事のポピュリズム手法が席捲している。
デマゴーグを駆使して木原氏を堺市長の座から引き摺り下ろした記憶も生々しい中で、定義さえ曖昧な「大阪都構想」こそが大阪を救う唯一の道であるという飛躍した論理を振りかざしつつ、大阪市長や大阪市職員をはじめとした公務員を仮想敵に設定し大衆の不満を煽って、来春の統一地方選挙から再来年の大阪市長選、府知事選まで、極めて綿密に戦略が練られている。
選挙にさえ勝てば全て白紙委任、何をしてもいいと言わんばかりの彼の危険な行動を何としても阻止しなければならない。
本書を手に、山口氏のいう「正確な現状認識と論理的な思考」をもって、今一度しっかりと「考える」ことの大切さを改めて肝に銘じ、反撃を急がなければならないのである。

(なお、本書は、講義録を基に書かれており、話し言葉で読みやすい内容となっているが、それ故に構成にやや難がある。また、新書であることの限界も相まって、客観的な資料や根拠の乏しいことが残念である。次なる著作を切望するものである。)
(大阪 江川 明)

【出典】 アサート No.396 2010年11月27日

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