【コラム】ひとりごと—若者はなぜ損をするのか– 

【コラム】ひとりごと—若者はなぜ損をするのか– 

○最近興味深い新書を読んだ。PHP新書6月新刊の「世代間格差ってなんだ—若者はなぜ損をするのか—」である。著者は、城 繁幸、小黒一正、高橋亮平の共著である。○お勧め本だからというわけではない。ちょっと複雑な思いもあるが、新しい見解として着目する必要があると考える。○現在そして今後少子高齢化が進む近未来において、若者が高齢者との比較において、雇用や社会保障、所得再配分や政治的発言の力などにおいて、「損をし続ける構造」を分析し、著者達なりの解決策を本書において提示している。著者のうち城氏は、かつて富士通の人事部における成績主義を明らかにした本の著者であり、その他の方は城氏と同世代の研究者である。○彼らは、昨年の総選挙前に「ワカモノ・マニフェスト」を立ち上げ、本書においても各政党の政策を、独自の視点から採点するなど、一定の政治的動きも示している。(http://www.youthpolicy.jp/)○大企業では中高年の雇用と賃金を守るために、若者の正規雇用が縮小され、非正規労働が蔓延している。そのため、若者の閉塞感が強くなっている。「今の若者たちを雇用面で不利な立場に追い込んでいるシステムとは何か。結論から言えば、それは「終身雇用」「年功序列」という従来の日本型雇用システムにほかならない」と。その解決策として、「それは、正社員雇用の流動化以外にない。つまり、正社員の賃下げと(一定条件での)解雇を認めることだ。それによって正規・非正規の壁は消えて無くなるだろう。賃下げが正規においても実行されれば、非正規の間で適正な競争が行われる。能力と熱意のある非正規労働者はどんどんレベルの高い仕事を与えられ、階層が流動化するのである。」雇用の流動化が必要だとするのである。○今後進む少子高齢化の中で、一層世代間格差は広がるという。年金・医療・介護の分野である。例えば年金の場合、現時点では賦課方式であるので、若い世代の保険料が、年金受給者の財源になっている。未来永劫、負担と受益のバランスが保たれるのであれば、賦課方式も妥当性があるが、今後の少子高齢化は、明らかに若い世代に不利益を生むのは必至だ。内閣府の平成17年調査では、年金や医療、社会サービス全体の負担と受益が公表されているのが本書で紹介されている。調査時点で60代以上の世代は、負担と受益を比較すると、4875万円のプラス、30歳台では、1202万円のマイナス、20歳台は1660万円のマイナス、その後の将来世代では、4585万円のマイナスとなり、その差は、最大9000万円を越えるという調査結果である。○年金については、賦課方式から積立方式に替えて、負担と受益を明解にする制度改正や、世代間の格差を是正する法案の制定を結論としている。○現状では、ワカモノ・デモクラシーに対して、シルバー・デモクラシーが力を持っているとする。例として、2007年の参議院選挙が取り上げられる。「0-30歳代の人口は全体の44.9%を占めているにも関わらず、総投票者に占める割合はわずか23.5%である。一方、60歳以上の高齢者の人口割合は28.1%であるのに対して、投票者数の割合は、40.4%に上る。」この傾向は、今後一層強まるという。若者の声よりも高齢者の声が強い実態があり、マスコミも高齢者に傾斜した報道が多いと指摘されている。さらに今後の予測として。投票者に占める高齢者の割合は増え続け、2050年には6割が60歳以上となる。(世代投票率を一定としたNPO推計)○こうした現状に、ワカモノ・デモクラシーを強める政策が必要だと本書は主張するのだ。○日本の社会保障は、高齢者向けに偏っており、若者向けは極めて少ないと指摘し、先進国の比較でも同様であると。(若者関連政府支出のGDP比較では、スウェーデン6.0%、フランス4.1%、日本1.6%OECD調査)そこで、子育てや保育、教育、労働分野での若者政策にさらに力を注ぐべきであり、教育機会格差の是正、公教育サービスの質の向上、子育て支援の充実、などの必要性が示されている。○本書は、政策パッケージとして、よくまとまっている面はある。非正規・不安定雇用労働者が、勤労者全体の3割という現状で、どうして結婚や子育てができるのか、という悲鳴にも似た声を反映もしている。しかし、政治的に収斂させると、各党マニフェスト比較では、特に雇用の流動化政策を明確にしている「みんなの党」の評価が高くなっている。(自民56.8、民主39.3、公明60.7、共産16.1、社民13.9、みんな83.7)○我々の世代は、労働運動・学生運動など社会運動では青年が運動の主軸という気概だけは持っていた。今の若者は本書の指摘する「損をする若者像」に怒りを感じるべきだし、政治的社会的発言・行動が求められていることだけは確かなことだろう。(佐野秀夫) 

 【出典】 アサート No.393 2010年8月28日

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